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図書館では、本は鎖につながれていた!?ヘンリー・ペトロスキー『本棚の歴史』を読む


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読書好きの方にとって、常に頭を悩ませる問題は、「本の収納をどうするべきか」ということではないでしょうか。

本を収納するために必要不可欠な道具は、「本棚」です。本棚は、古代から中世、そして現代に至るまで、本の形や読書スタイルの変化とともにその形を変えていきました。

今回は、そのような「本棚」という道具の歴史に焦点を当てた一冊をご紹介します。

 ■ご紹介書籍
本棚の歴史』 白水社
ヘンリー ペトロスキー/著、池田 栄一/訳

 

『本棚の歴史』から読み解く「本棚の歴史」

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書店や図書館に入った時や、人の家の書斎に招かれた時、最初に目につくもの、注目するものはなんでしょうか。それはきっと、「本」であって、本を並べている「本棚」ではないに違いありません。

この本の著者であるヘンリー・ペトロスキーさんは、土木工学の専門家ですが、「フォークの歯はなぜ四本になったか」や「ゼムクリップから技術の世界が見える」など、身近な道具の歴史を解説する本を多数出版しています。

ペトロスキーさんが今回注目したのは、「本棚」です。ある日彼は、「本棚」というものがいかに注意を払われずにいるかということに気づきます。

本棚はなぜ水平に作られているのか、そしてその上に本を垂直に置くのはなぜか、といった問いを発することにはたして意味があるのか? こうした事実は説明など要しないほど明白なのか?(p.8)

このような疑問を人々にぶつけてみると、どうも歴史学者のあいだですら、本棚の起源についてよく知られていないということが分かってきます。そして、本棚について調べていくにつれ、かつて本は鎖につながれていたこと、そして本の背が内側にくるように並べられていたことを知ります。

それでは、本棚はいかにして今のような形となり、背を外側に向けて収納するようになっていったのでしょうか。

 

図書館では、本は鎖につながれていた!?

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古代に目を向けてみると、本の形は今とはまったく異なっていました。当時は本は巻物(巻子本)で、帽子箱のような筒型の入れ物に立てて収納したり、整理棚に横向きに重ねて収納されていたりしました。

やがてコデックス(綴じた手写本)が主流になってくると、アルマリウム(ワードローブのような扉つきの戸棚)や、旅行カバンのようなトランク型のブック・チェストに収納されるようになります。

印刷技術のなかった当時、本は人の手で写本されていました。その写本の製作と保管の場として機能していたのが修道院です。修道院には本を管理する司書がおり、本を容易に外に持ち出すことができないよう、アルマリウムやチェストは複数の鍵によって厳重に管理されていました。当時、本は現在よりもずっと貴重な存在だったのです。

10世紀の終わりごろになると、徐々に蔵書量が増加し、管理しきれなくなってきます。そのため、図書室自体に鍵をかけられるようにし、アルマリウムからは扉がなくなります。しかし、人の目が行き届かず、本が盗まれたり破かれたりしやすい状態となりました。それを解決するため、ベンチつきの書見台に本が平らに並べられ、鎖につながれて展示されるようになったのです。

 

印刷技術の発展と本棚の変化

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印刷技術の発展は、本棚の姿も大きく変えました。たくさんの本が印刷できるようになり、図書館の蔵書はさらに増加の一途をたどります。本をさらに収納できるようにするため、書見台の上に棚がつき、やがて足元にも棚が設置され、現在の本棚に近い形になります。そして、この辺りから本が縦置きで並べられるようになるのです。

現在でも、よく体験することと思いますが、本を縦置きに並べると、本が少ないときは斜めに倒れてしまいます。まだ本が貴重で、図書館や個人の蔵書が少ないうちは、本は表紙を上にして平らに並べたり、積まれたりしており、本の背にはタイトルが書かれていませんでした。
本を縦置きするようになった、ということは、本が倒れることを心配することがなくなるくらい蔵書量が増えてきたという証でもあります。

印刷本が大量に生産できるようになると、もはや本を鎖につなぐ必要もなくなります。かつて、鎖は表紙の上部に取り付けられていたため、本を取り出しやすく並べるには背を内側にする必要がありました。本から鎖がなくなり、大量に印刷される本を管理するために背にもタイトルが印刷されるようになると、本の背を外側に向ける並べ方が主流となっていきます。

 

 

増え続ける蔵書への対処

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図書館の蔵書量はさらに増え続け、近代・現代に入ると、閲覧室に本棚を並べるだけでは対処できないほどになっていきます。こうなってくると、蔵書を保管するためだけの別の場所が必要になり、「閉架書庫」に本をしまうようになっていきます。

しかし、いくら書庫に本棚を並べて、詰め方を工夫したとしても、やがてスペースは足りなくなっていきます。本を探すには、どうしても本棚の前に通路が必要なのですが、この通路スペースも圧縮する必要が出てきました。

こうして生まれたのが、スライド式やローラー式の「可動書棚」です。本棚の下にレールをしいて、本棚が横に動かせるようにすることで、本棚をぴっちりと詰めて配置し、本を取り出すときにだけ本棚を動かして通路を作ることができるようになりました。これにより、通路スペースを収納スペースにあてることができるようになったのです。

しかし、どんなに工夫しても、いずれは収納スペースはいっぱいになります。それを見越し、「本の形」以外での保管も試されています。マイクロフィルムや電子本といったものです。

 

「本棚」から見える、進化のメカニズム

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本棚とその歴史を紐解くと、科学技術の進化が社会や文化などの環境と切っても切り離せない関係であることを知ることができます。そして、いつの時代も読書をする人々の共通の悩みは、「増え続ける本をどうするか」というものであり、なんだか古代の学者たちにも親近感が湧いてきます。

現在でも、この本が出版された当時(1999年)に比べると、電子本も広く普及しはじめていて、私たちはいま「本棚」の形がかわる、まさにその節目の時期を体験しているのかもしれないと感じさせられます。同時に、過去の例にならえば、電子本もいつかは収納スペースの問題にぶち当たるのではないかという予測も浮かんできます。

「本棚」に囲まれた読書好きの方のほか、技術の進化のメカニズムを知り未来予測に役立てたい、と考えるすべての方におすすめできる一冊です。

 ■ご紹介書籍
本棚の歴史』 白水社
ヘンリー ペトロスキー/著、池田 栄一/訳

 

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