世界一長い小説と日本一長い小説とは?
更新日:2019/10/6
みなさんがはじめて読んだ小説はなんでしょうか。
私はたしか、太宰治の『人間失格』だったと思います。えっ、理由? 本の厚みが薄かったからです……。
読書遍歴の多くは、本の厚みがあまりなくて、物語もあまり長くないものから始まるものですよね。
まさか大河小説として知られるトルストイの『戦争と平和』で小説ライフのスタートを飾った……なんて人はいないでしょう。100ページ、200ページ、300ページと次第にステップアップしていく方が多いはず。
しかし、「分厚い本なんて読み切れない!」なーんて言っても、分厚い本にだってもちろん終わりがあります。
ところで、そもそも「もっとも長い小説」はどんな作品なのでしょうか。
調べてみると、全編1,200ページほどある『戦争と平和』が可愛く見えるほどのモンスター級の小説が見つかりました!
「世界一長い小説」はどのくらい長い?
♦『失われた時を求めて』(1913~1927)
『失われた時を求めて』
マルセル・プルースト(著)、岩波文庫
マルセル・プルーストの代表作『失われた時を求めて』は、「読んだことはないけど知っている」の代表格ではないでしょうか。
かくいう私も、「マドレーヌを食べて昔を思いだす話」程度の認識しか持っていません。
どのぐらい長いかというと、(Wikipedia情報で恐縮ですが)フランス語原書で3,000ページ、日本語訳では400字詰め原稿用紙10,000枚だそう。
ギネスブックで「世界最長の小説」として認められており、全7部、その文字数は9,609,000字に登ります。(いち、じゅう、ひゃく……きゅ、きゅうひゃくまん……)
これだけの大作ですが、文学史的評価は高く、また多くの読者を獲得しています。
もちろん日本も例外ではありません。
その証拠に、1930年代の初訳からコンスタントに新訳が登場。
2010年には吉川一義さん訳の岩波文庫版のシリーズがスタートし、同じ時期に、高遠弘美さん訳で光文社古典新訳文庫も出版されています。
ちなみに、この作品のあまりの長さを風刺した、 “Summarize Proust Competition”(プルースト要約選手権)というモンティ・パイソンのスケッチが存在します。
その長さは日本人をもうんざりさせたのか、Google検索では「失われた時を求めて」と入力すると、「失われた時を求めて 長い」がサジェストされます。
⇒光文社古典新訳文庫版はこちら『失われた時を求めて』
♦『ル・グラン・シリュス』(1649~1653)
マドレーヌ・ド・スキュデリー(著)
ギネスブックではプルーストの『失われた時を求めて』が世界最長の小説として登録されていますが、実はさらに長い小説があります。
※日本語訳された書籍は発売されていません。
『ル・グラン・シリュス』は、女性作家マドレーヌ・ド・スキュデリーが、兄ジョルジュ・ド・スキュデリーの名前で出版した17世紀フランスの大大大長編。
全10巻からなり、その総語数はなんと約2,000,000語……。
プロットもかなり複雑と言われており、登場人物も400人を数え、100を超える場面が交錯。いや、もう並大抵の気力では太刀打ちできません。
しかし膨大な長さにもかかわらず、フランス文学史における価値の高い作品なのです。
世界一長い小説シリーズ『宇宙英雄ペリー・ローダン』
『宇宙英雄ペリー・ローダン』
K・H・シェールほか(著)、早川書房
1961年にドイツから刊行されたスペースオペラ小説。複数作家による執筆で、リレー小説の形式がとられています。
なんとシリーズ数は、驚異の2800巻超えです……!
日本では、ドイツ版ヘフト2巻分を1冊として発売。2019年10月現在、その数は600を越えます。気力はもちろん、体力がないととても読めそうにありませんね……。
ちなみに『宇宙英雄ペリー・ローダン』は、売上世界一の小説シリーズとしてもギネスに認定されています。
他にもある長~い作品
世界一長いとは言えなくとも、負けず劣らず長い作品は『戦争と平和』に限らず多く存在します。
その中から、長さと文学価値を持った作品をいくつかピックアップします。
♦『特性のない男』(1930~未完)
『特性のない男』
ロベルト・ムージル(著)、松籟社
オーストリアの作家ムージルが残した唯一の長編小説ですが、未完に終わっています。その長さだけではなく、晦渋な文章、広すぎる話題もあいまって、読破が困難な作品です。
日本語翻訳も出ており、加藤二郎さんの訳版が入手しやすいと思います。
ドイツ文学圏では、Arno Schmidt作の『Zettel’s Traum』が1,334ページ。トマス・マンの『ヨセフとその兄弟』が1,492ページの長さを誇ります。
♦『非現実の王国で』(1911~約60年間)
ヘンリー・ダーガー(著)
子供たちを奴隷にする大人と戦う、少女戦士ヴィヴィアン・ガールズの物語『非現実の王国で』。これがもう、残酷な内容でして……。
謎多き作家ヘンリー・ダーガーの、15,000ページ、全15巻に及ぶ大長編。
ダーガー19歳の時に執筆を開始し、死の直前まで約60年もの間執筆が続けられた、まさにライフ・ワークともいえる作品です。
幼いこところから壮絶な人生を送っていた彼は、生涯引きこもりだったと言われており、作品も公表しませんでした。
ヘンリー・ダーガーの孤独な生い立ちから生まれた『非現実の王国で』も、彼の死後に「発見」されたのです。
続編『シカゴのさらなる冒険』もまた、10,000ページ近い超大作になっています。
『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』
ジョン・M・マグレガー(著)、小出由紀子(訳)
作品社
こちらは日本語版の画集。ジョン・M・マグレガーによる作品分析と、ヘンリー・ダーガーの妄想世界が広がります。
一見カラフルで美しいイラストなのですが、子供たちの目は虚ろ。文字では言い表せないような残虐なシーンがこれでもかと詰め込まれています。
日本一長い小説は『グイン・サーガ』
『グイン・サーガ』
栗本薫(著)、早川書房
栗本薫の『グイン・サーガ』が日本一長い小説。なんとその長さ、140巻超え!
栗本薫さんは130巻まで執筆。栗本さんが亡くなって以降も続きが発表されていますが、著者は複数体制となっています。
2004年、ギネスブック「世界最長の小説」への申請がなされましたが、残念ながら未完であることを理由に却下されました。
日本一長い時代小説は『徳川家康』
『徳川家康』
山岡荘八(著)、講談社
日本一長い時代小説は、山岡荘八の『徳川家康』。ギネスブックでも「世界最長の小説」のひとつに認定されています。
使用した原稿用紙はなんと17,400枚以上。徳川家康が逝去するまでの70年あまりが描かれています。
【番外編】世界一長いタイトルの作品は?
『ロビンソン・クルーソー』
ダニエル・デフォー(著)、岩波文庫
世界一長いタイトルの作品。それはみなさんご存じ、『ロビンソン・クルーソー』。
「え、短いじゃん」と思われたみなさま。
実は本作、初版につけられたタイトルがとっても長いことで知られています。
そのタイトルがこちら。
The Life and Strange Surprizing Adventures of Robinson Crusoe, Of York, Mariner: Who lived Eight and Twenty Years, all alone in an un-inhabited Island on the Coast of America, near the Mouth of the Great River of Oroonoque; Having been cast on Shore by Shipwreck, wherein all the Men perished but himself. With An Account how he was at last as strangely deliver’d by Pyrates.
(自分以外の全員が犠牲になった難破で岸辺に投げ出され、アメリカの浜辺、オルーノクという大河の河口近くの無人島で28年もたった一人で暮らし、最後には奇跡的に海賊船に助けられたヨーク出身の船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と不思議で驚きに満ちた冒険についての記述)
な、長い……!
とにかく「長い作品」読んでみては?
タイトルだけで物語の内容がしっかり読み取れてしまうほどの長さですね。
モンスター級の小説、みなさんもチャレンジしてみはいかがでしょうか。
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