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生きるヒントが詰まった本『やなせたかし 明日をひらく言葉』


更新日:2016/5/31

『やなせたかし 明日をひらく言葉』表紙

やなせたかし 明日をひらく言葉
PHP研究所

「手のひらを太陽に」や「アンパンマン」で有名なやなせたかし氏。あなたはやなせ氏にどんなイメージを持っているでしょうか?
作風から、明るく元気なイメージを持っている人は多いと思います。

実は、幼少期は劣等感に悩み、戦争を経験し、作品がブレイクしたのは七十歳手前と、やなせ氏の人生が順風満帆ではなかったことは意外と知られていません。

 

やなせ氏自身も、本書のまえがきでこう語っています。

”なんのために生まれて なにをして生きるのか”というのは、ぼくの作詞した「アンパンマンのマーチ」の一節だが、実はこの言葉は自分自身への問いかけであった。

ぼくは五歳のときに父と死別した。生まれたときは未熟児であった。この未熟児コンプレックスは、ぼくの生涯にわたってつきまとうことになる。

体力においても、才能についても、容姿についても劣等感があった。

ぼくのまわりの人々はみんな温和で善良であったから、ぼくはなんとか逆風の中で生きのびることができた。

それでも小学生のころに自殺したくなって、線路をさまよったこともある。原因は忘れてしまった。

(まえがき p3)

 

つらい幼少期を過ごしたやなせ氏ですが、どれだけ悲観的になったときでも、今日を生きることができたのだから明日もなんとか生きてみよう。と思いながら生きてきたと言います。

逆境の中でも、常に希望を胸に(それが自分を鼓舞するものだったとしても)生きてきたやなせ氏が、生きやすくなったのは人生も後半を過ぎた頃。

「なんのために自分は生きているのか」と考えるのだが、よくわからない。C級の漫画家として、わけのわからない人生が終わるのだと思うと情けなかった。

人生の最大のよろこびは何か?それはつまるところ、人をよろこばせることだと思った。「人生はよろこばせごっこ」だと気付いた時、とても気が楽になった。

(まえがき p5)

 

ここでは、本書『やなせたかし 明日をひらく言葉』を通して、生きるためのヒントをもらいませんか?

 

「アンパンマン」から学ぶ、正義と善悪、光と影

今や日本中で知らない人はいない「アンパンマン」ですが、成功した理由は何なのでしょうか。やなせ氏はその理由を「ばいきんまんの功績」と分析します。

もともと「アンパンマン」がつくられた当初、悪役はいたようですが、パンチのある存在感を持った悪役というのはいなかったようです。
試行錯誤しているうちに、”アンパンマン=食べ物、の敵とは何だろう? バイキンだ!”という考えに至り、ばいきんまんは生まれました。

やなせ氏は本書でこう書いています。

この世は善と悪、光と影でできています。

人の心にも善と悪の心があって、そのバランスがとても大事です。(p116)

 

絵でも、光が当たる部分を際立たせたいなら影をちゃんと描かなくてはいけないですよね。

正義を際立たせたいなら、悪を登場させることが必須なのだと。

甘いものには少し塩が入っているほうがいい。「毒」が入っていてはダメだけれど、スパイス程度の「悪」を入れることでぐっと面白いものになるのだと。

そして「悪」は、絶対的に悪いものではないことも書かれています。
バイキンは食品の敵ではあるけれど、アンパンをつくるパンだって菌がないとつくれない。助けられている面もあるのです。

つまり、敵だけれど味方、味方だけれど、敵。

善と悪はいつだって、戦いながら共生しているということです(p118)

 

バイキンだって、排除はするけど撲滅すべきではない。

ばいきんまんが「とどめだ!」と言いながらもアンパンマンを殺そうとしないのは、「善と悪は共存しなければいけない」というやなせ氏の深いメッセージが隠されているのです。

 

なんのために生まれて、なにをして生きるのか

”なんのために生まれて なにをして生きるのか こたえられないなんて そんなのはいやだ!”

これはアニメ「アンパンマン」のテーマソング「アンパンマンのマーチ」の一節です。

生きる意味を考えるということは、哲学の永遠の命題であり、重い問いかけです。

やなせ氏は言います。

よくわからないままであっても、考え続けて生きていけば、そのうちに、自分はなんのために生きているのかが見えてくる。

いつわかるかは、人それぞれだ。ぼくの場合、それがわかったのは、人生もかなり後半になってからだった。(p129)

 

「なんのために生まれて」きたのか、わからないまま人生を終えるのは本当に残念。そのために、考え続けて生きていく必要があるのですね。

自分を信じて、「なんのために生まれて」きたのかを考え続けた結果、生み出されたのがアンパンマンなのです。なんと、描き始めたのは50歳、アニメ化になったのは70歳になる手前。人生のピークは、いつ来るかわからないから人生って面白いのだなと感じさせられます。

大金持ちになったりしなくても、生きている間がおもしろくて楽しければ、それで充分いいのではないのかな?(p164)

 

アンパンマンがどんな敵に対しても素手で戦うのは、自分の力で困難を乗り越えていくことの証。私たちもアンパンマンのように、前を向いて生きていきたいものです。

 

「うどんこ」の生き方

人生は、きついなあと思うことの連続です。でも、過酷を乗り越えるところにこそ人生の醍醐味があるのもまた事実。
やなせ氏は本書でこのような言葉を贈ってくれました。

なるべく平和に、なるべく傷つかないで生きていこうと願っている。

それでも、なお、傷つくのだ。

だからこそ、懸命に生きる。

懸命に生きるとは、大好きなことをする。人を一心に愛する、ということに尽きる。何が大好きで、誰を愛するかがわかるまでは、あちこち歩き回り、たくさんのものを見ることだ。いろんなものに驚き、好奇心を持ち、心を躍らせ、感動することだ。

生きていればつらいことも山ほどある。それを避けて通らないで、泣くときは思い切り泣いて、さっぱりしたら、また、元気にいろんなことと闘って生きていく。

ぼんやりしているだけでは、生きているとは言えないのだ。(p153)

大事にしてきたのは「うどんこ」の生き方だ。

運を逃さず、鈍重に生き、根気よく好きなものを描き続ける。

立派な成功者は「運・鈍・根」なのだろうが、ぼくの場合は運も根気も人の半分ぐらい。だから、”う”と”こ”で「うどんこ」だ。

うどんこはパンにもうどんにもなって、人の飢えを満たせるしね。(p179)

 

それでも、私たちは明日をひらいていく

希望だけでなく悲しみや苦しみも経験したやなせ氏だからこそ、生み出された作品や言葉は、私たちの心の琴線に触れるのかもしれません。ついつい忘れがちな、大切なものを思い出すことができる一冊となっているので、苦しい時はぜひ読んでみてくださいね。

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