やなせたかし最初の絵本『やさしいライオン』親子の固い絆を描く
アンパンマンの作者、やなせたかしさんのアンパンマン以外の作品を読んだことがありますか?
今回は、やなせたかしさんが描いた最初の絵本『やさしいライオン』をご紹介します。
私は、幼稚園で『やさしいライオン』のアニメ映画を見たのがこの絵本を知るきっかけでした。大好きなお話で、絵本も何度も読みました。そして大人になった今でも、忘れられない一冊です。
優しく切ない親子の絆の物語、ぜひ一度手に取ってみてください。
『やさしいライオン』はどんなおはなし?
『やさしいライオン』
やなせたかし(著)、フレーベル館
★あらすじ★
やがいどうぶつえんに、みなしごのライオンがいました。
ぶるぶる震えていたから、名前はブルブル。
ブルブルを育ててくれたのは、犬のムクムク。やさしいお母さん、ムクムクに育てられたブルブルはやさしいライオンに育ちました。
しかし、大きくなったブルブルは、都会の動物園に連れて行かれてしまい、親子は離ればなれになって……
『やさしいライオン』について
『やさしいライオン』は、1975年にフレーベル館より出版されました。やなせたかしさんの、初めての絵本です。
シナリオを書く仕事もしていたやなせさんが、最初に「やさしいライオン」をラジオドラマにし、その放送後、絵本が出版され、紙芝居やアニメーション映画にもなりました。
当時やなせさんは、虫プロダクションの長編アニメ「千夜一夜物語」で美術とキャラクターデザインを務めていました。
虫プロダクションからアニメ映画製作の提案を受け、製作:手塚治虫さん、原作、演出、美術:やなせたかしさんで「やさしいライオン」のアニメ映画が製作され、毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞しています。
わたしが初めて『やさしいライオン』を知ったのは、このアニメ映画がきっかけでした。幼稚園の頃に初めて観て、それから何度か観る機会があり、私の幼い頃の記憶としてずっと残っている映画です。
やさしいタッチと、やさしい歌がとても印象的で、切ないけれど大好きだったのを覚えています。
親子の固い絆を描く
この絵本は、ブルブルとムクムクの親子の固い絆を描いた絵本です。
離ればなれになった親子が、お互いを強く想う姿が描かれており、やなせさんの優しいタッチと優しい言葉で綴られた物語の中にある切なさに、私のように読んで泣いてしまう大人もいるのではないでしょうか。
やさしいライオンのブルブルはライオンの宿命か、都会の動物園に連れていかれてサーカスに出ることになります。人気者になったブルブルでしたが、夜になるといつも、子どもの頃に聴いたお母さんのムクムクの子守唄を思い出すのです。
故郷を離れて暮らしている人などは、同じような経験をした人もいるかもしれませんね。子守唄ではなくとも、離れて暮らしていると、ふとした瞬間に家族のことを思い出すことがあると思います。
血の繋がりはなくても、遠く離れていても、親子は親子。子が親を、親が子を想う気持ちは、こんなにも強いものなのだと、改めて感じさせられる作品です。
正義とは何かを考える
やなせさんの代表作となった『アンパンマン』は『やさしいライオン』のあとに描かれた作品です。
アンパンマンといえば、おなかがすいている人に「ぼくの顔をお食べ」と、自分の顔をあげるシーンは有名ですよね。
戦争で飢えた経験をしたやなせさんが、正義とは何か、と考えた時に「本当の正義とは飢えて苦しんでいる人がいれば助けること。一切れのパンをあげる人こそ正義の味方である」と思い、アンパンマンが登場したのだとか。
『やさしいライオン』では、人間の「正義」の行動に、思わず「やめて!」と言ってしまいそうになります……。
何が「正義」であるか、全世界の人が皆、同じように考え、思うことは不可能です。人同士だってそうなのだから、人間にとっての「正義」とライオンにとっての「正義」は違っていて当たり前です。
戦争を体験したやなさせんだからこそ、それぞれが持っている「正義」が食い違うやりきれなさや「運命」に翻弄されていく姿が描かれているような気がしてなりません。
しかしラストは、わたしたちに「希望」という想像の余地を、沢山残してくれています。
やなせさんの初めての絵本を味わって
ブルブルは立派なライオンに成長しました。
しかしムクムクは年老いていきます。遠く離れた二匹は再会できるのでしょうか。
この絵本には、巻末に「ブルブルの子守唄」の歌詞と楽譜が掲載されています。
ブルブルがサーカスの檻の中で思い出すのは、ムクムクに背負われて聴いた、この子守唄です。
やさしいタッチとやさしい言葉、そして切なさに溢れた、やなせさんの初めての絵本。
ぜひ手に取ってみてください。
今回ご紹介した書籍
『やさしいライオン』
やなせたかし(著)、フレーベル館
やなせたかしさんが教えてくれる「生きるヒント」がここにある。