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明治を代表する内村鑑三、新渡戸稲造、岡倉天心の著書を読む


明治時代以降、グローバリズムの勢いはとどまることを知りません。

そのなかで、福沢諭吉をはじめとする多くの人々の努力あって、西洋文明の輸入が進み日本は豊かになりました。

しかし、およそ100年前の西洋から東洋への奔流のなかで、流れに逆らうかのように日本を西洋に紹介した英文著作も出版されました。
それらの英文著作はそれぞれ思想や切り口に違いがあるものの、どれも日本の伝統的なあり方、アイデンティティーの一面を示しています。

こうしたなかで、かつて欧米に向けて書かれた日本に関する著作は、図らずも西洋になじんだ現代の日本人にとって新しい意義を持つようになっています。

このコラムでは、内村鑑三、岡倉覚三(天心)、新渡戸稲造の3人の著作を取り上げます。

 

『代表的日本人』 内村鑑三

代表的日本人
岩波書店

西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の生き様を記した『代表的日本人』は、日露戦争後の1908年に英文で刊行されました。
『代表的日本人』という題名は親しみにくい感じですが、内容は偉人伝であり、文章(訳文)も読み易いです。

正確には、この本は内村が「義戦」と捉えていた日清戦争期に書いたものを改訂したものです。

日露戦争には反戦の立場をとっていた内村鑑三はこの著作の序文において、戦争に走った日本への失望を「わが国に対する愛着はまったく冷めている」と表明しながら、「わが国民のもつ多くの美点に私は目を閉ざすことはできない」と書いています。

ですから、この本の焦点はナショナリズム的な日本国家論よりも、むしろ日本人に焦点を当てた、キリスト教的人類愛の強く現れた著作になっています。

「天」「天命」「自然の摂理」といった概念が頻出するなど、随所に内村鑑三の思想の反映が伺え、普通の偉人伝とは一線を画した著作になっている点にも注目です。

 

『代表的日本人』に登場する5人は、いずれも血気さかんな英雄からは遠く隔たった存在です。

西郷隆盛の章も江戸の無血開城や、彼の繊細さ、優しさに焦点が当てられています。

唯一、日蓮上人だけがいくらか闘争的な人物として描かれますが、章の最後に内村は「闘争好きを除いた日蓮、これが私どもの理想とする宗教者であります。」と、注意書きを残すことを忘れません。

5つの章どれをとっても読者に尊敬と勇気を与える内容ですが、とりわけある政治家の発言によって「上杉鷹山」の章が一躍有名になりました。

その政治家とはジョン・F・ケネディ氏。

ケネディ氏は「最も尊敬する日本の政治家はだれか」という質問に対して、上杉鷹山の名前を挙げた、というのです。

筆者は確かなソースを見たことがなく、日本人による創作だと思っていました。
しかしキャロライン・ケネディ駐日大使が「父は上杉鷹山を尊敬していた」という趣旨の発言をしたことで、噂の真相が明らかになりました。

ケネディ氏も賞賛した上杉鷹山の生き方は、あらゆる境遇の人の参考になるものであると思います。
もちろん教訓なんて考えずに読み物として読んでも一級品です。

 

『代表的日本人』をより面白く読むためには、内村鑑三の講演『後世への最大遺物』をあわせて読むことをおすすめします。

内村はこの講演において、人間の生き様とはどのような意義をもつかに関し、彼の考えを述べており、その考えは『代表的日本人』の背後にも認められるでしょう。

ちなみに私見ですが、内村鑑三の英文は、彼が聖書を愛読していたからか、蒼然たる格調をたたえた文章であると感じます。
なお岩波文庫の解説では、内村の英文体は教会の説法のような文体、と書かれていました。

『代表的日本人』関連書籍をみる

 

『茶の本』 岡倉覚三(天心)

茶の本
岩波書店

岡倉覚三は、横浜の商人の息子として生をうけ、幼い頃から生の英語に触れていました。一方で、日本や中国の美術史にも精通するなど国際的な感覚の持ち主でもあります。

そんな彼が1906年に英文で書き上げた著作が『茶の本』です。

岡倉はこの本のなかで、“Teaism”という概念を打ち出し、中国から日本へ伝わってきた茶と、それにまつわる茶道の精神を西洋の読者に向かって説いています。

禅や道教の精神を重視し、まるまる一章をその説明に費やしている点、平和への願いがところどころに顔を出す点が特徴的であると言えるでしょう。

単純に茶道の歴史としても読めますし、日本の文化や精神論としても読めます。
読む際には、1906年という年における日本と西洋の関係がどのようなものであったか、を念頭に置くとより楽しめるのではないかと思います。

 

岡倉天心はほかにも英文著作を残しています。

『日本の目覚め』は、1903年、日露戦争前夜に出版されたため、茶の本と比べると、政治的色合いの濃い、過激とも言える内容です。

岡倉の未公開稿『東洋の目覚め』ほど過激ではないものの、西洋との調和という一面がプッシュされた『茶の本』と比べると、日本と西洋の対立にスポットが当てられた作品になっています。
少々個性が強く、歴史認識の誤りもあることを念頭におく必要がありますが、開国以降の日本の一つの歴史解釈としても楽しむことができるでしょう。

 

『東洋の理想』は、西洋の読者に向けて書かれた、日本および中国、インドの芸術的・精神的交流を描いた作品です。

そのなかの一言、「アジアは一つ」という言葉はのちに一人歩きし、岡倉天心がパン・アジア主義の擁護者として言われる原因となった著作。
だからこそ一度読んで、岡倉の基本姿勢はアジアと西欧の相互理解を高めることにある、ということを自分の目で確認する必要がある一冊です。

この著作は岡倉のインド滞在の影響が色濃く、インドを重視している点が特徴です。

『茶の本』関連書籍を見る

 

『武士道』 新渡戸稲造

武士道
岩波書店

かつての5,000円札の肖像としても知られる、新渡戸稲造の代表的著作が、英文で書かれた『武士道』です。
内村鑑三とおなじく新渡戸もまた、札幌農学校で聖書を学び、キリスト教に入信しました。

出版は1900年。
当時は眠れる獅子と恐れられた清に対して戦勝をおさめたことで、日本に対する欧米列強の興味関心がにわかに強まっていた時期です。

セオドア・ルーズベルトやケネディが『武士道』を愛読していた、という話も有名です。
また、ボーイスカウトの祖、ロバート・バーデン・パウエルも『武士道』に感銘をうけ、武士道を彼の理念に組み入れたそうです。

 

新渡戸が『武士道』を書いたのは、日本における道徳観念の基礎となる考えを海外へ紹介することがきっかけでした。

海外、とくに西欧の読者を想定しているため、騎士道精神(Chivalry)との対比や、西欧の歴史的人物を引き合いに出した叙述が特徴です。

新渡戸の説く武士道は理想化されすぎであるとの批判もあります。
しかし海外ではBushidoはWabisabi(侘び寂び)と並ぶ日本の看板概念のようになっていますから、現代においても読む意義のある一冊であると思います。

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日本を見つめなおしてみませんか?

内村鑑三、岡倉覚三、新渡戸稲造の3つの英文著作を紹介しました。

100年以上昔の本ですが、TV番組で紹介されたり、対訳本が出版されるなど、再び脚光を浴びています。
読んでいない方も多いのではないかと思いますので、一度外国人になったつもりで日本を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

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