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没後100年! 明治の文豪・夏目漱石を読む


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夏目漱石は1916年、大作『明暗』を執筆中に亡くなりました。享年50でした。
それから100年たった2016年、夏目漱石は明治の文豪のなかでも突出した人気をキープしています。そういえば、しばらく前までは文学に興味がない人でさえその顔を見ない日はない、というほどポピュラーでしたよね。(1000円札の話です。一応。)

肝心の夏目漱石の作品がどれほど読まれているのか確かなことはわかりませんが、私の周囲を見てみる限り、『坊っちゃん』と『吾輩は猫である』は読んだことがあるけれど、あとはちょっと…、というのが多数派ではないかと推察します。

一生に一度しかない夏目漱石没後100年を機に、今年はたくさん漱石の作品を読んでみませんか?というわけで、ちょっとした読書案内を作りました。

 

0. どの出版社の本を選ぶか

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漱石の著作は著作権が切れていますから、色々な出版社から作品が出ていて迷うところです。
どのエディションを選ぶかについては、個人の好みでしょう。本文に差異はありませんから、フォントやデザイン、注釈、解説を基準に気に入ったものを選んでください。
ちなみに、私はフォントや背表紙の赤色に惹かれたため、できる限り新潮文庫で揃えています。新潮文庫以外では、ほぼ全作品が網羅されている岩波文庫、新しく出た集英社文庫がおすすめでしょうか。

なお、無料の青空文庫版という選択肢もありますが、漱石の作品を注釈・解説無しで読むのはかなり難儀しますので、おすすめしません。

 

1. まずは『坊っちゃん』、『吾輩は猫である』から

やはりこの2作品が読みやすく面白いです。江戸っ子らしい軽妙な文体がよく出た『坊っちゃん』は、学校の課題図書で読んだ方がほとんどでしょうか。もし、「親譲りの無鉄砲で小供の時から〜」しか覚えていなかったら、もう一度読んでほしいところです。

『吾輩は猫である』も、冒頭の一文が有名になりすぎた感がありますが、それほど読みにくいわけでもなく、最初の一冊に適しています。個人的には冗長に感じる部分がありますが、電車で読むにはぴったりです。

 <豆知識1>
★『坊っちゃん』に出てくる「赤シャツ」のモデルは漱石自身。

(以下引用)
「坊ちゃん」の中に赤シャツという渾名あだなをもっている人があるが、あれはいったい誰の事だと私はその時分よく訊かれたものです。誰の事だって、当時その中学に文学士と云ったら私一人なのですから、もし「坊ちゃん」の中の人物を一々実在のものと認めるならば、赤シャツはすなわちこういう私の事にならなければならんので、(講演『私の個人主義』より)

<豆知識2>
★『吾輩は猫である』には元ネタがある。
哲学的な猫を通じて世情を分析する、という斬新な設定は実は、ドイツのE.T.A.ホフマンの『牡猫ムルの人生観』を元ネタにしています。この牡猫ムル、『吾輩は猫である』の最後のほうで言及されています。お探しあれ。

<豆知識3>
★『吾輩は猫である』に登場するもう一匹の有名猫
『猫』第2章において「グレーの金魚を偸ぬすんだ猫」という一節があります。これは、18世紀イギリスの詩人トマス・グレイの詩「金魚鉢で溺死した愛猫を悼む」(英:Ode on the Death of a Favourite Cat, Drowned in a Tub of Gold Fishes)という詩に言及しています。実はこの詩が物語の伏線だったり…

 

2.『夢十夜』などの中編と『道草』などの自伝的作品

よくある漱石の紹介書では、『坊っちゃん』、『猫』に続いて『草枕』や、いわゆる前期三部作を勧めますが、それらはいきなり読むには案外読みにくいと思います。
代わって私がおすすめするのが、『文鳥』『夢十夜』『二百十日』『野分』などの中編作品。『私の個人主義』などの講演を収録したものもおすすめです。

中編作品でとくに読んでいただきたいのが、『二百十日』と『野分』です。
前者はほとんどが会話文からなる落語のような話で、私は『坊っちゃん』に匹敵する面白さであると思います。一方の『野分』は、理想が高すぎて社会に馴染めない学者と進路に悩む学生の話で、途中繰り広げられるお金の議論を含め、なお色褪せない魅力があります。
『二百十日』と『野分』は題名的にもつながりがあるので、二作品を一冊におさめたものをおすすめします。

漱石の作品はどれも自伝的要素が濃いですが、『硝子戸の中』と『道草』は漱石自身を知る上で、早めに読んでおきたい作品です。
『硝子戸の中』は、漱石晩年の作品で味わいのある随筆です。分量も多くないですし、漱石が飼っていた犬の話など、面白いエピソードもあります。漱石の犬の名前がなんだったか、ぜひ読んで確かめてください。『道草』からは、養子時代の漱石の心情や、父親としての漱石、漱石と鏡子夫人の関係といったものが伝わってくる作品です。

ちなみに先ほど挙げた『私の個人主義』もかなり自伝的な要素の強い作品になっています。もっと漱石を知りたい方には、鏡子夫人が書いた『漱石の思い出』や半藤一利の『漱石先生ぞな、もし』がおすすめ。

 

3. 長編は読みやすい前期三部作から

漱石の人となりを知ったら、読みやすい前期三部作『三四郎』『それから』『門』がおすすめです。すこし凝った文体で読みにくくはありますが、『虞美人草』、『草枕』も名作です。
『三四郎』の美禰子や、『虞美人草』の藤尾といった漱石の女性の描きかたや、『それから』に描かれる、抉るような心理描写が読みどころです。こうした内面描写は、漱石の後期作品でより顕著になります。

<豆知識4>
★『草枕』を愛したピアニスト
海を越えたカナダに『草枕』を愛したピアニストがいました。グレン・グールドです。彼はラジオで『草枕』、正確にはその英訳“The Three-Cornered World”(三角の世界)を朗読するなど、『草枕』を終生愛しました。『「草枕」変奏曲―夏目漱石とグレン・グールド』という書物も出版されています。

 

4. 心理描写にこだわった後期三部作

漱石は持病の胃潰瘍に悩まされました。『吾輩は猫である』においても主人の苦沙弥(くしゃみ)が胃薬「タカジヤスターゼ」を服用する場面が登場します。それはさておき、漱石は『門』を完成したあとの1910年夏、胃潰瘍によって危篤に陥ります。いわゆる修善寺の大患です。その後書かれたのが、『彼岸過迄』『行人』『こころ』からなる後期三部作です。『彼岸過迄』は『門』の雰囲気を引き継いだ、中編集のような趣で、淡々と話が進んでいきます。淡々とした文章は『行人』と『こころ』にも受け継がれますが、ここでは容赦ない人間批評が鋭さを増します。個人的には『行人』のラスト、一郎が心情を吐露するシーンにグッときました。

<豆知識5>
★東大医学部には漱石の脳みそがある
有名な話でしょうか。漱石の死後、彼の脳は東大に寄贈されました。重さは1425グラムだったそうです。ちなみに、東大医学部がある本郷キャンパスには「三四郎池」が、東大教養学部がある駒場キャンパスには「一二郎池」があります。

 

5. まだまだ読みたい方に

まだ物足りない漱石好きには、未完の『明暗』、専門的な『文学論』『文学評論』、あるいは漱石の日記や書簡が残されています。また、初期の美文調が印象的で難解な『倫敦塔』『幻影の盾』も有名です。ちなみに私は『明暗』と『文学論』は未読で、『幻影の盾』は挫折しました。まだまだ漱石マニアの道は遠い…

<豆知識6>
★2016年、『道草』の自筆原稿が見つかった。
没後100年を迎えた2016年3月、『道草』の直筆原稿の一部が神奈川県で発見されました。推敲のあとや、意外に丸くてかわいい漱石の筆跡が確認できます。

 

おわりに

以上、読書案内は私が読みやすいと考える順番に並べてみましたが、短いものから読んでもよし、執筆順に読んでも良し、好きなものから読んでいただいて構いません。
せび参考にしていただければ幸いです。
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