ブラックユーモアたっぷりの小説10選|毒がきいている名作!
更新日:2019/8/7
たまには毒のある小説を読みたい、そんなことを思ったことはありませんか? そんなときにおすすめなのが「ブラックユーモア」あふれる作品です。
「ブラックユーモア」とは、社会的にタブー視されていること、あるいは人間の不条理を皮肉たっぷりに描いて笑いをとろうとすることです。
さかのぼれば、なんとブラックユーモアの歴史は古代ギリシャにまで通じるといいます。
ここでは、心の毒を昇華して笑いに変えてくれる……そんな小説をご紹介します。
あの有名な寓話が現代風に!
『未来いそっぷ』
『未来いそっぷ』
星新一(著)、新潮社
『アリとキリギリス』『北風と太陽』などの物語を、幼い頃に絵本や紙芝居などで目にしたことがある人もいるかと思います。
これらは古代ギリシャで成立した「イソップ寓話」であり、主に動物や自然が主人公として描かれました。
『未来いそっぷ』は、そんなイソップ寓話を現代風にアレンジし、世の中を痛烈に風刺したもの。短編よりもさらに短いショートショートで1作品がまとめられており、サクッと読めますよ。
誰もが知る物語も、星氏の目線で書くとこうなるのか……! と感心させられます。
著者が得意とするSF要素も交じっており、一般的なイソップ寓話とはまた違った角度や感覚で楽しめる作品です。
阿刀田高が選んだ良作
『ブラック・ユーモア傑作選』
『ブラック・ユーモア傑作選』
阿刀田高(編)、光文社
ブラックユーモアのある作品やミステリー作品を多く手掛ける作家・阿刀田高氏が自ら編集した、ブラックユーモアのアンソロジー。
阿刀田氏の作品はもちろん、志賀直哉や夏目漱石などの短編が16編収録されています。
「とにかく毒のきいた作品をたっぷり読みたい!」方にぴったりな1冊。幅広い作家の、バラエティに富んだ作品を一度に読めるので、飽きずにテンポよく読み進められますよ。
阿刀田氏の解説もあるため、やや難解な作品でも内容を理解できることでしょう。自分の好きな作家を見付けるきっかけにもなるかもしれません。
数奇な人生をたどった著者の1冊
『サキ短編集』
『サキ短編集』
サキ(著)、新潮社ほか
幼い頃に母を失い、兄と姉とともに祖母と叔母に引き取られたサキ。警察になったのちジャーナリストに、その後43歳で軍に志願するも、フランスの戦場で命を落としました。
そんな数奇な運命を辿ったサキが書いた短編作品は、とにかく皮肉に満ちていて、まるで人間の汚い部分をすべて見透かしているようです。
「奇妙な味」と評されるこの短編集は、21編すべてが決してハッピーな結末ではありませんが、だからこそ読者の心を掴んで離さないのでしょう。
【関連記事】「奇妙な味」とは? 奇妙な味のおすすめミステリー小説
筒井ワールド全開!
『くたばれPTA』
『くたばれPTA』
筒井康隆(著)、新潮社
「日本 SF 御三家」の1人でもある筒井康隆氏の短編集『くたばれPTA』。刺激の強いブラックユーモアの詰まったこのショートショート集には、現代社会への皮肉がこれでもかと描かれます。
昭和40年代に書かれた短編なので、社会的背景がストーリーに盛り込まれており、時代の流れを感じられるのも特徴です。
表題作の「くたばれPTA」は、徐々に過熱化していくPTAの抗議にしり込みするSFマンガ家のお話。
もしも小説や漫画などが軽視されるものになったとき、はたして作家たちはどうするのか……? 現代にも通ずる内容で、考えさせられました。
エロティックな内容も多いですが、刺激的で風刺のきいた短編集を探している方にぴったりです。
この世には、不思議がいっぱい!
『無限がいっぱい』
『無限がいっぱい』
ロバート・シェクリイ(著)、早川書房
著者であるロバート・シェクリイは、アメリカのSF作家。本作も例に違わずSF要素がしっかりと盛り込まれています。
殺人抑制のために作られた機械鳥や、無人の宇宙ステーションの話などの未来的な物語。そのほか人種問題や先住民族問題など、アメリカ社会を風刺するような物語までその内容は多種多様です。
こんな世界に将来なり得るのでは? 現代に通じている部分もあるのではないか? などと、読者の心情をうまく誘導してくれる構成に惹きつけられます。
その話、どこかにありそうな……
『青い罠』
『青い罠 阿刀田高傑作短編集 ブラックユーモア』
阿刀田高(著)、集英社
ブラックユーモアのある作品は、現実世界とは違う空想世界、あるいはファンタジーのような世界設定で描かれることも少なくありません。
対して本作『青い罠』は、娘と2人暮らしのシングルマザー、病弱な姉を看病する独身の女性など、登場人物は現実世界にいそうな人たちばかりです。
すべてお話のラストでスッキリする……わけではなく、背筋がゾクッとするような余韻があります。最後はどうやって終わるのか? とドキドキしながら読み進めることができますよ。
スパイス加減が絶妙!
『おせっかいな神々』
『おせっかいな神々』
星新一(著)、新潮社
SF作家であり、ショートショートの分野を深めていった星新一氏。本作には、そんな星氏のスタイルがしっかり取り入れられた40作品が収録されています。
「神」がテーマとなっている本作。タイトルに「おせっかいな神々」とありますが、本作に登場する神様たちはなんとも人間臭くて、そしておせっかいです。
読み進めていくと、このタイトルに込められた皮肉っぷりに脱帽させられます。
毒がほどよいスパイスとなっており、クセも少ないのでとても読みやすい作品です。
ミステリーな雰囲気もある!?
『毒笑小説』
『毒笑小説』
東野圭吾(著)、集英社
「探偵ガリレオシリーズ」などで知られる東野氏の、毒のきいたブラックな笑いが収められた短編集です。
南の島で見つかった天使そっくりな生物の発見によって人間が不幸になる「エンジェル」、ひとり留守番中に泥棒に忍び込まれる「ホームアローンじいさん」など、センスある毒と笑いが詰まっています。
ミステリー小説を多く手掛ける東野氏ならではの、警察ものや犯罪ものもふんだんに盛り込まれているので、ミステリー感覚でブラックユーモアを楽しみたい方にぴったりですよ。
ぜひニヤニヤしながら読んでくださいね!
【関連記事】東野圭吾の笑える小説おすすめ5選
『ほしのはじまり』
『ほしのはじまり 決定版 星新一ショートショート』
星新一(著)、新井素子(編)、角川書店
星新一氏は、未来を予見していたといわれるほど、豊かな発想を持った人物でした。そうした星新一氏の発想力は、本書の短編集の中でも発揮されています。
たとえば、工場で合成された液体やゼリー状の食品で栄養を摂取している未来の物語「禁断の命令」。
食事が「栄養が摂れて満足感があれば良いもの」となった未来では、「おでん」が遠い昔になくなったものとして登場します。
現代でも、忙しくて食事に時間をかけていられない人のために、栄養補給のための食品がたくさん販売されています。
今食べている料理や食品も、そう遠くない未来にはなくなっているのかも……そう思わずにはいられません。
1冊に54編ものショートショートが収録されているので、スキマ時間に少しずつ読み進めてみてはいかがでしょうか。時間が経過しても色あせない名作を楽しめますよ。
『キス・キス』
『キス・キス』
ロアルド・ダール(著)、早川書房
短編作品の名手、ロアルド・ダールが手掛けた『キス・キス』。
後味の悪いものから皮肉めいたもの、残酷なものまで、魅力的な作品が11編収録されています。
格安のホテルを見付けた青年と、彼を出迎えた女主人の物語「女主人」。小さな山小屋で育てられた少年が、大叔母の死をきっかえに山から出て都会にやってくる「豚」など、予想外のラストが読者を待ち受けていますよ!
常に不穏な空気が流れており、切れ味の良いシニカルな笑いが楽しみたいときはぜひ。
刺激的な感覚を楽しもう!
ブラックユーモアのきいた小説の魅力は、チクッとした毒を感じながら物語を楽しめるところです。
毒をもって毒を制す……わけではありませんが、自分の心の中にある毒を昇華させることもできるでしょう。
ちょっぴり毒のきいた世界に足を踏み入れてみませんか?
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ライター:モトムラ