山本文緒 おすすめ小説|中毒性の高い作品多数
更新日:2019/11/25
数々の作品が映像化され、幅広い世代の女性から支持されている直木賞作家の山本文緒さん。
2018年には、『あなたには帰る家がある』が中谷美紀さん主演でドラマ化され話題になりました。
山本さんのファンである私ですが、今回のコラムでは、『あなたには帰る家がある』をはじめ、山本さんの作品のなかでも特におすすめの作品をご紹介します。
『あなたには帰る家がある』
『あなたには帰る家がある』
角川書店ほか
2組の夫婦をめぐる恋愛小説であり、夫婦の‟あるある‟が詰まった作品です。
この作品を読んでいると、立場の相違によって、同じひとつの事象に対し、捉え方や感じ方がこうも違ってくるのだと驚いてしまいます。
個人的には妻目線の考え方は納得できるのですが、夫の考え方には「??」と疑問符が浮かんでいました。
たとえば、夫はマイホームを建てれば家族みんなが幸せになると思っていますが、家族と話し合わず、自分の理想を勝手に追い求めようとします。
一方の妻は、家族の意見を聞かない夫に諦めを感じており、マイホームに希望を持っていません。
じゃあ話し合えばいいのに、と思うのですが、すでに話し合いができないほど信頼関係は壊れているのです。しかも、夫はそのことに気づいていません。
読んでいると苛立つのですが、妻にも大きな問題があって……。
他所の夫婦関係を覗いているようで、大変面白い作品でした。
他には、専業主婦=幸せだと感じている夫と、家事育児を丸投げされ苛立つ妻など、きっと一度は共感してしまうこと間違い無しの一冊です。
『ファースト・プライオリティー』
『ファースト・プライオリティー』
角川書店ほか
タイトル通り「私自身の最優先なこと」をテーマにした短編集。1話あたり10ページほどなので、サクサク読めます。
出てくる人たちはみんな、「最優先なこと」を大切にしています。
たとえば、BMWの車のローンを払い続けるために、恋も住宅も手放し、車に住んでいる人だったり。野球放送を見るのが大の楽しみで、チャンネル権を譲らない彼氏だったり。
ふと考えます。人は「最優先なこと」さえあれば、それ以外は不要なのだろうか? と。
そんなはずはないと思いつつも、自分の好きなように貫き通している生き方は潔く、読み終わった後は爽快な気持ちになります。
『恋愛中毒』
『恋愛中毒』
角川書店
吉川英治文学新人賞受賞作品。
ある日、編集プロダクションで働く若い男の職場に、ストーカー気質の元彼女が押しかけてきて、女性の事務員の水無月さんに暴力をふるってしまいます。
辞表を書いた男は、社長と水無月さんの3人でお酒を飲むことになり、その流れで水無月さんの過去の恋愛話を聞く……と、物語は始まります。
「恋愛小説の最高傑作」という謳い文句通り、一度読んだら忘れられない傑作です。
主人公は、純粋無垢とも狂気の沙汰とも言える愛し方で、“文字通り”相手に身も心も捧げます。その内容があまりにも壮絶で……。
なお、巻末の林真理子さんの解説を読むと、背筋が凍りますよ。初見の時には気づきませんでしたが、こんな仕掛けが隠されていたのだと驚愕してしまいました。
『ブラック・ティー』
『ブラック・ティー』
角川グループパブリッシング
「罪」をテーマにした短編集。「罪」といっても大罪ではなく、ちょっとした出来心や、日常の中にある小さな罪が取り上げられているのが他にはない作品です。
一度は経験したことのあるような、小さな罪。たとえば、立ちションをした男性。レンタルビデオを2ヶ月返し忘れ、妹に借りたワンピースやお金を返すのを忘れ、彼氏と付き合い始めた記念日も忘れるという、物忘れが激しい女性……。
罪というほどの内容ではないかもしれません。みんな、悪気はないのです。でも、無意識のうちに、誰かに嫌な思いをさせている。深く考えさせられる一冊です。
『きっと君は泣く』
『きっと君は泣く』
角川書店ほか
自分の美貌を才能だと信じている、主人公の椿。
ときどき冗談で「女の世界は恐い」という人がいますが、まさにその「恐い世界」が具現化したような一冊です。女性同士のバトルが連発し、心休まる暇がありません。
椿の言葉はとにかくキツく辛辣です。たとえば、「人のこととやかく言う前に、その足の毛をなんとかしたら? もう少しきれいになって人から好かれようと思いなさいよ」と、化粧っ気のない看護師に言い放ちます。
しかし、そんな椿の無敵感はどんどん失われていき、そして思いもがけない展開に……。
女性特有のドロドロ小説がお好きな方におすすめです。
山本文緒 ワールドに足を踏み入れてみて
山本文緒さんの作品は、ドラマティックなものが多く、読んでいるうちに止まらなくなる中毒性があります。
非常に面白い作品ばかりなので、ぜひ一度読んでみてくださいね。
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ライター:飯田 萌