頑張る女性に贈りたい名詩集|長い人生を生き抜くために――。
更新日:2016/6/2
この記事を書いている私は、女性として生まれ育ち生きてきました。
女性としての歓びを感じる瞬間はいっぱいありました。でも、女性であるがゆえの理不尽さに怒りを感じることもありました。山田洋次監督の名作映画「男はつらいよ」じゃないけれど、「女はつらいよ」とついこぼしたくなることも。
異性との溝というものは、案外深いものです。
それは仕方がないことだと認めたうえで、毎日を目一杯生きる女性たちに贈りたい詩集を5冊紹介したいと思います。
今回は、女性詩人の作品に限定しました。なぜなら、女性目線だからこそ共感して頂きやすいと考えたからです。
(もちろん、女性に対しての理解をより深めたい男性が読んでくださるのも、大歓迎です。)
今回の選書ポイントは、以下の3つです。
・女性詩人による、女性の人生を謳った詩集であること
・手元に置いて、辛くなった時に読み返すと道標となってくれる(にちがいない)詩集であること
・読んだ後はやさしい気持ちになり、余韻に浸ることができる詩集であること
俵万智『生まれてバンザイ』
『生まれてバンザイ』
俵万智(著)、童話屋
大きな括りで捉えると、詩の一部である短歌。詩と違うのは、5・7・5・7・7のリズムで詠まれたものだということですが、そんな短歌の第一人者・俵万智さんの作品を紹介しましょう。
本書は「子育ての歌は、刺身だな、と感じている。子どもとの時間は、とびきり新鮮で、とびきり美味しい。けれど鮮度のあるうちに言葉にしてしまわないと、あっというまに古びていってしまう。いまを味わいつくしたくて、私は子どもの歌を、これでもかというぐらい詠んできた」という俵さんの言葉通り、子どもの歌、恋愛の歌が詠まれた歌集です。
短歌はリズムがよく、スラスラ読めるのがいいところです。立ち止まりたくなった時、幼少時代のことや母がくれた愛情を思い出してみてはいかがでしょうか。きっと心に響くはず。
俵さんから子どもに向けられた、愛ある強いメッセージ。
【眠りつつ 時おり苦い 顔をする そうだ世界は 少し苦いぞ】
(p32)
未婚の母として出産した俵さんの心境を詠んだ一句。
【夜泣きする おまえを抱けば 私しか いないんだよと 月にいわれる】
(p65)
新川和江『わたしを束ねないで』
『わたしを束ねないで』
新川和江(著)、童話屋
女性に生まれ、恋をし、妻となり母となる――。女性である自分をふくめ、生きとし生けるものを讃えつづけ”女の一生”を綴った詩人・新川和江さん。
本書のタイトルになっている「わたしを束ねないで」は、女性を立場や枠に嵌めようとする世俗的な権力への抵抗が描かれています。
この詩が書かれた当時は、女性への社会進出がままならない時代で、不自由さを感じる女性も多かったことでしょう。
一方、現代を生きるあなたはどうでしょうか。
誰も自分を束ねようなんて考えていないのに、自分が勝手に枠を決め付けて、自分で自分を束ねてしまっている。私を含め、そんな人は少なくないはずです。
そんなあなたに「わたしを束ねないで 」を紹介したいと思います。可能性を狭めているのは自分自身なのかもしれませんね。
『わたしを束ねないで』
わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色(こんじき)の稲穂(中略)
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風(p12-15)
茨木のり子『おんなのことば』
『おんなのことば』
茨木のり子(著)、童話屋
代表作の「自分の感受性くらい」や、戦争への怒りをうたった「私が一番きれいだったとき」など、多くの教科書に詩が掲載されている詩人・茨木のり子さん。戦争中に体験した飢餓と空襲の恐怖が、茨木さんの「命を大切にする」という感受性を育み、多くの名作が生まれたといいます。
今回紹介するのは「感情の痩せっぽち」という詩。
身体のダイエットだけでなく、感情までダイエットをしてしまうことの寂しさ。協調性ばかりを重視し、人に合わせて生きていくのはつまらないものです。あなたは自分の感情を押し殺すことなく、自分の意思を大切に守り生きているでしょうか。
今の時代に警鐘を鳴らしてくれるこの詩を、決してひとごとだと捉えることなく、豊かにどっぷりと生きていきたいものです。
『感情の痩せっぽち』
痩せたい 痩せたい
と思うあまりに
感情のほうまでそぎ落としてしまったのか感情のやせっぽちはさびしいもの
そんなさびしいのが増えてきて
話していても さむ ざむ ざむ(略)
(p142-143)
金子みすゞ『金子みすゞ名詩集』
『金子みすゞ名詩集』
金子みすゞ(著)、彩図社
「こだまでしょうか」「私と小鳥と鈴と」などがテレビCMで引用された金子みすゞさん。彼女の詩は、誰にでもわかるやさしい言葉で、シンプルに強いメッセージを謳った作品が多いです。幅広さと奥行きを持った彼女の詩は、本書の「名詩集」でぜひ堪能することをお薦めします。
彼女の視線はまるで子どものよう。世の中に溢れる常識などに振り回されることなく、自分自身の心で世の中を見つめています。感受性の豊かさには思わず脱帽してしまうことでしょう。
大人になると、自分自身の思いのままに生きることはむずかしくなります。でも、だからこそ大人のあなたに薦めたい。ハッとさせられる詩がふんだんにつまっている詩集です。子ども時代の鋭い 心や真っ直ぐさを思い出してはギュッと沁みることでしょう。
今回紹介する詩は「土」。ある誰かにとっては無用なものだったとしても、他の誰かにとってはゆるがない価値がある。つまりは、どんなものにも存在価値がある。そんなメッセージ性を含んだ詩です。
『土』
こツつんこツつん
打たれる土は
よい畠になつて
よい麥生むよ。朝から晩まで
踏まれる土は
よい路になつて
車を通すよ。打たれぬ士は
踏まれぬ土は
要らない土か。いえいえそれは
名のない草の
お宿をするよ。(p24-25)
柴田トヨ『くじけないで』
『くじけないで』
柴田トヨ(著)、飛鳥新社
90歳を過ぎて詩を書き始めたことで話題になった詩人、柴田トヨさん。スッと心に入り込むわかりやすい言葉とあたたかな目線で、生と死が描かれています。
「詩作でわかったことは、人生、辛くて悲しいことばかりではないということでした」という柴田さんの言葉。きっとこのコラムを読んでくださっているみなさんは、柴田さんより年下の人が多いはず。90年以上を生きた女性としての一生が描かれている本書は、女性として生きる上での参考になります。
自暴自棄になったら読んでみて欲しいと思います。読んだ後「生きていてよかった」「人生はいつだってこれから」とあたたかな涙が頬を伝うはず。
今回紹介するのは、表題作である「くじけないで」。90年以上年齢を重ねてきたからこその、重みや生き様が如実にあらわれ、説得力がある詩です。
『くじけないで』
ねえ 不幸だなんて
溜息をつかないで陽射しやそよ風は
えこひいきしない夢は
平等に見られるのよ私 辛いことが
あったけれど
生きていてよかったあなたもくじけずに
(p58)
詩集を片手に、女性であることを愉しんで生きていたい
今回紹介した5冊の詩集のうち「おんなのことば」を書いた茨木のり子さんは、こう言っています。
「いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまた、生きとし生けるものへの、いとおしみの感情をやさしく誘いだしてもくれます」
詩は時として人生の道標となります。毎日を目一杯生きる女性たちにとって、お気に入りの詩を見つける手助けになり、少しでも心癒される瞬間を感じていただけたなら嬉しく思います。
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