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谷崎潤一郎と与謝野晶子の人生にみる「源氏物語」とのつながり


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毎年11月1日は「古典の日」なんです。ご存知でしたか?
11月1日は「源氏物語千年紀」にあたる(歴史上はじめて、公式記録にあの『源氏物語』が登場するという日記の日付)とされており、これを記念して2008年、この日が「古典の日」となりました。

『源氏物語』といえば、平安中期に時の才女・紫式部により書かれた世界最古とされる長編小説です。
このあまりにも有名な古典の現代語訳としてとても有名なのが、谷崎潤一郎・与謝野晶子両氏によるものです。あなたはどちらの源氏物語が好みですか?両者の人生、人柄を詳しく見ていくことで見られる源氏物語とのつながりを考えていきたいと思います。

 

源氏物語とは

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源氏物語とは、平安時代の才女・紫式部が生み出した世界最古の長編小説です。正確な成立年代は不明ですが、1008年の時点では大半が成立していたのではないかといわれています。その分量は400字詰め原稿用紙に換算するとなんと2,400枚(文字数換算96万字)に及ぶとか!現代の小説が原稿用紙換算500枚(文字換算20万字弱)と比べるとその量に驚きですね!

主人公である光源氏の一生と、死後の子孫たちの物語を描いたもので、約70年という膨大な時間を描いた長編小説です。登場する人物の数はおよそ500人。含まれる和歌は約800首。これだけ見ても、源氏物語はなんだかすごいですね……!
ですが、源氏物語の一番の魅力は、物語の構造や巧みな心理描写、文章そのものの美しさにあると言えます。誕生から1000年経った今でも「日本文学史上最高の傑作」だと言われています。

 

訳によって物語の色が変わる

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「訳」とは、外国語や古語などを自国の人、現代の人々にわかる語に編みなおすことです。作者によって生みだされた物語を、そのままの言語では読めない私たちと引き合わせてくれる仲介者のような役割をもっているのです。

原文をたとえば「日本語」に直す時、原文にどの日本語を当てはめるのかを決めるのは仲介者たる訳者の役割です。どの言葉を選ぶのかというのには、その人の色に左右されます。これは、「源氏物語」という一つの物語に対して何人もの人の手による訳文が存在することの理由にもなります。

一つの物語でも、それを受け取る人により物語は何通りにもその姿を変えます。これと同様に、訳される物語もそれぞれ違う色を持つのです。訳を行った人を知ると、もとの物語に加えて、その人の色をも楽しむことができるようになります。

 

谷崎潤一郎と与謝野晶子ってどんな人?

源氏物語の訳文だけでなく、作品もとても有名なものばかりです。ここで注目するのは、「文体」ではなく彼らの人間としての部分です。彼らの生涯を見てみるともっと『源氏物語』がおもしろくて深いものになっていきます。

 

■谷崎潤一郎の人生

女性の美しさ、悪魔主義を主題に多くの作品を生んだ作家です。東京帝国大学在学中に、夏目漱石の弟子の1人として知られる和辻哲郎と『新思潮』を創刊し、そこで処女作である戯曲『誕生』や『刺青』を発表しました。代表作といわれるのは谷崎潤一郎版源氏物語ともいえるような私小説『痴人の愛』、3人目にして最後の妻であった松子夫人をモデルに描いた『細雪』など。

彼が描く作品には、主題として挙げられた要素に忠実といえるような物語が多く、その悪魔的な魅力に取りつかれてしまうと谷崎潤一郎ワールドに引き込まれてしまいます。

また、外国文学にも早くから親しんでいたようで、「バルザック全集」を読破し芥川龍之介に勧めたというエピソードも残っています。文豪としての才能は素晴らしいもので、日本人作家で唯一、プレイヤード叢書に作品を収録させるほか、ノーベル賞には6回ノミネート、内2回は最終候補にまで残っています。

以上のような文学を生み出す、谷崎潤一郎という人物は生涯で3回結婚するなど恋多き男でした。中でも、最初の奥さんであった石川千代子夫人との関係はとってもドラマチックです。

上記でも取り上げた作品『痴人の愛』の「ナオミ」のモデルは、なんと千代子夫人の妹であるせい子さんでした。もちろん、2人の夫婦仲は険悪となります。

そんな千代子夫人の境遇に、谷崎潤一郎の友人・佐藤春夫は同情して恋心を抱き、三角関係に陥りました。1915年の結婚から、15年経った1930年に谷崎潤一郎・千代子夫婦は和解し離婚、千代子夫人は佐藤と結婚します。このとき、3人で連盟の声明文を発表したことから「細君譲渡事件」として世の中の話題をかっさらいました。

才能あふれるプレイボーイという点で、谷崎潤一郎は明治から昭和を生きたリアル光源氏とも見ることができるのではないでしょうか。

 

■与謝野晶子の人生

『君死にたまふことなかれ』『みだれ髪』などの作品で知られる歌人であり作家であり思想家の与謝野晶子。大阪の老舗和菓子屋の三女としてこの世に誕生しました。没落しかけた家に生まれた3人目の女の子であった晶子は、両親から疎まれつつ成長したと言われています。

女学校に入学すると『源氏物語』をはじめとする古典に親しむようになり、兄に影響され『棚草紙』や『文学界』を読むことを楽しみにして学生生活を送りました。

20歳になると、実家の店番をしながら、女性の恋心を詠った和歌を投稿するようになり、徐々にその才能を開花させていきました。彼女が生きた時代では、女性が恋を語るなんていうのは言語道断。しかし、晶子は生まれ持った情熱的で奔放な心を、作品だけではなく思いっきり自身の恋愛にもぶつけていきました。

そして、情熱的で恋多き乙女の晶子は『明星』の主宰者・与謝野鉄幹という男に出会います。この鉄幹という男も光源氏のようにモテる男であったようで、晶子に出会ったときにはすでに内縁の妻だけでなく、恋仲となっていた女性もいました。晶子はその三角関係に怯むどころか突き進み、ついには鉄幹を2人の女性から勝ち取ります。

晴れて夫婦となり、夫の鉄幹のすすめで晶子は歌集『みだれ髪』を出版。子供も生まれ、順風満帆かと思われた生活でしたが、世の中はそんなに優しいものではありませんでした。

『明星』の売れ行きも鉄幹の筆も行き詰まり、生活はどんどん苦しいものになっていきました。晶子は生活のために子育てをしながらも、雑誌の連載など数多の仕事をこなしていきます。時を同じくして起こった日清戦争、それに召集されてしまった弟の出兵を嘆き発表した歌「君死にたまふことなかれ」でさらに注目を集めました。

彼女は夫の代わりに稼ぎながら家族を支え、夫を励まし深く愛した女性でした。紫式部のような才女でもありつつ、光源氏を愛した女性たちとも通じるところも持っていた女性が訳した「源氏物語」は、どんな色を見せてくれるのでしょうか。

 

まとめ

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いかがでしたでしょうか。近代を生きた光源氏のような谷崎潤一郎。紫式部の様でもあり作中の女性たちにも通じるところも持った与謝野晶子。2人が、私たちに繋いでくれた「源氏物語」はどんな色彩を見せてくれるのでしょうか。

■与謝野晶子版『源氏物語』(角川書店)
■谷崎潤一郎版『源氏物語』(中央公論新社)

また、2人の他にも、源氏物語を訳している人はいらっしゃいますし、解説書や漫画などビギナーにも読みやすい本がたくさん出ています。特集にまとめましたので、これを機にあなたの好きな「源氏物語」を探してみてください!