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【本の雑学】知っていると楽しい!近代文学の歴史


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文学とはどのようにして誕生したのかご存知でしょうか。なんとなく学生時代に学んだなぁ、という人も多いかもしれませんね。近代文学を楽しむ時に「歴史の流れ」を知っていると、物語だけではない魅力にも出会えます。今回は、作品と一緒に歴史を追ってみたいと思います!

 

近代文学の芽生え

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近代文学は、近世から近代への時代の移り変わりの中で誕生しました。ですが、「時代が変わったから文学も近世から近代へと移り変わった」というより、文学も明治維新と同様、古きものを破壊し、新たなものを作り上げることで誕生してきました。

 

◆明治初期の文学

社会は明治維新により近代へと大きな一歩を踏み出しましたが、文学はまだ、旧時代のものでした。まだまだ近世の「戯作文」などが親しまれていて、近代文学はしっぽさえ見えない状況でした。

この状況下で、幕末時からすでに知識人として知られる人たちが行った啓蒙活動は、民衆に対してとても大きな影響を及ぼしました。

徐々に培われていった啓蒙思潮の中でまず生まれたのが「翻訳文学」です。そしてさらに、自由民権運動に伴って「政治小説」が誕生しました。この二つの小説は新たな文学を切り開くものとはなりませんでしたが、近代文学誕生の土台となっていきました。

 

近代文学の幕開け

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写実主義の登場

誕生の土台を得た近代文学に、19世紀後半の西欧で生まれた思潮である「写実主義」が登場します。写実主義とは、現実を空想や妄想によらずにありのままに捉えようとした文芸思潮のことです。西洋文学に啓発された坪内逍遥と二葉亭四迷の二人が近世文学を否定し、近代文学の芽生えを確実なものとしました。

近代文学は坪内逍遥が1885年に著した『小説神髄』によって実質的な開幕を迎えます。坪内はその実践として同年に『当世書生気質』を発表します。これを受けて、二葉亭四迷が1886年に『小説総論』を著し、1887年に同様に『浮雲』を発表します。

この『浮雲』は、『当世書生気質』が若干残していた戯作文学の要素を完全に拭いきり、言文一致体という新たな手法を用いたことから近代小説の嚆矢(はじまり)とされています。言文一致体とは、文章においての言葉遣いを、話し言葉と同じ言葉に統一した文体のことです。

~おすすめ作品~

◆『当世書生気質』坪内逍遥

学生・小町田粲爾と芸妓・田の次との淡い恋を、明治時代の文化とともに描いた作品。
『小説神髄』で表した自身の文学論の実践を兼ねた、先駆的な近代文学作品です。


◆『浮雲』二葉亭四迷

勉強はできるけれども、どこか疎い青年・内海文三の初めての恋や社会で働くことの苦悩を描いた作品。言文一致体で描かれた初めての作品でもあります。

 

純粋なる日本を思い出させる「擬古典主義」

写実主義という西欧の文化の急速な浸透に伴い、急激な欧化主義に反対する機運も生じてきました。それが、古典文学への再評価から生じた「擬古典主義」という文芸思潮でした。1885年に尾崎紅葉・山田美妙らが「硯友社」を結成し「我楽多文庫」を発刊しました。擬古典的な写実感や磨き抜かれた雅俗折衷体で描かれた文学は、純粋なる日本を思い出させるものとして世にうけたようです。

~おすすめ作品~

◆『金色夜叉』尾崎紅葉

貧乏な学生であった間貫一郎には婚約者がいた。だが婚約者は間を裏切り、金持ちの男と結婚してしまう。これに絶望した間は高利貸しの手代となり……?

6編からなる長編ですが、尾崎紅葉が執筆中に亡くなってしまったために未完の名作となっています。


◆『五重塔』幸田露伴

才能はあるのに、機転が利かない故に「のっそり」とあだ名をつけられている大工の十兵衛。そんな彼がすべてを投げ打って、谷中感応寺の五重塔建立に取り掛かる姿を描いた作品。芸術に取りつかれた職人の姿を求心的な文体で捉えた、幸田露伴の傑作といわれている作品です。

 

世界基準の文学へ!「浪漫主義」

浪漫主義とは、西欧の市民社会確立への激動の時代に生まれた文芸思潮です。写実主義や擬古典主義が日本流の文学を確立したとすれば、こちらは世界基準の文学への成長としてとらえることもできます。近代化とともに目覚めた自我意識は、開放的な自由を求めた作品を生むことをもたらした、といえます。日本において、浪漫主義は森鴎外が牽引した初期と、後に再び生じる本期浪漫主義が存在します。

~おすすめ作品~

◆『阿部一族・舞姫』森鴎外

ドイツ帝国に留学をした官吏・太田豊太郎。エリート街道を歩んでいたはずの彼が出会ったのはエリスという踊り子の少女で――。彼女を援助しているうちに徐々に交際は深まり、やがて二人の間には命が宿る。だが、豊太郎は帰国を余儀なくされてしまい……?森鴎外の自身の留学体験をもとに描かれた、実話に近い物語です。


◆『たけくらべ』樋口一葉

吉原の遊女である勝気な妹・美登利、僧侶の息子である信如を中心に描かれた、一見明るく楽しいようで儚く悲しい子供たちの物語。対照的な性格、対照的な将来を持った二人の物語は、とても深く奥行きがあり、味わい深いものです。

 

文学を近代的に育てたのはこの思潮「自然主義」

西欧で、写実主義が極端化し文学をも自然科学万能思想に覆わせてしまった思潮のことです。第一人者はエミール・ゾラであると言われており、ゾライズムとも言われます。島崎藤村の『破戒』、田山花袋の『蒲団』で日本的自然主義は確立したと言われます。

島崎藤村の描いた虚構に作者の真実を移入するというような本格小説の路線は発展することなく、田山花袋の現実暴露の私小説へ傾斜してしまいました。日本の文学を本当の意味で、近代的なものに育て上げたのはこの思潮であると考えられています。

~おすすめ作品~

破戒』島崎藤村

舞台は明治後期。部落出身である教師・瀬川丑松は身分を隠すことを父と固く約束していた。しかし、同じ宿命を背負った解放運動家・猪子蓮太郎と出会い、彼の死を見届けることで、瀬川の心は揺れる。

結果、父との約束を破ることにした瀬川の、正義感を持ち社会問題に果敢に立ち向かう姿が魅せるものとは……。近代文学の頂点をなした傑作であると言われている作品です。 


◆『蒲団・重右衛門の最後』田山花袋

34歳、妻子持ちの作家・竹中時雄のもとに、横山芳子という女学生が弟子入りを志願しにやってくる。気が進まなかった竹中も徐々に、芳子の存在を受け入れていく。だが、芳子の恋人である田中秀夫が彼女を追って上京してきて……?日本における私小説の出発点となった作品で、また性を露骨に描いたことから当時の文壇に大きな反響を呼んだことでも知られています。

 

まとめ

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いかがでしたでしょうか。文学は物語単体でも十分に楽しく素晴らしいものですが、その歴史の流れを知って読むと文化の流れも感じることができます。時代背景にも思いをはせながら、日本の名作文学を楽しんでみてください。

 

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