『嫌われる勇気』を読む |アドラー心理学の重要点まとめ
更新日:2016/4/15
『嫌われる勇気』
岸見一郎、古賀史健(著)、ダイヤモンド社
アルフレッド・アドラー(1870-1937)は、オーストリアの精神科医で、心理学の三大巨頭の1人です。
心理学を知らない人でも名前は聞いたことがあるはずの、ユング、フロイトと並び称されるアドラー。
日本でも「アドラー心理学」として、一般に衆知されるきっかけとなった本書『嫌われる勇気』をご紹介します。
青年と哲人の対話でわかる「アドラー心理学の主張」
本書は、青年と哲人の対話で構成されており、5日間の物語として話が進みます。哲人と対話をする青年はなかなかのひねくれ者です。
自分に自信がなく、他人に否定的で、このままではいけないと思いながらも現状に甘んじている青年。
そんな青年は、彼にとって偽善的なことばかりを言う哲人を論破しようと躍起になります。哲人は、そんな青年との対話を喜んで始めていきます。
一貫した主張「世界はどこまでもシンプルである」
アドラーは「世界はどこまでもシンプルである」とし、そしてまた、人生も同じようにシンプルであると主張しています。その思想にどうしても納得行かない青年。
世の中には自分の力ではなんともしがたいことが山程あるのに、なぜシンプルだと言い切れるのか――。
その疑問を青年は、矢継ぎ早に哲人へ問いかけます。
哲人の答えは一貫しており、シンプルであることの説明を青年に返します。最後は、なぜ世界や人生がシンプルなのかをきちんと説明されているため、納得のいく内容になっています。
本書で語る「アドラー心理学の欠かせない点」
筆者が選んだ、本書を語る上で欠かせない点を各章ごとにご紹介します。
第1章 トラウマを否定せよ
序盤では、トラウマについてのアドラー心理学の立場が説明されています。
私たちは他者の激しい感情や理解できない言動に出会うと「昔、なにかあったのかな」と想像することがありますよね。この「昔あった何か」が、いわゆる”トラウマ”です。
ところが、アドラーは徹底的にトラウマを否定し、こう断言しています。
『これまでの人生になにがあったとしても、今後の人生をどう生きるかについてなんの影響もない』(56ページ)
たとえば引きこもりの場合は、「不安だから外へ出られない」ではなく、アドラー心理学の立場では「目的論」、つまり、
『外へ出たくないから不安という感情をつくり出している』(27ページ)
という考え方になります。
「今の自分が不幸だと思うのならば、不幸であることを自ら選んでいる」というのです。
これに対して青年はかなり激しく反論しています。そうなってしまうのもうなずける刺激的な内容です。
青年の激しい反論に対して、哲人は丁寧に、かつ冷静にアドラー心理学の立場を明確に説明します。
「トラウマを否定するのはなぜなのか」をしっかり疑問に思いながら読み進めて欲しいところです。アドラー心理学を理解するのに、はじめにつまずくポイントになるのではないかと筆者は考えます。
第2章 すべての悩みは対人関係
アドラー心理学では「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言します。
『アドラー心理学の根底に流れる概念であり、対人関係がなくなってしまえば、あらゆる悩みが消え去っていく』(71ページ)
他人との関わりがあるがゆえに悩みが生まれ、この宇宙にたった1人ならば、なにかに思い煩う必要はないという主張にはうなずけます。
しかし、現実はたった1人で生活できるわけがありませんよね。
哲人は青年に言います。
「アドラー心理学では、他者が変わること、状況が変わることを待つのではなく、自分が最初の一歩を踏み出すことが重要である」。
『他者を変えるための心理学ではなく、自分が変わるための心理学』(115ページ)
第3章 他者の課題を切り捨てる
この章では、タイトルである『嫌われる勇気』とはどういうことなのかが書かれていますが、その前に、アドラー心理学の大前提である「他者から承認を求めることを否定する」ところから始まります。
人には他者に認められたいという欲求があります。子どもなら親や先生にほめてもらいたい、仕事をしていれば上司に評価されたい、期待に応えたいと思いますよね。
アドラー心理学では、その欲求が否定されています。なぜ否定なのか。その説明も納得がいくように書かれています。
『他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない。つまり、自由になれないのです』(163ページ)
ここで『嫌われる勇気』がどういうことなのかが、おぼろげながら見えてきます。対人関係は「まず自分」と哲人は言います。
「自由に生きる」とはどういうことか、とても考えさせられる章になっています。
第4章 世界の中心はどこにあるのか
3章で説明されていた承認欲求にとらわれている人は、他者を気にしているようで、自分のことしか見えていないといいます。
世界は自分のために回っていると考える人はいますが、自分は共同体の一部であり、中心ではないのです。
アドラー心理学では、共同体感覚を持つことの具体案として、他者とのコミュニケーション全般について「ほめてはいけない」という立場を取ります。
なぜほめてはいけないのかについても、理路整然と述べられていますので、ぜひご自身で確かめていただきたいところです。
第5章 「いま、ここ」を真剣に生きる
「いま、ここ」にフォーカスするために必要なことは3つ。「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」です。
自己受容とは、
『仮にできない自分をありのままに受け入れ、できるようになるべく、前に進んでいくこと』。(227ページ)
他者信頼とは、
『他者を信じるにあたって、いっさいの条件をつけないこと』。(231ページ)
他者貢献とは、
『「わたし」を捨てて誰かに尽くすことではなく、むしろ「わたし」の価値を実感するためにこそ、なされるもの』。(238ページ)
他者貢献が一番わかりにくいため、十分な対話が用意されています。
この他者貢献が1番のポイントであり、本書最大のテーマにつながっていきます。
『人生の意味は、あなたが自分自身に与えるものだ』(279ページ)
『自由なる人生の大きな指針として「導きの星」』(279ページ)
その導きの星とは他者貢献である。と締めくくられています。
「いま、ここ」を真剣に生きるとはどういうことか。自分の考えを持ちながら本書を読み終えていただきたいと思います。
まずは一度読んでみよう。
本書は青年の疑問を自分の疑問として置き換え、考えながら読み進めることのできる、数少ない本ではないかと思います。
程度の差はあれど、悩みは誰にでもあると思います。その悩みは、アドラーによればすべて「対人関係の悩み」です。
本書のよいところは、悩みに対して、何をしたらよいのかを教えてくれていることでしょう。
青年の反論が次第に納得に変わっていくように、読者も自ずと納得させられてしまう文章は圧巻です。
アドラー心理学のエッセンスが凝縮されているにもかかわらず、本書は非常に読みやすく、老若男女問わず、ビジネス書を読み慣れていない方にも自信を持っておすすめできます。
ベストセラーになったこともうなずける、近年まれに見る名著。共同体の一部として自分らしい人生を過ごせるといいなぁと心から思える本でした。
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