ドラマ化の話題作『夫のちんぽが入らない』とは?|あらすじや魅力をご紹介
更新日:2019/4/5
『夫のちんぽが入らない』というちょっと驚きのタイトルは、どことなくコミカルな雰囲気を醸し出し、読者の好奇心をそそります。
其の実は世間のいう“普通”と自分自身との違いに悩み、生きづらさを抱える筆者の苦悩が吐き出されたヘビーな内容。それでいながら淡々としてドライな筆致はどこかユーモアを感じさせられる作品です。
それでは、小説『夫のちんぽが入らない』のあらすじや魅力をたっぷりと紹介していきます。
『夫のちんぽが入らない』とは?
『夫のちんぽが入らない』
こだま(著)、講談社ほか
本作は2014年に同人誌即売会で人気を集め、2017年に書籍化された私小説。
2018年にはゴトウユキコさんの作画によって「週刊ヤングマガジン」でコミカライズされ、2019年3月にはネット配信の連続ドラマが配信されている、注目の話題作です。
主人公(筆者)が大学進学とともにとある地方都市で一人暮らしをはじめるところからストーリーは始まります。
引っ越し当日に出会った同じ大学の彼とつき合いはじめ、セックスに至るのですが
……なぜかうまく出来ない。
やがて結婚し「ちんぽが入らない」まま送ることとなった夫婦生活の苦悩や葛藤を、赤裸々に描いた作品です。
読み手を選ぶ「普通」という価値観
ネットにあげられた本作のレビューを見てみると、賛否が大きく分かれる作品であることがわかります。
自己肯定感を持てないネガティブな主人公。その真面目な不器用さが、自ら不幸な結果を招いていることに対するもどかしい気持ち。
そして夫婦それぞれ、パートナー以外の人とはセックスできる……そんな描写が読み手を選ぶ理由としてあげられます。
内向的であるがゆえに自意識過剰が度を超え、心を病んでいく主人公は普通からはずれた価値観のもとに行動します。
しかし、殻を打ち破ることがどうしてもできずに、ままならない人生にはまり込んでいくしかない主人公。その選択に、切なさを感じるとともに、共感する人も少なくはないのではないでしょうか。
「普通」と違うことに対する苦悩や葛藤を経験した人であれば、きっとこの主人公の気持ちに寄り添うことができるでしょう。
どうしてそうなってしまうのかというもどかしさ
自分の悩みを、医者や他の誰にも相談できない主人公。
教師となってからは学級崩壊という挫折を味わい、夫が風俗に通っていることを知っても見て見ぬふりをして自分を押し殺します。
「夫とのセックス」という、夫婦として普通のことができないこと。職場での仕事を全うできずに退職してしまったことなど、自責の念や罪悪感に囚われた彼女はやがて精神を病み、不特定多数との不倫に走ってしまいます。
そしてそこで初めて、夫以外の人とならセックスできることを知るのです。
その後、30代半ばで子供が欲しいとチャレンジしますが、自己免疫疾患と薬の影響から早期閉経に……。
はたから見れば、この主人公に「どうして」「なぜ」という言葉を投げかけたくなります。しかし彼女は、自分の殻の中で一生懸命にもがいている……。その真面目さに心を動かされることでしょう。
現実逃避や諦めを繰り返しながら少しずつ人生に折り合いをつけていく
物語を通して描かれる、とことんネガティブで内向的な主人公。その性格は、子供の頃から夫と出会うまでに至る家庭環境が原因であることが伺えます。
それは、「毒親」とも言える母親からの虐待です。
自己肯定感を持てず極端にネガティブな思考や行動から抜け出すことができない。誰にも助けを求めることなく、気づいたときには手遅れになってしまっていたのです。
夫婦のあり方としては普通ではないことが、こんなふうに書かれています。
「私たちは性交で繋がったり、子を生み育てたり、世の中の夫婦がふつうにできていることが叶わない。」(p.163)
そして、1人苦しんだ半生を経てたどり着いた心境を以下のように語っています。
「性のにおいのしない暮らしに、ようやく自分の居場所を見つけたような気がした」(p.175)
「普通」じゃなくても大丈夫
「普通」に生きることができなかった主人公の生き方を、「普通」の立場からとやかく言っても意味のないことでしょう。
回り道をし、諦めることも乗り越えた末に自分を受け入れることができた作者。その思いには、きっと考えさせられることでしょう。
今回紹介した書籍
『夫のちんぽが入らない』
こだま(著)、講談社ほか
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