読めば精神異常をきたす!? 日本三大奇書[ ドグラ・マグラ」に迫る!
更新日:2016/8/11
『ドグラ・マグラ』
夢野久作(著)、角川書店ほか
『ドグラ・マグラ』は、天下の奇書です。これを読了した者は、数時間以内に、一度は精神に異常を来たす、と言われます。読者にいかなる事態が起こっても、それは、本書の幻魔怪奇の内容によるもので、責任は負いかねますので、あらかじめ御了承ください。
=角川書店=
角川書店から発行された『ドグラ・マグラ』(夢野久作著、角川文庫)の帯には、当時このようなキャッチコピーが書かれていました。
『ドグラ・マグラ』とは、探偵小説家として有名な夢野久作が、推敲に推敲を重ね、構想・執筆に10年以上の歳月をかけて書き上げた小説。
1935年に刊行され、約80年の歳月を経た今でも、多くの人に愛されており、氏の代表作といえる1冊です。
こんなキャッチコピーが書かれるような『ドグラ・マグラ』とはいったいどのような作品なのでしょうか。
『ドグラ・マグラ』あらすじ
舞台は、九州大学医学部精神病科の病棟。
主人公の「わたし」は、見知らぬ建物の中で目を覚ます。コンクリート造りの部屋の窓には鉄格子が嵌められていた。
「わたし」は、ここがどこかわからない。自分が誰かわからない。
そのことに気付き、愕然とする「わたし」だが、九州帝国大学の法医学教授の若林博士が目の前に現れ、自分の正体を知らされる。
「わたし」は、一か月前に死んだ正木博士の患者であり、さらには彼の提唱した「狂人の開放治療」という精神病理学上の一大理論を証明する実験の被験者なのだと知らされた……。
『ドグラ・マグラ』とは
タイトルである『ドグラ・マグラ』とは、小説内に出てくる若い大学生の精神病患者が、一気呵成に書き上げ、登場人物の若林博士に提出したもの。
『ドグラ・マグラ』という言葉は、その言葉だけでもおどろおどろしい印象を与えますよね。登場人物である若林博士は『ドグラ・マグラ』についてこのように語っています。
「この原稿の内容が、徹頭徹尾、そういったような意味の極度にグロテスクな、端的にエロチックな、徹底的に探偵小説形式な、同時にドコドコまでもノンセンスな……一種の脳髄の地獄……もしくは心理的な迷宮遊びといったようなトリックでもって充実させられておりますために、かような名前を付けたものであろうと考えられます」(上巻 p93)
「脳髄の地獄」という言葉を聞くだけでも、おそろしいですよね。
このような世界観が続く『ドグラ・マグラ』は、文中で若林博士が語るように 「全部が一貫した学術論文のようにも見えまするし、今までに類例にない形式と内容の探偵小説といったような読後感」も持ち合わせている「実に怪奇極まる文章」。
かつ「科学趣味、猟奇趣味、色情表現(エロチシズム)、探偵趣味なぞというものが、全編の隅々まで100パーセントに重なり合っているという極めて幻惑的な構想」が描かれた作品となっています。
多くの文豪を魅了した『ドグラ・マグラ』
『ドグラ・マグラ』が刊行され約80年。
賛否両論がありながらも、『ドグラ・マグラ』のファンは多く、あらゆるジャンルの文豪が評価を行ってきました。『ドグラ・マグラ』の素晴らしさを分かっていただくため、文豪たちの言葉をいくつか借りたいと思います。
“本格探偵小説の三巨峰として、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』、そして中井英夫の『虚無への供物』を挙げることに、それほどの異論がでるとは思われない。”
笠井潔「完全犯罪としての作品-中井英夫-」
『幻想文学』9号(1984年12月)(幻想文学出版局)
“横溝、『ドグラ・マグラ』読んで、頭が変になっちゃったらしいんだね。だから、おれはまだ相当感受性が強いなと思って、安心したよ。(笑)”
小林信彦編『横溝正史読本』(角川文庫)
“脳髄という言葉は、現在の感覚では、ただ脳と表現するより、たしかに無気味な迫力がある。だから、この小説ではまさしく「脳髄」でなくては不可なのだが。”
養老孟司「『ドグラ・マグラ』の科学」
『ユリイカ』1月号(1989年1月)(青土社)
“しかし久作体験といえるものは、以後『ドグラ・マグラ』を一度も読み返さなかったにもかかわらず、あきらかにおれの作品に影響している。一冊の長編小説の中でのさまざまな文体実験のひとつひとつが、どうやらおれに強烈な印象をあたえたようなのである。”
筒井康隆「乱歩・久作体験による恩恵」
『國文学-解釈と教材の研究-』3月号(1991年3月)(學燈社)
日本最高峰の奇書『ドグラ・マグラ』を読んでみよう
この本を読んでみたいという人、精神に異常をきたしたら怖いから読みたくないという人、あなたはどちらでしょうか。
安心してください。多くの人が読んできている作品なので、あなた一人が精神に異常をきたすわけではありませんよ……。
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今回ご紹介した書籍
『ドグラ・マグラ』
夢野久作(著)、角川書店ほか
⇒『まんがで読破 ドグラ・マグラ』はこちら
⇒映像版『ドクラ・マグラ』はこちら
『黒死館殺人事件』
小栗虫太郎(著)、河出書房新社ほか
『虚無への供物』
中井英夫(著)、講談社ほか
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