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文系も理系も楽しめる。物理学者による名著


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「ヒッグス粒子」や「重力波」など、21世紀に入ってもワクワクするニュースが連続する物理学界隈。それまで物理に興味がなかったけれど、ちょっと気になってきた、という方も多いのではないでしょうか。
そんなあなたに、物理学の世界や物理学者がもっと身近な存在になる、「物理学者が書いた名著」を紹介します。学生時代に物理が嫌いだった方も好きになるかも!?

 

エッセイ編

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サイエンスの基本は“観察すること”だからでしょうか、科学者・数学者にはエッセイの達人が多いように思います。以下に紹介するエッセイのほとんどは、数式アレルギーには嬉しい「数式成分ゼロ」ですので、たとえ「微分積分ちんぷんかんぷん」でも楽しく読めます。(証人は筆者。)

■『柿の種』寺田寅彦著

寺田寅彦(1878-1935)は、日本の物理学の黎明期(れいめいき)を支えた一流の科学者でありながら、文学や俳句にも造詣が広い、バランスの良い教養人でした。夏目漱石との友情は深く、『吾輩は猫である』の「寒月君」や、『三四郎』に登場する野々宮宗八のモデルとなったことでも有名です。

さて、そんな寺田寅彦ですが、その持ち前の観察眼でもって、世情から日常のささいな風景までを的確な筆致で捉えています。たとえばこんなエッセイ。

猫が居眠りをするということを、つい近ごろ発見した。
その様子が人間の居眠りのさまに実によく似ている。
人間はいくら年を取っても、やはり時々は何かしら発見をする機会はあるものと見える。
これだけは心強いことである。

このほかにも、鰻をとる方法に関する随想があったり、「三毛の墓」と題されたエッセイでは、詩と作曲を披露していたりと、『柿の種』は、多様を極めた題材がスケッチされた、人間・寺田寅彦の懐の広さの感じられる一冊です。
寺田寅彦の随筆としては、全5冊の『寺田寅彦随筆集』や『天災と国防』が出版されています。後者は、『寺田寅彦随筆集』から震災に関する作品を集めたもので、関東大震災を経験した寺田寅彦による防災アドバイスの書として、現代的価値のある一冊です。

⇒『柿の種』寺田寅彦著 岩波文庫

 

■『滞独日記』朝永振一郎著

マイナーな作品ですが、個人的におすすめしたいのが『滞独日記』です。
「くりこみ理論」でノーベル賞を受賞した朝永振一郎が、1938年から翌年まで、ドイツでの留学中に書き継いだこの日記には、若き日の不安と挫折が赤裸々に綴られています。なにかに失敗したとき、朝永振一郎の若き記録『滞独日記』は、慰めと勇気をあたえてくれるに違いありません。

⇒『滞独日記』朝永振一郎著 岩波文庫(『量子力学と私』所収)

 

■『目に見えないもの』湯川秀樹著

同じくノーベル賞受賞者、湯川秀樹も優れたエッセイを残しています。『目に見えないもの』は、専門的な内容も含まれますが、自身の生い立ちや、物理と哲学の関係など、一般の読者でも楽しめるエッセイを集めた一冊です。内容もさることながら、昭和の教養人らしい、知的で端正な文章も魅力。私のおすすめは『未来』と題された、見開き1ページにも満たない小品です。湯川博士の著作としては『物理講義』というかなり専門的な講演録もあります。

⇒『目に見えないもの』湯川秀樹著 講談社学術文庫

 

■『ご冗談でしょう、ファインマンさん』ファインマン著

日本の朝永振一郎とともにノーベル賞を取った、ファインマンさんこと、リチャード・P・ファインマン。そんな彼のエピソードをまとめた一冊が『ご冗談でしょう、ファインマンさん』です。
天才には、常人には測り難いパーソナリティの持ち主がいるものですが、ファインマンもそのひとり。偉い物理学者でありながら、子供心を失わなかったファインマンのエピソードの数々に、「ご冗談でしょう」とツッコミたくなること請け合いです。

ご冗談でしょう、ファインマンさん』リチャード・P・ファインマン著 岩波現代文庫

 

ポピュラーサイエンス編

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一般向けに書かれるサイエンス本、ポピュラーサイエンス、と聞くと私はなんとなく「まがい物」のような印象を持っていたのですが、決してそんなことはなく、とくに昨今、第一線の物理学者が次々と力の入った一般向け本を出版していることもあり、優れたポピュラーサイエンス本が増えてきました。
以下に紹介する本は、「わからなくても楽しい、わかるともっと楽しい」、そんな本です。

 

■『物理学とは何だろうか』 朝永振一郎著

物理学という学問を全体から見るにはこの一冊。結論となる方程式がメインの物理学教科書とは異なり、発見に至るプロセスが強調されているのが特徴です。
ガリレオが何をしたか、といった細部の知識だけではなく、物理学という世界がどのように発展するのか、物理学という学問のフレームとなる思考様式とはなにか、といった物理の基本を身につける上でも、物理学に関係のない社会人こそ読んでおくべき書であると思います。
上下巻を通して読む余裕がなくとも、『物理学は何だろうか 下』の「科学と文明」というエッセイを読むだけでも価値があると思います。また、朝永博士の語りかけるような文体も、今ではめずらしくなった気品と暖かさに満ちており、本書の味わいとなっています。

朝永振一郎の著作としては、量子力学の不思議な世界を寓話風に描いた『光子の裁判』も有名で、朝永振一郎の文才が光る一品です。また、似たような趣旨の名著として、アインシュタインとインフェルトが書いた『物理学はいかに創られたか』があります。

⇒『物理学とは何だろうか』 朝永振一郎著 岩波新書

 

■『光と物質のふしぎな理論』ファインマン著

ファインマンが “QED”(Quantumelectrodynamics)という数学の証明のようなタイトルで行った講演がもととなった、量子力学への入門書です。
あれだけ常識破りのファインマン自身、変な理論だという量子力学を、数式を使わずに次々と説明していきます。常識が通用しない知らない世界に出会うワクワク感をあたえてくれる一冊。「ありえない」が「あり得る」、そんな量子力学の世界は、常識で凝り固まった頭をほぐしてくれるかもしれません。

ところで、ファインマンは講演の名手で、ほかにも講演録を残しています。そのうちの一つ、『物理法則はいかにして発見されたか』は、物理学の歴史がジョークを交えて展開されており、随所にファインマンの科学者としての基本的な姿勢が表明されています。(それから、彼がいかに哲学者を毛嫌いしていたか、よ〜くわかりますよ。)

⇒『光と物質のふしぎな理論―私の量子電磁力学』リチャード・P・ファインマン著 岩波現代文庫

 

■『大栗先生の超弦理論入門』大栗博司著

「超弦理論」あるいは「超ひも理論」という言葉、どこかあなたの心をくすぐりませんか。ミクロ世界への歩みを進める物理学世界の最先端にあるのが、「超弦理論」とよばれる理論です。この本は、なぜ「超弦」と「超ひも」という言葉が並存するのか、なぜ「超」がつくのか、といった「超弦理論」というネーミングの話から、多次元の話まで、超弦理論が辿った歴史に沿って解説されています。ポイントは、大栗先生の比喩のうまさでしょうか。

また、「超弦理論」の歴史を通じて、物理学という学問の性格が描かれており、内容が難しくて挫折しても、一種ドキュメンタリーのように楽しめると思います。

⇒『大栗先生の超弦理論入門』大栗博司著 ブルーバック新書

 

おわりに ~知らない世界は刺激的!?~

知らない世界へお邪魔できるのが読書のいいところ。物理学という世界は、数学を駆使できなければ戦えない世界ではありますが、覗いて楽しむことは数学抜きでも可能です。

野球はできないけれど、テレビ中継をみたり、野球選手のドキュメンタリーをみたりして楽しむ、そんな風に、物理学の世界と、そこに住んでいる一風変わった物理学者を、書物を通じて知り、楽しみ、ワクワクしてみてはいかがでしょうか。