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クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ『錯覚の科学』|思い込みと錯覚でゴリラが見えなくなる?


 

『錯覚の科学』
クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ(著)
木村博江(訳)
文藝春秋

 

「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、なぜ“見た”はずの船を見落したのか。ヒラリーはなぜありもしない戦場体験を語ったのか。―日常の錯覚が引き起す、記憶のウソや認知の歪みをハーバードの俊才が科学実験で徹底検証。サブリミナル効果、モーツァルト効果の陥穽まで暴いた脳科学の通説を覆す衝撃の書!解説・成毛眞(表紙裏)

 

私が本書を知ったのは、本屋大賞がきっかけでした。

そう、本書は、本屋大賞の『発掘部門』にて、2017年の「超発掘本!」の称号を勝ち取った作品なのです。

いったいどのような作品なのか、興味を持って読み始めると、その面白さに私はたちまち惹きつけられてしまいました。

作者のクリストファー・チャブリスさん、ダニエル・シモンズさんは、ハーバード大学医学部にて研究を重ねてきた心理学者。本格的ながらも、読ませる一冊に仕上がっています。

今回のコラムでは、少々ネタバレも挟みつつ、「錯覚の科学」の魅力をお伝えしていきたいと思います。

 

 

思い込みと錯覚

本書のテーマは『思い込みと錯覚』。

私たちは、「自分には自分がわかっている」とつい思い込みがちですが、本書はその『思い込み』を見事なまでにぶった斬ってくれます。

 

一例としてだまし絵を挙げてみましょう。

だまし絵は代表的な『目の錯覚』です。「だまし絵」を見る際、自分がこうだと思い込んでしまった後に、新たな見方をすることの困難さは、みなさまよくご存知のはずです。

また、歩きスマホをしていても、自分は道ゆく人に十分に注意することができるーその思い込みも、『錯覚』といえます。

 

この本に登場するのは、私たちに影響をあたえる日常的な六つの錯覚-注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性にまつわる錯覚-である。自分のことは自分が一番よくわかっているという思い込みは、間違いのもとであると同時に、危険でもある。私たちはこの本で、こうした錯覚がいつどのように私たちに影響をあたえ、どんな結果をもたらすか、そしてその影響をのがれ、最小限にとどめるにはどうすればいいか、探りたいと考えた。(p10-11)

 

読み終わった後は、間違いなく、目の前の世界が変わっていることでしょう。心してお読みくださいね。

 

 

見えなかったゴリラ

私が本書の中で最も驚きを隠せなかったのは、『見えないゴリラ』の実験結果でした。

『見えないゴリラ』の実験とは、作者の二人が共同で行った心理実験のこと。
人間の認知メカニズムの陥穽を鋭くえぐり出したものとして、「心理学における最重要論文」のひとつになっているのだそうです。

作者の二人は、この研究により、2004年にイグ・ノーベル賞を受賞しています。また、あの連続ドラマ『CSI:科学捜査班』でも取り上げられていますので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

 

『見えないゴリラ』の実験の内容自体は難しいものではありません。

・参加者には、2つのチーム(白シャツを着たチーム、黒シャツを着たチーム)がバスケットボールの試合をする短い映像を見てもらう。

・参加者には、白シャツの選手がパスをする回数を数えてもらう(空中で受けるパスも、バウンドパスも両方)。その際に、黒シャツの選手のパスは無視する。

これだけです。

 

ただし、この実験の目的は、パスの数を正確に数えることではありません。

映像の途中にある【ゴリラの着ぐるみを着た女子学生が登場し、選手のあいだに入り込み、カメラのほうに向かって胸を叩き、そのまま立ち去る】シーン(9秒)に、どれだけの人が気づけるのか? というのが真の目的でした。

 

そしてその結果、ゴリラの存在に気づいたのは……なんと半数!残り半数は、パスの回数を数えるのに必死で、気づくことができなかったのです。
パスは、参加者の注意を画面上の何かの動きに集中させるものに過ぎませんでした。

 

なにが、ゴリラの姿を消してしまうのか。この見落としは、予期しないものに対する注意力の欠如から起きる。そこで科学的には、“非注意による盲目状態”と呼ばれている。

目に見える世界のある一部や要素に注意を集中させているとき、人は予期しないものに気づきにくい。

私たちがこの本を書こうと考えたのは、非注意による盲目状態やゴリラの実験のためではなかった。人が見落としをするという事実も重要だが、それ以上に興味深かったのは、自分の見落としを知った時の、人びとの驚愕ぶりだった。

べつの参加者は、私たちが陰でテープをすり替えたのだと非難した。(p20)

 

私たちは、自分が思っているほど、まわりを見ることができていないんですね。
なのに、自分は何も見逃していないという誤った自信。すべてが思い込みなのです。

そして、それらの思い込みは、大変な事態をもたらすことも……。

 

本書の中では『日常的錯覚』が人生に大きな影響を与えた例や実話を、たくさん紹介しています。

知っているか知っていないかでこれからの人生が変わることは間違いありません。

 

 

目の前の世界を変える一冊

人間である限り、思い込みと錯覚から逃れることは困難です。だからこそ、新たな見方を知り、自身の能力の限界に気づくことで、適切な行動を取れるようにしたいですね。

 


今回ご紹介した書籍

錯覚の科学
クリストファー・チャブリス(著)
ダニエル・シモンズ(著)
木村博江(訳)
文藝春秋


 

ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。