星野源のエッセイ集『いのちの車窓から』がおすすめ!
『いのちの車窓から』
星野源(著)、KADOKAWA
星野源の魅力、そのすべてがわかる、誠意あふれるエッセイ集。
ドラマ「逃げ恥」「真田丸」、大ヒット曲「恋」「SUN」、「紅白」出演。怒濤の毎日を送るなかで、著者が丁寧に描写してきたのは、周囲の人々、日常の景色、ある日のできごと…。
その一編一編に鏡のように映し出されるのは、星野源の哲学、そして真意。(帯)
音楽家、俳優、文筆家と、幅広いジャンルで注目を浴びる、星野源さん。
今回のコラムでは、星野さんの最新エッセイ『いのちの車窓から』を紹介します。星野さんが紡いできた風景、心の機微をぜひ本書にてお楽しみください。
文筆活動をする理由
星野さんは子どもの頃から読書が苦手で、漫画が大好きだったのだとか。随筆や小説などは、読んでいる最中に必ず違うことを考えてしまい、ぼんやりしながらページだけが進んでしまうありさま。
また、文章を書くのも苦手で、それを克服するために文筆業を開始されたのだそう。
星野さんが「文章を書くのが苦手」というのは個人的に意外でした。なぜなら、星野さんがこれまでに出版された書籍は10冊近く。どの作品も非常に「読ませる」作品だったからです。
苦手意識を持ちながらも、星野さんが「文筆活動をする理由」とはいったいどこにあるのでしょうか。星野さんが取材でインタビューに答えた際のエピソードを紹介しましょう。
エッセイに夢中になったのは16歳のときである。
松尾スズキさんの『大人計画』、宮沢章夫さんの『牛への道』。名著と謳われる2つのエッセイ集を読んだことがきっかけだった。(中略)文字を読んで腹を抱えるほど笑ったのは初めての経験だった。(中略)
二人に憧れて、文章をかけるようになりたいと思うようになりました。(p71)
なるほど、そんなに笑える作品ならば私も読んでみよう、と思いながら私は次のページをめくりました。すると……
でも、もう一つ理由がある。
実はこちらのほうが本格的に文章を書く理由としては大きいものだった。取材としてはつまらないことかもしれないのであまり大きな声で言えなかった。(p72)
という前置きのもと、もう一つの理由が書かれていたのです。
それがあまりにも「しょうもない」内容で、二度見をするような衝撃的な内容で、私は思わず声に出して笑ってしまいました。しばらく笑いが止まりませんでした。
私が思うに、星野さんのエッセイの魅力は「緩急自在」なところだと思います。
真面目に文筆活動について語っていたと思ったら、笑いが降ってくる。しかも、その笑いは狙ったものではなく、本人にとっては大真面目なことなので、余計に笑いがこみ上げてくるのです。
もし、もう一つの理由について気になった方は、ぜひ本書でご確認くださいね。
「人見知り」という章
星野さんのエッセイは、芸能界での交友関係が覗けるのも面白いポイントです。
古田新太さんとの会話は面白いし、親友関係だった笑福亭鶴瓶さんと中村勘三郎さんのエピソードは涙なしには読めません。
「逃げ恥」を見ていた方でしたら「新垣結衣という人」という章は面白く読んでいただけるかと思います。
また、ときどき辛辣なことが書かれているのも星野エッセイの魅力。
普段の生活に潜む怒りやら、自己承認欲求やら、ナルシシズムやら、心に響いた箇所は多々ありましたが、特に心に残ったのは「人見知り」という章でした。
ある日、ラジオ番組のゲストに出たとき「人見知りなんです」と自分のことを説明していることに、ふと恥ずかしさを覚えた。それがさも病気かのように、どうしようもないことのように語っている自分に少し苛立ちを感じた。
それまで、相手に好かれたい、嫌われたくないという想いが強すぎて、コミュニケーションを取ることを放棄していた。コミュニケーションに失敗し、そこで人間関係を学び、成長する努力を怠っていた。
それを相手に「人見知り」とさも被害者のように言うのは、「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を遣ってください」と恐ろしく恥ずかしい宣言をしていることと同じだと思った。
(p99-100)
ドキッとした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
人間関係に傷つき、悩み、疲れ、「人見知り」という言葉で人と関わらないようにする。そもそも、自分は人間が好きではないと思い込もうとする。でも、本当は、人と接することが大好き。
星野さんはそれに気づいた数年前から、自分が人見知りだと思うことをやめたのだそうです。
「そもそもどんな人間も一人であり、だからこそ人は手を取り、コミュニケーションを交わす」のだからと。
星野さんの言葉は、ソフトながらも核心を突いています。まさに、笑いあり、涙あり、示唆に富んだメッセージありの一冊です。
星野さんの『いのちの車窓から』をぜひ読んでみて
星野さんの最新エッセイ『いのちの車窓から』。
星野さんのファンでも、ファンでなくても、一冊のエッセイ本として面白い作品です。ぜひとも楽しんでみてくださいね。