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ノンフィクションの名作|作者の鬼気迫る息づかいを感じられる本


歴史や事件など、実際に起こったことをテーマにした『ノンフィクション』作品。

フィクションとは違い、「真実」が書かれているのが魅力のジャンルですが、あまり読んだことがない……馴染みがない……という方も少なくないのではないでしょうか。

 

そこで、今回のコラムでは、「作者の鬼気迫る息遣いが伝わってくる、ノンフィクションの名作」を紹介したいと思います。普段とは違う世界をどうぞお楽しみください。

 

壮絶ながんの闘病記

打ちのめされるようなすごい本
米原万里(著)、文藝春秋

「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」。2006年に逝った著者が最期の力をふり絞って執筆した壮絶ながん闘病記を収録する「私の読書日記」(「週刊文春」連載)と、1995年から2005年まで10年間の全書評。ロシア語会議通訳・エッセイスト・作家として活躍した著者の、最初で最後の書評集。(文庫版 表紙裏)

 

作家・米原万里さんが、書評家として活動した全記録を綴った一冊。前半は週刊文春に連載されていた「私の読書日記」、後半は1995年~2005年にわたる各紙誌に寄せた書評文という構成となっています。

私が絶句してしまったのは「癌治療本を我が身を以て検証」という章。

米原さんは癌を患っており、抗がん剤治療を受けた後、後遺症に悩まされていました。二日に一度は嘔吐、体力は落ちていく一方。ほとんど寝たきり。

そのような状態でも、米原さんは本を読み、さまざまな治療法を求め、挑戦し続けたのです。完治したあかつきには、その悲喜劇を『お笑いガン治療』なる本としてまとめたいという思いがあったそうですが、叶うことはありませんでした。

まさに命がけ。胸が締め付けられる一冊です。

 

敗戦から12年後に届いた遺書とは……

収容所から来た遺書
辺見じゅん(著)、文藝春秋

敗戦から12年目に遺族が手にした6通の遺書。ソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留中に死んだ男のその遺書は、彼を欽慕する仲間達の驚くべき方法により厳しいソ連監視網をかい潜ったものだった。悪名高き強制収容所に屈しなかった男達のしたたかな知性と人間性を発掘して大宅賞受賞の感動の傑作。(文庫版 表紙裏)

 

「偉大なる凡人」山本幡男氏の生涯を描いたノンフィクション。

昭和29年、ハバロフスクの強制収容所で死去した山本幡男氏の遺書が、山本家に届けられたのは、昭和62年。山本氏が亡くなって33年が経っていました。

山本氏は、ソ連軍によってシベリアに連行された日本人捕虜で、歴史上に名を残す人物でもない「一般市民」。

本書では、いわゆる「普通の人」が、苛酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとは、どういうことか。不屈の精神と生命力を持ち続けられるものなのか。帰国の日を待ちわびつつ、死んでいく思いとは、を丹念に書いた作品です。

本書で描かれる捕虜生活の描写は、おそろしくゆっくりです。劇的なこともなく、のろのろとした毎日。まるで、山本氏が体感していたようなスピードのように。敗戦後からの12年間を感じていただきたいと思います。

 

煙害問題における熱き物語

ある町の高い煙突
新田次郎(著)、文藝春秋

茨城県日立市の象徴である「大煙突」は、いかにして誕生したか。外国人技師との出会いをきっかけに、煙害撲滅を粘り強く訴えた若者と、世界一高い煙突を建てて、住民との共存を目指した企業の決断。足尾や別子の悲劇を日立鉱山では繰り返さない―今日のCSR(企業の社会的責任)の原点を描いた力作。(文庫版 表紙裏)

 

明治から大正にかけて、急激に発達した日立鉱山の煙害問題におけるノンフィクション。

日本は世界一の公害国と言われているそうですが、公害は泥沼化し、これまでに完全に解決した事例はほぼないのだそうです。しかし、本書は公害の問題が見事に解決された、たぐいまれな事例です。

まず前提にあるのは、公害は、もともと人間が作り出すものが多いということ。公害を防ぐには人間の考え方を改めなくてはならないのです。それでも、政治的、経済的な思惑がうごめいた結果、公害は発生します。

本書で描かれているのは、公害が発生してからの、人間同士の良心と情熱です。当時の状況では、公害が発生しても「お国のため」と農民たちを切り捨てることもできました。しかし、社員たちは、誠意を持って交渉し続けたのです。

とにかく熱い作品です。世の中の理不尽をなくすことは不可能ですが、このような解決方法もあるのだと知っていただけたら嬉しく思います。

 

戦後の広島を襲った台風の記録

空白の天気図
柳田邦男(著)、文藝春秋

昭和20年9月17日。敗戦直後に襲った枕崎台風は、死者不明者三千人超の被害を日本にもたらした。その内二千人強は広島県。なぜ同地で被害は膨らんだのか?原爆によって通信も組織も壊滅した状況下、自らも放射線障害に苦しみながら、観測と調査を続けた広島気象台台員たちの闘いを描く傑作ノンフィクション。(表紙裏)

 

昭和20年8月6日の広島。原子爆弾が落とされた広島に、未曾有の暴風雨と洪水が襲ったことを、みなさまはご存知でしょうか。

本書は、昭和20年9月17日に広島を襲った枕崎台風の惨禍に関する記録が書かれたノンフィクションです。まさしく、戦争の時代と戦後史の接点といえる時期です。

二重の苦難の中で、人々はどのように生きていったのか。人間の強さとは。

本書の主人公は、広島地方気象台の台員です。他の職種の人々も出てきますが、惨禍の中でも「職務的な任務を守り抜いた人々が多かった」のは大変意外でした。自分の職種を全うする、という責任感。現代の私たちにはあるでしょうか。

きれいごとではなく、真実が書かれている作品です。覚悟してお読みくださいね。

 

ノンフィクションの名作4選

興味のある作品はありましたでしょうか?今回ご紹介した4作品は、とにかく「すごい」です。

普段ノンフィクションを読まれない方にぜひ読んでいただければ嬉しく思います。

 

今回ご紹介した書籍

打ちのめされるようなすごい本
米原万里(著)、文藝春秋

収容所から来た遺書
辺見じゅん(著)、文藝春秋

ある町の高い煙突
新田次郎(著)、文藝春秋

空白の天気図
柳田邦男(著)、文藝春秋