センス抜群!ピース 又吉直樹のおすすめ本・エッセイ
更新日:2019/3/11
『火花』で芥川賞を受賞し、時代の寵児となった芸人の又吉直樹さん。又吉さんは、芥川賞を受賞するずっと前から、その才能を発揮していました。
今回は、又吉さんの世界観をたっぷりと味わえる作品をご紹介します。
『カキフライが無いなら来なかった』
『カキフライが無いなら来なかった』
幻冬舎
「文学すぎる戯言か お題のない大喜利か」
帯にそう書かれた本書は、妄想文学の鬼才と評される、せきしろさんとの共著です。
筆者2人が日常生活で感じたことや気づいたことが、エッセイ、自由律俳句、散文、写真で表現されており、読み応え十分の1冊となっています。
本書はクスリと笑えるポイントが満載。
しかし、ただの笑える作品ではありません。ユーモアの中に、途方もない孤独や自嘲も織り交ぜられており、そのさじ加減が絶妙なのです。
ここで、私が好きなエッセイをひとつ紹介したいと思います。
「便所目当ての百貨店だが買い物顔を作る」
百貨店に足を踏み入れトイレの方向を示す看板を目で追いながら、気が付くと僕は無意識のうちにいかにも何かを購入しそうな雰囲気を全力で醸し出してしまっている。全く興味が無い服を二度見したり、少し触れてみたり、今にも鼻唄を歌いだしそうな表情までも意識的に浮かべている。
だが実際のところは余裕など全く無く、自分が触っていた商品をよくよく見ると奇怪な模様の婦人服だったりして驚く。そんな状況に陥っても、なお僕は、「母親にちょっとね…」という表情を作ってしまうから厄介だ。
自分は何をしているのだ。誰も僕の行動に注目などしていないのに。(p28)
このように文章で読むと、又吉さんの姿を想像するからか、つい笑ってしまいますよね。
でも、ふと気づくのです。自分もこのようなことをやっているなと。そして、それはこんなにも無意味で滑稽なことなのだと……。
『新・四字熟語』
『新・四字熟語』
幻冬舎
「現世を標榜する新たな四字熟語があって然るべき。」というコンセプトで作られた1冊。
本書も、先ほどと同様、どれもこれもクスリと笑えて、心から共感できるものばかり。
「白服伽哩(しろふくかりー)」
白い衣服にカレーが飛散する様子から、美しいものに付く汚れは目立つという意。
落ちこぼれが失敗しても特に世間は騒がないが、優秀な者の汚点には滅法反応が早い。実は良い人と呼ばれる方が好感度が高く、普段愛想の良い人物が不満を洩らすと総すかんを喰らう。自分も含め、身の回りのものはある程度汚しておいた方が得策だ。(p19)
「全力保養(ぜんりょくほよう)」
保養に全力を尽くし過ぎて、逆に疲れてしまうこと。
久々の休みだったので、朝から、エステに行き、そのあとスーパー銭湯に行き、マッサージにも行き、酸素カプセルにも入りました。全力保養というやつでしょうか、めっちゃしんどいです。(p110)
「雨男主張(あめおとこしゅちょう)」
大事な日に決まって雨が降るという印象があっても、必ず晴れている日もあるはず。無意識のうちに、雨の日だけをカウントしてしまっているのです。比率を出してみたら、恐らく降水確率と同じくらいです。雨男とか主張するのは、ある意味無茶苦茶自意識過剰なんです。でも僕は雨男です。(p240)
又吉さんのセンスには脱帽です。
サラリと読めるけれど、学びや気づきが詰まっているので、自分の言動を見直す良いきっかけにもなりますよ。滑稽だと思って読んでいると、言い当てられてついドキッとしてしまうかも……?!
『みんな十四歳だった!』
『みんな十四歳だった!』
新潮社
本書は吉本興業の企画本で、吉本芸人17人が、自分が14歳だった時のことを語っている1冊です。
オリエンタルラジオ・藤森さん:仲間と一緒に万引きできなくて、裏切り者扱いされた「あの頃」。
森三中・大島さん:砂場に掘った穴に裸で埋められたこともあった「あの頃」。
など、つらい過去をカミングアウトしている人も多く、読んでいて胸が苦しくなります。
「まわりのみんなを悩ませてしまうほど真面目だった「あの頃」」
「逃げて逃げて逃げまくれ」
いまのつらいことって、ずっと続くわけじゃない。周囲とうまくいかなかったり、自分を変人のように感じたり、そういうことは、実は、誰にでもあること。しかも、大人になると、決してすべてがそうだとは言わないけれど、それなりに、美しいことだってある。僕の場合は、芥川龍之介や太宰治などの「文学」でそれを知った。(p95)
又吉さんのページの冒頭部分は、このようにはじまります。そして、又吉さんの原点がほどかれていきます――。
又吉さんの過去を深く深く掘り下げているので、こちらもぜひ読んでほしいですね。
14歳の頃は普通の子どもだった吉本芸人たち。多くの試練を乗り越えて努力し続けたからこそ、現在テレビで活躍されているのだと思います。悩んだ時、苦しくなった時に読むと、私も頑張ろうと勇気をもらえる作品ですよ。
『東京百景』
『東京百景』
ヨシモトブックス
『東京百景』を書き終えた時、僕は三十二歳の中年になっていた。
青春と云うには老け込んだ。
だが大人と云うには頼りない。
誇れる事は一通りの恥をかいたという事のみ。
(まえがき)
ピース又吉さんの初の単独単行本。100編からなる『東京百景』は、『火花』の原点といわれています。
書生芸人が上京してからの日々、芸人として活躍する日々を東京の風景を描きながら綴る自伝的エッセイです。
多くの人は見逃してしまうような東京の何気ない風景を拾い上げ、すれ違う人物、行き場のない気持ちなどを味のある文章で表現しています。
言葉のセンスが良く、切なくなるような巧みな表現の中にもユーモアが光り、ピース又吉さんの独特な世界観に引き込まれます。ピース又吉さんの豊かな感性が感じられる作品としておすすめです。
『第2図書係補佐』
『第2図書係補佐』
幻冬舎
僕の役割は本の解説や批評ではありません。自分の生活の傍らに常に本という存在があることを書こうと思いました。
(まえがき)
お笑い界きっての読書家の又吉さんが太宰治、江戸川乱歩などの作品を紹介しながら自身を綴っています。芥川賞作家の中村文則氏との対談も巻末に収載されています。
本書に登場する本は、ひとくくりにはできないほどバラエティーに富んでいます。
『万延元年のフットボール』『コインロッカー・ベイビーズ』『告白』『リンダリンダラバーソール』……といった具合です。
ご本人がまえがきで「解説や批評ではない」と書かれている通り、その類の内容ではありません。
本を読んだから、思い付いたこと、救われたことなどが綴られています。
それらの話は単純に面白く、しかも簡潔できれいな文体だからこそ読みやすいのです。胸を揺さぶられるエッセイ集です。
『夜を乗り越える』
『夜を乗り越える』
小学館
本を読んで共感するということは、間違いなく読書の中で重要でおもしろい部分です。でもそれが本のおもしろさの半分。残りの半分は新しい感覚の発見だと思います。
(本文より)
又吉さんが少年期から読んできた多種多様な小説を通して、「文学との出会い」「なぜ本を読むのか」などについて語られています。
また、芥川賞受賞作『火花』についての創作秘話やそれぞれの著作への想いも明かされています。
「なぜ本を読むのか」について語られているページでは、引用文の中にもあるように、安易な共感を求めようとする読者への苦言も呈しています。
少年が文学に出会うことで助けられ、様々な夜を乗り越えてきた過去を顧みる、又吉さん初の新書です。
『芸人と俳人』
『芸人と俳人』
集英社
俳句に憧れをもっていたものの、どこかに『恐ろしい』という印象をもっていた。
(本文より)
又吉さんが、俳人・堀本裕樹氏に弟子入りし、2年の学びを経て、次第に俳句の面白さに目覚めていく過程が語られています。
俳句の創作は「恐ろしい」と感じていた又吉さんによる20句を超える俳句と書き下ろしエッセイです。
言葉を生業とする両人が交わした対話からは、お笑いと俳句の意外な共通点が読み取れます。
芥川賞受賞作家が、俳句の世界に足を踏み入れ、プロの俳人の手ほどきにより、俳句を理解してゆく過程が楽しく描かれています。俳句入門書としてもオススメできる1冊です。
又吉さんワールドを楽しもう
『火花』とはまた違う、独特でユニークな又吉さんの世界観は、読めば読むほどハマること間違い無し。
作品からは小説だけでなく、様々なことに挑戦している又吉さん自身のことがよくわかります。ぜひ、経験してみてくださいね。
【関連記事】笑えて泣けてる名作多し! 西加奈子 おすすめ本