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穂村弘のクセになるエッセイ ”超臆病な歌人”の傑作エッセイにあの江國香織もハマった!


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あなたは「穂村弘(ほむら・ひろし)」という歌人をご存知でしょうか。穂村氏は、現代短歌を代表する一人でありながら、批評家、エッセイスト、絵本の翻訳家とマルチに活躍されています。

歌人というと堅いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、穂村氏のエッセイは、ゆる〜い雰囲気がクセになる、クスッと笑えるものばかり。

独特なリズムの作風にはまる人も多く、「自分は穂村弘ファン!」と公表している著名な作家も多いです。江國香織さん、山崎ナオコーラさん、三浦しをんさん、西加奈子さん、南伸坊さんなどは文庫本の解説も書いているほど。

今回紹介する『現実入門』は、穂村氏の作品を初めて読む人にはぴったり!

結婚や離婚、独り暮らしをしたこともない。さらにはキャバクラも海外旅行も未経験!?そんな「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」の42歳・ほむらさんが、光文社の美人女性編集者サクマさんと一緒に、これまで一度もしたことのないあれこれに挑戦し感想を書くというエッセイとなっています。

読者の皆さんに興味を持ってもらうためにも、『現実入門』文庫本の最後に掲載されている、恋愛小説で有名な作家・江國香織さんによる解説を引用しましょう。

この本は私にとって、それこそ「つぼった」一冊だったのだけれど、それは初めて本屋さんで目にした瞬間に、認めたくないけれど予感ができた。『現実入門』というタイトル、そしてその下に手書き文字で記された、「ほんとにみんな こんなことを?」という文言。どちらからも目が離せなくなった。それはほとんど誘惑だった。この本を読みたい。読んで笑いたい。でもそんなことをしてはいけない気がする−。

私は勘の鋭い方ではないが、この本に関しては、罠の存在を予感していたのだと思う。そして、そのことをなぜ認めたくないのかといえば、認めれば、それはこの本が私のつぼにはまったのではなく、私が穂村さんの思うつぼにはまったのだということを、認めることになるからだ。

それでも―。

落とし穴には落ちてみるべきだと私は思う。

嫌味のない文章と観察眼のよさ、そして会話の拾い方の妙。今回読み返してみて、私は自分がおなじところで何度でも笑うことにびっくりした。(p250-251)

今回はほむらさんの3つの「初体験」におけるエピソードを紹介します。ぜひ、穂村ワールドを体験してみてくださいね。

■ご紹介する本
現実入門―ほんとにみんなこんなことを?
穂村弘 (著)、光文社文庫

 

りそな姫(初めての「占い」)

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この章では、ほむらさんが初めての「占い」にチャレンジ!

りそな銀行の裏にいる「りそな姫」という占い師が評判が良いと知り、サクマさんとともに向かうことになったとき。

でも、と私は思う。あさひ銀行と大和銀行が合併してりそな銀行になったのは、ついこの間のことじゃなかったか?りそな姫は、それまではあさひ姫、さらにその前は協和埼玉姫だったのだろうか。(p51)

と心の中でツッコミを入れるほむらさん。

占い師に、「あんたのここのホクロ。これはね。リーダーボクロっていうのよ」と言われたほむらさん。

私はタモリのホクロを思い出そうとするが、サングラスしか思い出せない。それにタモリ…リーダーなのか?(p54)

光文社の女性編集者サクマさんと「りそな姫」のやり取りを、隣で聞くほむらさんも面白いです。

りそな姫はサクマさんの生年月日を聞くなり、「ああ、あーんたは食い意地がはってるね」と云う。「ちゅうねん太りにならないように、気をつけなさい」生年月日でそんなことが決まるものだろうか。

それから「姫」は私の方に顔を向けて、「この子はな、おいしいものを食べさせてやれば上機嫌だ、おぼえときなさい」と云う。いや、ほとんどのひとはおいしいものを食べれば上機嫌じゃないか、と思うが…

「よかったねー、あんたきょうここに座って、きょう、ここへこなかったら、きーっと、ちゅうねん太りになってたわ」

なんだか、めちゃくちゃ云ってないか。(p57)

 

アカスリとムームー(初めての「健康ランド」と「アカスリ」)

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次に、初めての「健康ランド」と「アカスリ」にチャレンジするほむらさん。

私は乗り気になれなかった。庶民的な娯楽が苦手というか、嫌いなのだ。

今でもやっているのだろうか。NHKの『のど自慢』というテレビ番組があって、それをみる度に、いたたまれない気持ちになったものだ。
お年寄りが出てきて調子の外れた歌を歌う。カアンと鐘がひとつ鳴って、帰ろうとすると、必ず司会者が呼び止めるのだ。

「おばあちゃん、おばあちゃん、ちょっとちょっと」なんて馴れ馴れしいんだ、と私は思う。

(中略)

人生の終着駅って「ここ」なのか、と思って私の目の前は暗くなった。
庶民の天国、おそろしい。(p127-128)

入場時に、健康ランドのテーマソングを歌うと、入場料が500円引きになると聞いたほむらさんは、心の中でこうつぶやくのです。

私の心のなかの村上春樹が泣きっ面になるのがわかった。頑張れ春樹、風の歌を聴け、と思いながら、私はもごもごと呟く。(p129)

 

真夏のおめでとう(初めての「結婚おめでとう披露パーティー」)

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ガールフレンドと一緒にいても、すぐにファミリーレストランに入りたがる私は反省した。私と結婚したら、その健やかなるときも病めるときも、しょっちゅうファミレスに行くことになる。それは嫌かもしれないなあ。(p71)

 

 アッと驚く結末に心を鷲掴みにされる『現実入門』

ほむらさんのツッコミを紹介してきましたが、気に入ったものはあったでしょうか?

今回紹介したもの以外にも「献血」「モデルルーム見学」「合コン」「子育て」「競馬」「大相撲観戦」「一人暮らし」「お義父さんへの"娘さんをください”の挨拶」など、約20個の初体験企画に挑戦しているほむらさん。つい応援したくなりますね。

また、この作品の魅力はこれだけではありません。実は、あとがきでアッと驚く結末が待っているのがこの作品の最大の魅力なのです。続きはぜひ作品を読んでみてくださいね。

オチのつけ方が秀逸で、エッセイの既存概念をぶち壊してくれること間違い無しです。

■ご紹介した本
現実入門―ほんとにみんなこんなことを?
穂村弘 (著)、光文社文庫

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ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。