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【没後10年】通訳界のカリスマ!ロシア語同時通訳者・米原万里の世界


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ロシア語の同時通訳者であり、エッセイスト・作家の米原万里さんが2006年にこの世を去ってから、今年で10年になります。

通訳として出会った数々の経験を、軽妙な語り口で描くエッセイが人気を博しました。

同時通訳というのは、逐次(ちくじ)通訳とは違い、発言者の言葉を聞きながらその場で通訳していく方法のことを指します。(逐次通訳では、発言をその都度区切りながら通訳していきます。)

ロシア語の同時通訳者として、通訳での苦労話や失敗談、面白エピソードなどを、毒舌で、ちょっと下ネタも取り入れながら語るエッセイは、読めばどれもクスっと笑えるユーモアに溢れています。

今回は、そんな米原万里さんの著作のなかから、特におすすめの本を選んでみました。

 

『不実な美女か 貞淑な醜女(ブス)か』

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1994年度、第46回読売文学賞を受賞したエッセイです。通訳に関するエピソードを交えながら、「通訳とは何か」「外国語を学ぶとはどういうことか」に迫ります。

タイトルはまるで男女の関係を表すかのようなタイトルですが、これは翻訳に関するイタリア・ルネサンスの格言「翻訳は女に似ている。忠実なときには糠味噌くさく、美しいときには不実である」(p.148)から来ています。正確に翻訳しようとすれば文章が美しくなくなり、美しい文章を目指せば正しい意味に翻訳できなくなる、という葛藤を表しています。

先にご紹介した通り、「同時通訳」というのは話を聞きながらその場で通訳をしなければなりません。限られた時間のなかで、どうやって発言の意味を読み取り、相手に伝えるのか、豊富なエピソードを通して、その苦労の一端が垣間見えます。通訳・翻訳というと、ある言葉に対して、1対1で対応する訳語があるかのように誤解されることが多いです。しかし実際には、通訳は単に言葉を変換するだけではなく、異なる文化間のコミュニケーションの橋渡し役であることを認識させられます。

■『不実な美女か貞淑な醜女か』(新潮文庫)

 

『旅行者の朝食』

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雑誌や新聞などに掲載されたエッセイの中から、「食」に関する作品を集めて1冊にまとめた本です。

タイトルの「旅行者の朝食」は、ソビエトにあった、非常にまずいことで有名な缶詰の名前だそうです。

米原万里さんといえば、通訳に関するエッセイが多いのですが、これはロシアや東欧、また日本国内の食べ物に関する歴史や逸話を紹介する本で、ゆったりとした気持ちで読める1冊になっています。

日本人にとっては、あまり馴染みのない食べ物なども取り上げられていますが、米原万里さんの文章を読むと「どんな食べ物なんだろう?」「食べてみたい」という気持ちになるから不思議です。

「食」と「文化」の雑学が面白く、未知の食への好奇心が湧いてきます。

■『旅行者の朝食』(文春文庫)

 

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

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2002年度、第33回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した作品です。米原万里さんはその少女時代を、チェコスロバキア(当時)のプラハにあったソビエト学校で過ごしました。30年後、かつて仲の良かった3人の同級生に再会するため、プラハへと向かいます。その旅の経過をたどりながら、かつてのソビエト学校での思い出を振り返る、ノンフィクション作品です。

この本の舞台となるのは1990年代の東欧です。ギリシャ、ルーマニア、ユーゴスラビア出身の友人たちは、ソ連崩壊後の激動のなかで、どのような人生を過ごして行ったのでしょうか。友人たちを探す過程で、その波乱に満ちた人生が少しずつ浮き彫りにされていきます。

勉強嫌いだったのに、医者になったリッツァ。祖国を離れ、イギリス人として生きるアーニャ。そして、内戦のなか生きるヤースナ。望むと望まざるとに関わらず、母国の歴史、時代、その移り変わりに翻弄される3人の女性が、それでも自分の人生を選び取っていく姿に、深く考えさせられます。

■『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)

 

『オリガ・モリソヴナの反語法』

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2003年度、第13回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した小説です。米原万里さんは、その生涯のなかで多くのエッセイを出版されていますが、小説に関してはこの1冊しか出していません。

最初の舞台は1960年代のプラハにあるソビエト学校。先ほど、米原万里さんがプラハのソビエト学校で少女時代を過ごしたとご紹介した通り、この本の主人公である弘世志摩は、米原万里さんご自身を思わせるキャラクターです。

主人公が通うソビエト学校には、不思議な教師がいました。舞踊教師のオリガ・モリソヴナです。歯に衣着せぬ話し方で、相手を罵る時はあえて「天才」と呼ぶ「反語法」を使っていました。

そんなオリガ・モリソヴナを志摩は慕っていましたが、じつは彼女の過去には深い謎が隠されていました。

舞台は変わり、1990年代のモスクワに移ります。志摩はずっと心にひっかかっていたオリガ・モリソヴナの過去を知るため、モスクワに渡ります。かつての旧友を探しながら、少しずつオリガ・モリソヴナの過去の謎を解いていきます。

オリガ・モリソヴナの謎を紐解いていく様子が、まるでミステリーのような筆致で描かれます。おそらく今までの作者の経験を下敷きにかかれただけあり、時代描写もリアルです。

1ページ1ページ、先が気になってしょうがない、そんな1冊です。

■『オリガ・モリソヴナの反語法』(集英社文庫)

 

『偉くない「私」が一番自由』

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最後に、最近出版された本を1冊ご紹介します。

こちらは没後10年という区切りの年にあたって、今まで米原万里さんが執筆してきたエッセイや、インタビュー、対談などから選りすぐった作品を集めた1冊です。ロシア料理のフルコース仕立ての構成になっており、編者の佐藤優さんによる解説も収録されています。

収録されているエッセイは、通訳・ロシア・食など、幅広いテーマから集められており、非常に読み応えのある1冊に仕上がっています。これまで単行本には収録されていなかったエッセイも多数収録されています。また、未公開の東京外語大学時代の卒業論文「ニコライ・アレクセーエヴィッチ・ネクラーソフの生涯」も掲載されており、米原万里さんの作品を初めて読む人だけでなく、米原万里のファンの方にもおすすめです。

■『偉くない「私」が一番自由』(文春文庫)

 

おわりに

「ロシア語同時通訳者」の経験を活かし、「通訳」や「ロシア」、そして「東欧」などに関するエッセイを数多く残された米原万里さん。そのエッセイは私たちがあまりよく知らない外国に対する新しい視点を提供し、知的好奇心を満たしてくれるものであることは間違いありません。

没後10年経っても根強い人気を誇る彼女の作品の数々を、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。

米原万里さんの作品をもっとみる

 

この記事の筆者

ラッテ
3度の飯より本が好き。興味のおもむくままに、いろいろな分野の本を読んでいます。特によく読むジャンルは、IT、美術、語学、旅行、インテリア、漫画など。本好きが高じて、書店員をしていたこともあります。

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