J・C・カールソン『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』ってどんな本?
『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』
J・C・カールソン(著)、東洋経済新報社
本書は、インテリジェンスの技法をビジネスパーソン向けに解説した優れた実用書である。
インテリジェンスの技法をビジネスに活かすという触れ込みの本はいくつもあるが、間違いなく日本語で読める最高の一冊だ。これ以上わかりやすく書かれた本を私は知らない。
ー佐藤優(作家・元外務省主任分析官)(p5)
作者のカールソン氏は、珍しい経歴を持つ作家です。
大学卒業後、スターバックス(コーヒーチェーン)、バクスターインターナショナル(製薬会社)、テクトロニクス(計測器メーカー)などの名門企業を渡り歩いた後、CIAに入局。インテリジェンス・オフィサー(謀報員)として10年近く勤務した後、作家に転向、現在に至ります。
本書のテーマは「インテリジェンス(謀報)」。
インテリジェンスには、「ポジティブ・インテリジェンス(ターゲットが隠している情報を入手すること)」と「カウンター・インテリジェンス(秘匿する情報を防護すること)」という2つの側面があります。いわゆる矛と盾の関係です。そのため、本書を読めば、双方の基本的な知識を得ることができます。
当然ながら、機密情報や、CIAの作戦に悪影響が及ぶ恐れのあることはまったく書かれていません。
ですが、映画でしか見る機会のないCIAのあれこれを知ることができるという点で、本書は大変貴重な作品です。
スパイ映画などが好きな方にはたまらない一冊と言えるでしょう。
ビジネスに応用できるテクニックとは
作者曰く「ハリウッド映画で描かれるCIAの姿は98パーセントまでは嘘」。
競合他社の役員室に盗聴器を仕掛けたり、会社を裏切った社員を問い詰めて罪を白状させたり、つけ髭で変装したり……CIAはそんなことはしないのです。あくまでも合法の手法で、情報を引き出し、情報を守ります。
たとえば、この作品のタイトルにある「CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる」という言葉通り、ビジネスに応用できる具体例を一つ挙げてみましょう。
組織の意思決定をする人間が、必ず最高の肩書きをもっているとは限らない。表向きリーダーとなっている人がいても、実際にはそのリーダーの友人やアドバイザーが最終的な意思決定をしていることは珍しくない。(p279)
人間がいかに肩書きに惑わされやすい存在かがわかる一例です。協力者なしでは、誰が最終的な意思決定者かを見抜くことは難しいでしょう。
そのため、協力者と呼べる外部の人間と慎重に接触し、個人的な信頼関係を築く必要があります。
その点において、CIA諜報員はプロフェッショナル。相手の心に懐柔し、話したい気持ちにさせ、有益な情報を引き出すテクニックは最高峰です。
では、CIA諜報員たちは、どのように相手から情報を引き出しているのでしょう?その具体的方法については、ぜひ本書で確認してみてください。
CIAには、「レッドセル」という部署がある
ビジネスに応用できるという部分を除いたとしても、CIAを知る読み物として大変興味深く、好奇心をくすぐる構成になっているのが本書です。たとえば……
世の中には被害妄想気味な人がいる。
CIAには、そういう人にとって居心地のよさそうな部署がある。「レッドセル」と呼ばれる部署がそれだ。
そこでは、あらゆる種類の突拍子もない陰謀を妄想することが仕事となる。実際にはまずありえないような攻撃や大惨事を詳しく想定し、その場合にアメリカがどう対応すべきかを検討する。(p144)
「レッドセル」という部署があることをご存知の方は、少ないのではないでしょうか。CIAの内部にいた作者だからこそ書けるエピソードはどれも驚くようなものばかり。
また、ビジネスの観点で見れば、「レッドセル」は危機管理の分野になるでしょう。
あらゆる可能性を想像し、もし発生した場合、どのような対応が可能かを考えること。たとえ「ありえない」ようなことでも、「もしそうなったとしたら」と考え、シナリオと対応策を練っておく。
アメリカ同時多発テロ、サブプライムローン危機……残念なことに、「それはいくら何でも非現実的すぎるのでは」と笑われてしまうような惨事が実際に発生しています。
もし、危機が迫っていることを感じ、早めに対応できていたなら……未来は変わっていたかもしれません。私たちは歴史に学ばなくてはならないことを改めて感じさせられます。
CIAのあれこれを楽しめる一冊
控えめにいっても、かなり面白いこの作品。ぜひ一度手にとってみてくださいね。
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