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エド・キャットムル『ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』|ピクサー創始者のマネジメントとは?


『ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』
エド・キャットムル(著)、エイミー・ワラス(著)、石原薫(訳)
ダイヤモンド社

この本は、ピクサーの社員やエンタテイメント界の管理職やアニメーターだけではなく、創造性と問題解決力を育む環境で働きたいと思っているすべての人に向けた本だ。(p15)

 

『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』など、ヒット作品を連発しているピクサー・アニメーション・スタジオ。

本書は、ピクサー・アニメーション・スタジオの創設者であり、ピクサー・アニメーション/ディズニー・アニメーション社長のエド・キャットムルによって書かれた作品です。

 

本書は、「はじまり」「新しいものを守る」「構築と持続」「検証」の四部構成になっている。回顧録を書いたつもりはないが、自分たちが犯した失敗、得た教訓、それをどのように生かしたかを理解してもらうために、ときおり私自身、そしてピクサーの歴史をほじくり返さざるを得なかった。

私には集団で有意義なものを創造していくこと、その後どんな最強の企画にも影を落とす破壊の力からそれを守ることについて、言いたいことがたくさんある。ピクサーやディズニー・アニメーションでの混乱や紆余曲折にまつわる私の探求が、企業を阻害し、ときには破滅に追いやる落とし穴をよけて通る際の一助になれば幸いだ。(p16-17)

 

本書の魅力は、描かれている事象が「普遍的」であることに尽きます。

また、ピクサーや、ディズニー(ピクサーはウォルト・ディズニー・スタジオの完全子会社です)、交流の深かったスティーブ・ジョブスの裏話など、興味深いコンテンツが盛りだくさんの一冊なので、すぐに読み切ってしまいますよ。

 

「ピクサーらしさ」とは

では、本書で印象的だったエピソードをひとつ紹介したいと思います。

あのヒット作『トイ・ストーリー』の続編として、『トイ・ストーリー2』『トイ・ストーリー3』がリリースされ映画館で上映されましたが、『トイ・ストーリー2』はもともと劇場公開の予定はなかったのだそう。なぜなら、ピクサーの親会社であるウォルト・ディズニーが、劇場公開をせずにオリジナルビデオとして販売することを提示したからです。

ディスニー側は、過去にピクサーが『続編』としてリリースした『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!』という作品が、動員数が伸びず大失敗に終わっていたことを取り上げ、ピクサーはそれに納得し、承諾しました。ですが、ピクサーはそれがまちがいだったことに気づきます。映画ではなく、オリジナルビデオを作るということは、作品の質が下がること。

その事実はスタッフの士気を下げ、社内文化にまでマイナスの影響を与えるようになってしまいました。

プロジェクトが開始して数ヶ月後、エドは会議で『トイ・ストーリー2』を劇場公開作品にしようと提案します。

その裏側には「ピクサーらしさ」を大事にし、状況によっては大きな変化やリスクをとることも厭わないという信念が隠されていました。

 

『トイ・ストーリー』をきっかけに、ピクサーのクリエイティブを特徴づける二つの基本的な考え方が生まれ、皆が心の拠り所にし、標語か合い言葉のように会議で繰り返し唱えるようになった。

第一の原則は、「物語が一番偉い(Story Is King)」。つまり、技術であれ、物品販売のチャンスであれ、何であってもストーリーの妨げになってはならないことを意味する。

 

もう一つの原則は、「プロセスを信じよ(Trust the Process)」。これを気に入っているのは、非常に安心感が持てるからだった。さまざまな要素が絡むクリエイティブな作業には、必ず困難や失敗がついてくるが、「プロセス」に従って進めば切りぬけられると信じていい、そういう意味だ。(p101-102)

 

普遍的で示唆に富んだ一冊

結果として、『トイ・ストーリー2』は劇場公開作品となりましたが、それで「めでたしめでたし」とは終わりませんでした。「続編だから本編よりも大変ではないだろう」という甘さから、クオリティーの低下や納期の遅れなど、さまざまな厳しい問題が発生したのです。

一方、ディズニーの幹部の考えはピクサー側とは違っていました。「出来は十分だし、見直している時間はない。所詮、続編ではないか」。

冒頭でもお伝えしたように、描かれている事象が「普遍的」であることが、本書の魅力の一つだと思います。

たとえば今回ご紹介したエピソードであれば、見通しの甘さ、タイムマネジメント、時間と質のどちらをどこまで優先するか、親会社と意見が相容れなかった時の対応など……。

これらは、どんな業種・職種のビジネスマンにも通じることではないでしょうか。

ビジネス書というのは「ふーん」で終わってしまっては意味がないと思っています。もし「ピクサーのような大企業と比べても意味がない」と思ってしまえば、良書を読んでも活かすことはできないのではないでしょうか。

もし本書をお読みになる際は「自分ならどうするだろう?」と考えながら読み進めていくと、価値観が広がりますよ。

 

創造性と問題解決力を育む

本書は、示唆に富んだ良書だと個人的に思います。ぜひとも参考にしていただければ幸いです。

 

今回ご紹介した書籍

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法
エド・キャットムル(著)、エイミー・ワラス(著)、石原薫(訳)、ダイヤモンド社

 

偉大な経営者たちが書いた本はほかにもあります。
彼らの本は、新しいアイデアを生み出す手助けをしてくれます!