大人もトラウマ注意!「怪談えほんシリーズ」をまとめて紹介
更新日:2024/3/8
大人になって、絵本を読む機会がめっきりなくなった、という方は多いのではないでしょうか。
ファンタジーや子供向けの絵本はちょっと……と思っている方に読んでほしい絵本があります。
それは、岩崎書店の「怪談えほんシリーズ」。
有名な作家とイラストレーターがタッグを組み、絵本でありながら大人でもビクッとしてしまうような怖いお話をお届けするシリーズです。
「怖いから読むときは気を付けて」って言われると、怖いもの見たさで逆に興味が湧いてきませんか?
原画展が各地で開催されるなど注目されている「怪談えほん」。
今回は、この「怪談えほんシリーズ」の作品をまとめてご紹介します。絵本だからと侮ることなかれ、ですよ。
第1期作品 今はいらないと思っても……。
『悪い本』
『悪い本』
宮部みゆき(作)、吉田尚令(絵)
この世の悪いことを、この世の誰よりも知っているという「悪い本」。悪い本は、あなたに一番悪いことを教えてくれるでしょう。
今は「いらない」と思っていても、あなたはいつか、悪い本と仲良くなりたいと思うはず……。
『模倣犯』などで知られる作家・宮部みゆきさんと、双子のお父さんでもあるイラストレーターの吉田尚令さんの共作。
この世で一番悪いことが何か、明確な答えはありません。しかし読んだ後、誰もが持っている悪い部分について考えるようになるはずです。
くまや猿などの人形が不気味で悪い予感がするのに、なぜか先を読みたくなる……そんな絵本です。
第1期作品 自分にだけ見える弟。
『マイマイとナイナイ』
『マイマイとナイナイ』
皆川博子(作)、宇野亜喜良(絵)
マイマイは、弟のナイナイを見つけた。ナイナイは小さすぎて、母さんにも父さんにも見えない。
マイマイは、そんな小さなナイナイをくるみの殻に入れた。ある日森にでかけたとき、マイマイの目が壊れてしまい……。
『薔薇密室』などの幻想的で美しい世界を描く作家・皆川博子さんと、独特なタッチで可愛らしい女性を描くイラストレーター・宇野亜喜良さんの共作。
異世界に迷い込んだような、救いようがない物語でありながら、その不安定で美しいイラストに引き込まれます。
自分に見えるものが、他人には見えないものだったとき、自分ならどうするか……と、考えてしまうことでしょう。
第1期作品 高くて暗いところに何かいる。
『いるの いないの』
『いるの いないの』
京極夏彦(作)、町田尚子(著)
田舎のおばあさんの家で暮らすことになった「ぼく」。おばあさんの家の高いところには“梁”があって、とても暗い。「ぼく」は“梁”の上が気になって……。
「百鬼夜行シリーズ」の作者で妖怪研究家でもある京極夏彦さんと、ちょっと影のある絵と猫のイラストが特徴的なイラストレーター・町田尚子さんによる共作。
文字が少ないことで、より町田さん独特のジトッとしたイラストから得体の知れない怖さを感じます。
上を見て、誰かがいるという「ぼく」。見ないから、いるのか分からないというおばあさん。みなさんなら、いると思ったら見てしまうでしょうか。
最後のページに待っている恐怖を知りながらも、何度も読んでしまう中毒性のある絵本です。
第1期作品 踏み入れたら戻れない。
『ゆうれいのまち』
『ゆうれいのまち』
恒川光太郎(作)、大畑いくの(絵)
夜中、友達に「遊びに行こう」と誘われた。丘の向こうにひろがる「ゆうれいのまち」に辿りついた友達と「ぼく」。そっと覗いていると、幽霊たちに見つかり追いかけてきた!
そして「ぼく」だけが置いて行かれてしまい……。
ホラー作家であり、幻想的な物語を得意とする恒川光太郎さんと、アメリカで油絵を学び、個展などもおこなっている大畑いくのさんの共作。幽霊たちにさらわれ、元に戻れなくなった「ぼく」を描いた作品です。
この作品に、恐ろしい幽霊は出てきません。しかし、違和感を覚えるコラージュのイラストと、ゆうれいのまちでそのまま大人になっていく「ぼく」に、なんともいえない不安を感じます。
遊びに誘った友達は、本当に「ぼく」の友達だったのでしょうか……?
第1期作品 ありふれた音にある恐怖。
『ちょうつがい きいきい』
『ちょうつがい きいきい』
加門七海(作)、軽部武宏(絵)
部屋の扉からきいきいと音がする。よく見ると、ちょうつがいに挟まったおばけが痛いと叫んでいる! 耳をすますと、家の中に家の外、あちらこちらから、きいきい……。
霊や物の怪を扱う作品を多く執筆している作家・加門七海さんと、『のっぺらぼう』などの妖怪絵本を発表している軽部武宏さんの共作。
普段なら気にしないような小さな音ですが、そんなどこからでも聞こえる音は、本当にただの音なのでしょうか……?
また、この絵本の表紙に描かれている落ちた椿の花にも注目して読んでみてください。椿といえば、病院などのお見舞いで避けられる花ですが……。
第2期作品 足しかないオバケ。
『おんなのしろいあし』
『おんなのしろいあし』
岩井志麻子(作)、寺門孝之(絵)
オバケがいるとみんなから怖がられている古い倉庫。オバケなんて怖くないという男の子が一人でその倉庫を探検してみると、そこには女の白い足が立っていて……。
『ぼっけえ、きょうてえ』の作者である岩井志麻子さんと、神戸芸術工科大学で教授も務めるイラストレーターの寺門孝之さんの共作。
オバケといえばふつう足がないものですが、この絵本に出てくるオバケには足しかありません。また、どんな女なのか? 説明も一切ないのです。
ぺたぺたとついてくる女の白い足から逃げてきた男の子だけど……? 岩井志麻子さんらしい妖艶さも感じる絵本です。
第2期作品 身近にあるものに潜む恐怖
『かがみのなか』
『かがみのなか』
恩田陸(作)、樋口佳絵(絵)
家の中、お店、街角。見ない日はない、どこにでもある鏡。右手を出せば左手を出す、あべこべな鏡だけれど……。
『夜のピクニック』などの作者である恩田陸さんと、個展などで作品を発表している樋口佳絵さんの共作。
鏡に映る自分に引きずり込まれ、鏡の中に入ってしまった女の子の不思議な物語です。女の子は、無事に元の世界に帰ってこられるのでしょうか? 「ただいま」、そう言ったのは……?
誰もが一度は想像したことがあるであろう鏡の中の世界を描いた作品です。身近なものにこそ恐怖が潜んでいるのかもしれない、と考えさせられます。
第2期作品 あなたの近くにもいるかもしれない。
『くうきにんげん』
『くうきにんげん』
綾辻行人(作)、牧野千穂(絵)
「くうきにんげん」は、誰にも見えないけれど、この世界に大勢いるらしい。くうきにんげんは、普通の人間に襲いかかって、空気に変えてしまう。もしあなたが空気になったら……。
『十角館の殺人』をはじめとする「館シリーズ」などの作者である綾辻行人さんと、書籍の装画や挿絵を手がけている牧野千穂さんの共作。
薄気味悪く、想像力を刺激される絵本です。徐々にくうきにんげんが迫ってくるような感覚を覚え、後ろを振り向くのが怖くなることでしょう。
うさぎの女の子が絵本を読んでいるシーンにも注目してみてください。うさぎの女の子と、この絵本の読み手であるわたしたちは、同じ状況にいるのです。
第2期作品 箱が空くたびに……。
『はこ』
『はこ』
小野不由美(作)、nakaban(絵)
何が入っていたか分からない箱。開かないけれど、振ると中から音がする。雨が降る日、気づくと箱が空いていた。けれど中身が空っぽで……。
『十二国記』などの作者である小野不由美さんと、挿絵やアニメーションなどの分野で活躍するnakabanさんの共作。
開かなかったはずの箱が開くたびに、生き物がいなくなっている……そんな物語です。
最初は小さかった箱が、徐々に大きくなっていきます。最後に消えてしまうものはなんなのか? 正体の分からないものに対する恐怖がこの絵本にあります。
もしも子供の頃に読んでいたら、ただの箱が、とても怖いものになっていたかもしれません。
第3期作品 窓がかたかた……
『まどのそと』
『まどのそと』
佐野史郎(作)、ハダタカヒト(絵)
かたかた、と鳴っている窓。風は吹いていないし、地震でもないのに、かたかた鳴り続けている。
眠りたいのに、眠れなくて……。
俳優として活躍する佐野史郎さんが詩を担当し、『ろじうらの伝説』などの絵本を発表しているハダタカヒトさんがイラストを担当した作品です。
シリーズのなかでも一番不穏な空気が漂っています。詩とイラストがどことなく噛み合っておらず、得体のしれない恐怖があるんです。
暗くてよどみのあるイラストがなんとも不気味……。
第3期作品 この列車、どこに向かっているのか?
『おろしてください』
『おろしてください』
有栖川有栖(作)、市川友章(絵)
ある日「ぼく」は、裏山を探検していたときに小さな駅を見つけた。そして、やってきた列車に乗り込むと――。
『月光ゲーム』などの著書で知られる有栖川有栖さんと、怪人や動物をモチーフにした作品を手掛けるアーティストの市川友章さんの共作です。
進む先が分からず、家に帰ることができるのか分からない不安が襲ってきます。また、逃げることのできない列車の中という閉鎖空間がより恐怖をあおります。
列車の乗客が人間じゃない! 自分の存在がバレないように「ぼく」は息を潜めていたのですが……?
第3期作品 食べて食べて、大きくなって……。
『いただきます。ごちそうさま。』
『いただきます。ごちそうさま。』
あさのあつこ(作)、加藤休ミ(絵)
食べることが大好きなぼくは、なんでも口に入れてしまう。そして、ぼくはどんどん大きくなり――。
『バッテリー』などの著書で知られるあさのあつこさんと、クレヨン画家としても活躍する加藤休ミさんの共作。
両親に、好き嫌いなく食べるように言われているぼく。最初は「え、美味しそう」と思って読み進めていくと、とんでもない方向に……。怪談というよりもホラー要素が強めです。
徐々にエスカレートしていく「食べる」という行為。結末は読んでいるうちに想像できたものの、それでも恐怖を感じずにはいられませんでした。
なんといえない後味が残る作品です。
第3期作品 嫌いなあの子に不幸を……。
『おめん』
『おめん』
夢枕獏(作)、辻川奈美(絵)
嫌いなあの子が不幸になれば――。そう思うと現れる、おめん。それを付ければ、どんな願いも叶うけど……。
「陰陽師」シリーズを手掛ける夢枕獏さんと、2021年に『ななくさ つんで ─ななくさがゆを つくろう─』で絵本デビューした辻川奈美さんの共作。
自分以外の誰かに対して、不幸になればいいのにと思う気持ちって、誰にでもあるものですよね。本作では、そんな人間の心の闇が「おめん」を通して描かれます。
人間の恐ろしさを改めて感じます。個人的には、イラストの中にたくさん描かれる花が美しく、だけどとても恐ろしく感じられました。
怪談えほんコンテスト大賞作品
『こっちをみてる』
『こっちをみてる。』
となりそうしち(作)、伊藤潤二(絵)
自分の見る景色の中に、たくさんの顔がある。気づくと、顔は「ぼく」だけを見ていた――。
2018年に怪談えほんコンテストで大賞に選ばれた作品。満を持して、2024年に発売されました。
学校でも、公園でも、家の中でも、ありとあらゆるものに顔があり、すべてが自分を見つめています。
伊藤潤二さんのイラストがとにかくすさまじい。ラストは「くる……これはくるよね……!? あぁ~~やっぱり! 怖い!!」と、予想できていたのに恐ろしかったです。
いやこれは、とんでもない絵本が世に放たれました……!
夜中に1人で読むときはご注意を。
どの絵本も、誰もいない真夜中に読んだら恐ろしいこと間違いなし! 読み聞かせするときも、ゆっくりとトーンを下げてみるといいかもしれません。
今回このコラムで、少しでも「怪談えほん」に興味を持ってもらえたら幸いです。
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