朝井リョウ『何者』あらすじ・魅力とは|就活のリアルを描く『何者』を徹底解析!
更新日:2016/8/23
『何者』
朝井リョウ(著)、新潮社
『桐島、部活やめるってよ』で小説家デビューし、次々と人気作品を世に送り出している朝井リョウさん。
2013年、直木賞を受賞した『何者』は、大学生の就職活動を描いた作品です。
この『何者』は、2016年に実写映画にもなりました。ここでは、映画の原作となった小説の魅力を余すことなくご紹介します。
「就活対策」に明け暮れる主人公たち
『何者』あらすじ
主人公の二宮拓人は、同じ大学に通う神谷光太郎とルームシェアをしている。
拓人はある日、かつて恋人だった田名部瑞月と再会。実は、拓人はひそかに瑞月に想いを寄せていた。
別の日、瑞月の友人である小早川里香が、自分と同じアパートの上階に住んでいることを知った拓人。里香は、恋人の宮本隆良と同棲をしているのだという。
就職活動を控えた拓人・光太郎・瑞月。里香の家に集まっては、一緒にエントリーシートを書いたり、面接対策をしたりするようになるのだが……。
客観的に他人を観察する拓人
拓人はかつて演劇をやっており、脚本を書いて舞台に上がっていました。そのため、人間を観察することが得意です。
留学や海外ボランティア活動に打ち込んだことを武器として、大手企業への就職を目指す里香。
一方、就活に懐疑的で、団体に所属せずに生きていくのだと豪語する隆良。
2人のことを、拓人はどこか冷めた目で観察します。
宅飲みなのに、きれいな食器しか出てこなかった。そこに暮らしている人数以上の人間がいるのに、どうして割箸や紙皿など、適当なものが出てこないのか。それはあの二人はきっと、互いに格好つけたまま一緒に暮らし始めてしまったからだ。(p.93)
「意識高い」系の友人・ギンジとの確執
拓人は、里香の恋人・隆良と、かつての友人・ギンジを重ね合わせていました。
ギンジは拓人と一緒に演劇をやっており、2人は相棒ともいえる仲。
しかし拓人はその一方で、ギンジがSNSで発信する意識の高い言葉や、「がんばってますアピール」に内心うんざりしてもいたのです。
そしてある日、脚本の内容を巡って対立した2人は、修復不能なまでに仲違いをしてしまいます。
ギンジは拓人とやっていた劇団プラネットを離れ、大学をやめて新しい劇団を始めることに。
「就活をしない」と同じ重さの「就活をする」決断を想像できないのはなぜなのだろう。決して、個人として何者かになることを諦めたわけではない。スーツの中身までみんな同じわけではないのだ。
俺は、自分で、自分のやりたいことをやる。就職はしない。舞台の上で生きる。
ギンジの言葉が、頭の中で蘇る。就活をしないと決めた人特有の、自分だけが自分の道を選んで生きていますという自負。いま目の前にいる隆良の全身にも、そのようなものが漂っている。(p.89)
拓人の目には、ギンジも隆良も、「想像力の足りない人間」であると映っていました。
「何者かになりたい」自意識と現実の間で揺れ動く学生たち
就職活動が進むにつれて、登場人物たちは、「何者かになりたい」という自意識と、そううまくはいかない現実の間で、揺れ動きます。
演劇をやめたはずなのに、演劇を扱う企業を受ける拓人。
本は読まないが出版社を志望する光太郎。
家庭の事情で「外資系」という最初の志望を諦めざるをえない瑞月。
OB訪問を重ねても、なかなか内定のとれない里香。
就職活動に興味がないはずなのに、説明会に参加する隆良。
ときどき差し挟まれる彼らのツイッターでのつぶやきは、そんな彼らの「自意識の側面」が全面に押し出されているよう。
その反面、彼らの不安や戸惑いが反映されているようでもあります。
物語の後半、つねに他人を客観的に眺めていた拓人にも、ついに自分自身と向き合わなくてはならないときがやってきます。
残酷な事実をつきつけられるそのシーンは、就職活動中の人や、かつて就職活動をしていた人の心に突き刺さることでしょう。
就職活動のリアルと若者の成長を描く
『何者』は、現代の就職活動のリアルと、その中で悩み成長していく学生の姿を鮮やかに映し出す青春小説です。
ツイッターやフェイスブックなど現代的なモチーフも登場しますが、その根底には「若者の自意識」と「現実」のぶつかり合いという普遍的なテーマが隠されています。
いま学生の方にも、かつて学生だった方にも、多くの方におすすめできる1冊です。
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今回ご紹介した書籍
『何者』
朝井リョウ(著)、新潮社