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朝井リョウさんのおすすめ小説|「斬新な着眼点」を持つ小説家


朝井リョウおすすめ小説

最年少で直木賞を受賞したことで知られる朝井リョウさん。

読者のみなさんは、朝井さんの作品を読んだことがあるでしょうか?

 

10代・20代ならではの焦燥感や葛藤、深層心理を描いた作風は、若者からは「共感できる!」、大人からは「懐かしい!」と絶賛され、幅広い世代から支持されています。

また、斬新な着眼点、どんでん返しが続くストーリー展開、「この文章は朝井さん」とすぐに分かる独特な文体など、朝井さんの作品の特徴は数多くあります。

読んでいるうちに止まらなくなる中毒性を備えていますよ。

 

自分の「外側」と「内側」のギャップとは……

『桐島、部活やめるってよ』表紙

桐島、部活やめるってよ
集英社

田舎の県立高校。バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは…?瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。(表紙裏)

第22回小説すばる新人賞受賞作。

朝井さんの作品を初めて読む方には、まずこの作品をおすすめします。朝井さんの瑞々しく、それでいてリアリティに溢れた文体を堪能できます。

また、この作品の面白いところは、『桐島』が最後まで出てこないこと。桐島が部活をやめる、という話のはずなのに……。不在者が大きな役割を持つ、というのは、朝井さんの作風のひとつでもあります。

作中、学校内という閉鎖的な空間で、確実に存在するヒエラルキー。
ですが、たとえヒエラルキーが下位だとしても、好きなことや好きなものがあれば生きていけるということ。

深い余韻を残す一冊です。

 

就活大学生の自意識をリアルに描く

『何者』表紙

何者
新潮社

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。(表紙裏)

直木賞受賞作。大学生の就職活動における心の動きをテーマにした作品です。

まず、面白いと思ったのが、巻頭に登場人物たちのTwitterアカウントのアイコン・自己紹介文が載っている点。

自分は人とは違う、自分はここで終わる人間じゃない、自分は特別な存在なんだ……。

SNS・ブログなどを通して、自意識や自己顕示欲を満たすこと。それはなんら珍しいことではありません。
本書はそんな、「何者かになりたい」と、心の底では思っている人たちに読んでほしい作品です。

また、作中にSNSを駆使したいまどきの就職活動が登場するため、世代が違えども読んでいて面白いです。

次にご紹介する『何様』は、『何者』のアナザーストーリー。合わせて読むとより深く読み込むことができますよ。

 

『何者』の登場人物を深堀したアナザーストーリー

『何様』表紙

何様
新潮社

『何者』の登場人物たちのストーリーを深堀して、前日譚や後日譚を描いた短編集です。

 

バンド活動に明け暮れていた拓人の友人・光太郎が、なぜ出版社に就職することにこだわっていたのか……。というエピソードが綴られています。

第2話は、自分の気持ちをダイレクトに話せない里香が、隆良と同居に至るまでのちょっとひねった恋愛ストーリー。

面接のときに、拓人の隣にいた克弘の後日譚が最終話となります。克弘は入社すると人事部へ。人を選別する自分はいったい『何様』なのか……。

 

自分の環境や周囲が変化していくことに戸惑い苦悩する姿が、まざまざと描かれています。

各話の登場人物が違うのと、時系列も前後するので、『何者』を読んだ後に『何様』を読むのがおすすめです。

 

アイドルとなった少女たちの等身大の生き方

『武道館』表紙

武道館
文藝春秋

筆者はアイドルを生み出す側にチャレンジした。それも文学の世界で・・・。

アイドルである限り、決して明かせない本心。そのすべてが、ここにはある。

なんたる野望。なんたるマニアック。なんたる妄想力。

(つんく♂/音楽家、エンターテインメントプロデューサー)(帯)

ハロー!プロジェクトを筆頭に、アイドルが好きなことでも知られる朝井さん。満をじして放った作品です。

この作品は、アイドルになるまでのサクセスストーリーではありません。アイドルとしてのアイデンティティーに重きを置いています。

「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろう」

「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」

このやり取りには衝撃を受けました。

恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業など、現代のアイドルに即した内容が描かれているため、共感しながら読むことができるのではないでしょうか。斬新な切り口の作品です。

 

6人兄弟姉妹の織りなす家族の物語

『星やどりの声』表紙

星やどりの声
KADOKAWA

東京ではない海の見える町で、喫茶店「星やどり」を営む早坂家。三男三女母ひとり。亡き父が残した名物のビーフシチューの香りに包まれた生活には、慎ましやかながらも確かな幸せがあった。しかし、常連客のおじいちゃんが店に姿を見せなくなった頃から、家族に少しずつ変化が。各々が葛藤を抱え息苦しくなる早坂家に、父が仕掛けた奇跡が降りそそぐとき、一家は家族を卒業する。著者が学生最後の夏に描いた、感動の物語。(表紙裏)

父を病気で亡くした6人兄弟姉妹、それぞれの目線にたった連作短編集。

朝井さんの作品としては珍しく、家族をテーマにした作品です。

家族みんなが大好きなお父さん。お父さんとの大切な記憶や思い出を胸に、一人一人の心が再生していく姿にはつい涙がこぼれてしまいます。

そして、待っているのは驚きの結末。ネタバレになるので多くは語りませんが、この伏線にはなかなか気づけないでしょう。

こんなに涙が出たのはいつぶりかと思うぐらい涙しました。朝井さんの描く小説の中で、最も泣ける作品だと個人的に思います。

 

男子チアリーディングにかける青春!

『チア男子!!』表紙

チア男子!!
集英社

大学初の男子チアリーディングチームを結成することに情熱を燃やす、大学生の青春物語。

道場の長男として育った晴希は、幼い頃から続けていた柔道を怪我で辞めてしまった。同じく柔道部を辞めた幼なじみの一馬に誘われ、男子チアチームの結成を目指すことになります。

しかし、集まったのは体重100キロを超える巨漢やリズム感のない真面目男子など個性的なメンバーばかり。それでも、晴希たちは熱く突き進み、全国選手権を挑戦するまでになるのですが……。

 

『桐島、部活やめるってよ』に続く、朝井さんの2作目となる作品です。2012年にコミカライズされ、その後テレビアニメ化もされました。

あっという間に読める、笑いあり涙ありの感動青春物語です。

 

瑞々しくもほろ苦い卒業式

『少女は卒業しない』表紙

少女は卒業しない
集英社

卒業式を最後に、他校との合併のため取り壊される地方の高校。その高校で卒業式を迎える7人の少女の、それぞれの「別れ」に込められた思いを描いた短編集です。

 

「在校生代表」は、送辞全体がそのままストーリーになった物語。先輩や先生への思いを綴る送辞は、ほとんど告白のようです。

最後に収録された「夜明けの中心」は、卒業式が終わり、いよいよ校舎が取り壊されるという前夜に忍び込んだ男女2人の話。
校舎の中で偶然出会った2人は、そこにいないもう1人の男子の在りし日について語りながら、次に進むことを暗示するような夜明けを迎えます。

 

作者は現役女子高生なのかと勘違いしそうなほど、描かれた情景や感情は瑞々しく繊細です。

高校生や大学生はもちろん、年を重ねた大人が読んでも、あの頃の情景や感性、苦悩を懐かしく思い出すことができる一冊となっています。

 

価値観の違いをとことん突き詰めた先

『ままならないから私とあなた』表紙

ままならないから私とあなた
文藝春秋

「レンタル世界」と「ままならないから私とあなた」の2編からなる作品です。

 

「レンタル世界」

先輩の結婚式で見かけた、新婦側の友人として出席していた女性が気になった雄太。その後、偶然に再会した彼女は、まるで別人のよう。

雄太は意を決するように声をかけると、そこには意外な話が……。

 

「ままならないから私とあなた」

幼なじみの薫と雪子。成長するに従い、次々と無駄を切り捨てる思考に進んでいく薫。無駄も大切だと思い、薫の思考に疑問を持つ雪子。

ついには、根本的な価値観の違いに対立する時が訪れ……。

 

いずれの話も、2人が対立し、激しく相手を論破しようとする場面は圧巻。

読んだ後、激論の中に見えてくる価値観に頷くことができるか、「いや、無理」と拒絶するか……。さて、あなたはどちらでしょうか。

 

嫉妬や優越感を抱えた女性が踏み出す一歩

『スペードの3』表紙

スペードの3
講談社

社会人になっても小学校時代からのヒエラルキーに縛られ続ける女性たちの、3章からなる作品です。

 

美知代、むつ美、つかさの三人の心の奥深くにある嫉妬や優越感から生まれるヒエラルキー。

登場人物は、小さな優越感を大切にするため、あるいはコンプレックスを隠すために噓をつきますが、いつかは自分を変えなければと一歩を踏み出す時がきます。

感心させられるのは、作者が男性であるのに、女性の心理を細かく鋭く理解していることです。

 

女性の嫉妬や優越感を描いているだけでなく、いくつかの伏線が用意されたミステリーの要素も楽しめます。結局、自分を変えるためには、自分自身で一歩踏み出さなければならないのだと痛感させられる一冊です。

 

笑い必至の作者初のエッセイ集

『時をかけるゆとり』表紙

時をかけるゆとり
文藝春秋

最後に、笑い必至のエッセイをご紹介しましょう。

本作は朝井さん初のエッセイ集で、上京から大学生活、就活、社会人生活を、独特の感性で綴っています。

 

大学時代を綴ったエッセイ「学生時代にやらなくてもいい20のこと」に、社会人になってからの生活を加筆して改題。

特に、お母さんについての記述が楽しく、こんな素敵なお母さんだから小説家「朝井リョウ」が誕生したのかと感心。

「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を面白おかしく表現した、作者独特の着眼点と感性が存分に楽しめる一冊です。朝井さんが描く小説の着眼点や観察眼の原点を随所に垣間見ることができますよ。

 

朝井さんの作品を読んでみては?

教室

いまどきの若者を、新鮮な見方で捉える朝井さんの作品たち。現代の鏡として、ぜひお手に取ってみてください。

就活のリアルを描く、朝井リョウ『何者』の魅力を徹底解析!

 

今回ご紹介した朝井リョウさんの本

桐島、部活やめるってよ』集英社

何者』新潮社

何様』新潮社

武道館』文藝春秋

星やどりの声』KADOKAWA

チア男子!!』集英社

少女は卒業しない』集英社

ままならないから私とあなた』文藝春秋

スペードの3』講談社

時をかけるゆとり』文藝春秋

 

ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。