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2016年映画化!奇妙な読書感覚が新しい「二重生活」


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2016年6月に公開された映画「二重生活」。注目の若手女優・門脇麦さん主演で、長谷川博己さんや菅田将暉さん、リリー・フランキーさんなど実力派キャストが出演しているということで話題となりました。

広告やCMで流れる「理由なき尾行、はじめました」というフレーズが印象的だなと感じた人もいるのではないでしょうか。

この「二重生活」の原作は、直木賞作家・小池真理子さんの同名の小説です。映画を観る前に一度読んでみるのはいかがでしょうか。

なお、映画では大胆に脚色・アレンジされているため、映画を観た人でも楽しめる一冊となっています。

■ご紹介書籍
二重生活』 小池 真理子 (著)、角川文庫

 

「二重生活」あらすじ

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25歳の大学院生・珠は、大学の講義で知ったアーティスト、ソフィ・カルによる「文学的・哲学的尾行」 の実行を思い立ち、近所に住む既婚男性・石坂史郎を尾行してしまいます。
そこで石坂の不倫現場を目撃し、他人の秘密を知ることに魅了された珠は、石坂の観察を繰り返すようになります。しかし尾行は徐々に、珠自身の実存と恋人との関係をも脅かしてゆきます。

渦巻く男女の感情を、スリリングな展開で濃密に描き出す蠱惑のサスペンスの作品となっています。

 

「文学的・哲学的尾行」とは

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本書で重要なキーとなる「文学的・哲学的尾行」。

これは、ジャン・ボードリヤールが書いた「他者の後をつけること、自分を他者と置き換えること、互いの人生、情熱、意志を交換すること、他者の場所と立場に身を置くこと、それは人間が人間にとってついに一個の目的となりうる、おそらく唯一の道ではないか」という一文から、フランスのアーティストであるソフィ・カルが行った実験を指します。

主人公の珠がこの実験を知ったのは、大学の仏文科に在籍していた時。珠がこっそり憧れている篠原教授が、講義中にその話をしたことがきっかけでした。

「或る人物の後をつける、ということは、その人物の人生を疑似体験する、ということと同じ意味をもちます。そのため、尾行者がそれまで抱えていた人生の重荷は、尾行を続けている間、一瞬であれ、解き放たれる。他者の人生が自分のものになるわけですからね。そうこうするうちに、尾行する側、される側、それぞれが混ざり合って、存在の主体がどちらなのか、わからなくなっていく」(p9)

一般的に、誰かの後をつけるというのは、ストーカーだと捉えられがちです。しかし、そうではないところが、この作品の面白いところ。

ストーカーとの「文学的・哲学的尾行」の違いは「目的」だと篠原教授は語ります。
篠原教授の言葉を引用します。

「ストーカーの、対象者を尾行するという行為の中には、いつだって厳然たる目的がある。目的なく、ふつう人は人を尾行などしないものです。その人物がどこに行くのか、何をするのか、誰と会うのか、知りたいと思う気持ちの裏には、その人物に向けた歪んだ愛や執着心が、ないまぜになっている場合がほとんどです。」(p9)

一方、街でたまたま見かけた人物を何の目的も持たずに尾行することに関しては、こう語るのです。

「そういう人間の行為には、文学的意義、ないしは哲学的に考察されるべき意義が潜んでいる。そのように考えます。

何故、そこに文学的・哲学的意義が潜んでいるのかというと、尾行される側の人生が、それを疑似体験する尾行者によって、密かに記録し続けられていくことになるからです」 (p10)

普通では考えつかない発想には驚かされることでしょう。

 

奇妙な読書感覚が新しい「二重生活」

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本書の魅力は、他の小説にはない非日常を味わえるところ。

珠の尾行もはじめはただの興味本意の尾行でした。しかし、どんどんとエスカレートしていきます。珠は石坂を尾行することによって、自分自身を投影させていくのです。

読み進めていくと、読者である私たちもいつしか珠を尾行しているような気持ちになってきます。
そして、もっと、もっと…と、過激な秘密をいつしか求めている自分に気づきます…。

そう、私たちは心の奥底では「秘密」を欲しているのです。

結局のところ、人は秘密が好きなのだ。それを抱え込むことによって、どれだけ自分自身が苦しむか、知り尽くしていても、秘密は妖しい媚薬のように、人を惑わせる。(p142)

石坂を尾行する珠を、読者が尾行する。そんな新感覚を味わうことができる、奇妙な世界観を描いた一冊になっています。

 

「二重生活」で描かれる非日常を味わって

哲学的だけれども奇妙な世界観が癖になる 「二重生活」。「文学的・哲学的尾行」という、今までになかった切り口のストーリーはきっと気に入っていただけるとおもいます。

非日常を楽しめるのが、読書の醍醐味。不思議な世界を味わってみてください。

■ご紹介書籍
二重生活』 小池 真理子 (著)、角川文庫

 

同じく2016年6月公開映画!

ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。