筒井康隆 おすすめ小説・エッセイ|70年代の作品もご紹介!
更新日:2019/10/18
「日本SF御三家」と呼ばれた星新一さんが23年前、小松左京さんが8年前にお亡くなりになりました。
もう1人のビッグネーム筒井康隆さんは、85歳になられた今も精力的に活動を続けられています(2019年10月現在)。
昭和の時代からスラップスティック、ナンセンス、ブラックユーモアといった作風で、マニアックなファン層を魅了し続けている筒井さん。
『時をかける少女』『七瀬ふたたび』などのメディア化された作品や、最近ではライトノベルも手がけています。
「実験的」と言われる作品を多く生み出し、ときに難解とも評される筒井さんの小説やエッセイなど、バラエティに富んだ作品をご紹介します。
『旅のラゴス』
『旅のラゴス』
新潮社ほか
SF雑誌に連載され、1986年に単行本化された作品。なんと発売から30年経ってベストセラーになりました。
あるときは奴隷として、あるときは国王として波乱万丈の人生を送りながら、さまざまな体験を繰り返して旅を続ける主人公ラゴス。
SF長編小説として書かれた本作には、独特な世界を旅をするラゴスの一生が描かれています。
ドラマチックな心理描写はほとんどなく、淡々と進んでいくラゴスの旅にどんな著者の想いが込められているのか。人生を旅になぞらえた本作は、人によってさまざまな読み方ができる不思議な作品です。
『富豪刑事』
『富豪刑事』
新潮社ほか
テレビドラマ「富豪刑事」を覚えている方も多いのではないでしょうか?
この原作を手掛けているのが筒井康隆さんで、本作は刑事ものの推理小説です。
『ロートレック荘事件』とともに、著者の数少ないミステリー作品のひとつ。ちなみにドラマは深田恭子さんが主演でしたが、原作の主人公は男性なんですよ。
「大富豪の刑事が、お金の力を使って事件を解決する」というコンセプトがなんとも秀逸。刑事がお金持ちである設定の小説はたまに見かけますが、元祖といえばこの作品でしょう。
本格的な謎解きを楽しむのはもちろん、コミカルに描かれたキャラクターと、お金で一気に事件を解決してしまう痛快さがたまらなく面白いです!
『繁栄の昭和』
『繁栄の昭和』
文藝春秋
短編集が多い筒井作品ですが、なかでも2014年に発売されたの『繁栄の昭和』はぜひ読んでおきたい一冊です。
筒井さんが80歳前に書いた作品ですが、メタフィクションとユーモアのセンスは健在。
古典作品へのオマージュを絡めたミステリーから、退廃と虚無感が漂うディストピアSF、そうかと思えば癒やし系の恋愛ものまで、どこか昭和の時代の香り漂う10編が収められています。
本の最後には、表紙にもなっている女優への想いを綴ったエッセイが加えられ、著者の「今」を感じられます。往年のファンにおすすめしたい一冊です。
『読書の極意と掟』
『読書の極意と掟』
講談社
筒井さんが人生のなかで影響を受けた本の紹介に合わせて、創作にまつわるエピソードをつづった自伝的エッセイ。
幼少期から演劇青年だった頃を経て、デビュー前後から現在に至るまでに読んだ66冊の本が取り上げられています。
戦前生まれの筒井さんが読んできた本は、漫画『のらくろ』やウェルズの『宇宙戦争』など、漫画から古典、そして哲学書まで幅広いジャンルにわたっています。
筒井さんをもっと知りたいファンにとって興味の尽きない一冊になるはずです。
本作とあわせて、小説の書き方について語ったエッセイ『創作の極意と掟』、作品の裏話などを対談形式でまとめた『筒井康隆、自作を語る』といった小説以外の著書もぜひ。
『アホの壁』
『アホの壁』
新潮社
筒井さんについて語るときに、「パロディ」という言葉を忘れてはいけません。
本作は、養老孟司さんのベストセラー本『バカの壁』をパロディ化したものです。
同じ新潮新書から出版されている本作は、装丁も同じ。タイトル買いを誘うユーモアセンスは筒井さんならではです。
本家が脳科学知見からの論考なのに対し、『アホの壁』はフロイト心理学などを引きあいに、アホについて語ったエッセイとなっています。
前半は筒井流のユーモアについつい笑ってしまいますが、最終章では戦争に対するまじめな考察を読めますよ。
『ウィークエンド・シャッフル』
『ウィークエンド・シャッフル』
KADOKAWAほか
1974年に発売された、13の物語が収められた短編集。
表題作の「ウィークエンド・シャッフル」は映画化、「生きている脳」はフジテレビ「世にも奇妙な物語」でドラマ化されています。
スラップスティック(ドタバタ)や、ナンセンスとはこういうことなのかと分かる代表的な作品です。
これらのカタカナ言葉の裏に、エッジの効いた社会風刺や深い人間心理への洞察が込められています。笑える作品でありながら、どこか気になるショートショートです。
『笑うな』
『笑うな』
新潮社ほか
本作もショートショート作品。3ページ程度の短い作品が多く、全34編が収められています。
少々古い作品ですので、笑いのセンスやブラックユーモアの好みは分かれるかもしれません。しかし、筒井ファンであれば必ず読んでおきたい一冊です。
モヤモヤが残ったり、釈然としない終わり方やついていけない感じがして自分の理解力を疑ってしまうこともあるはず。それでもこのセンスを理解したいと思わせるところが筒井さんの巨匠たるゆえんです。
タイトルは「笑うな」ですが、やっぱり笑ってしまいました。
『狂気の沙汰も金次第』
『狂気の沙汰も金次第』
新潮社
1973年に「夕刊フジ」で連載された筒井さん初のエッセイ。
文壇での交遊録や作品にまつわるエピソード、デビュー以前の出来事から病気や趣味に至るまでの種々雑多なテーマについて、パロディテイストたっぷりに描かれています。
今の常識では通用しない過激な毒舌っぷりは時代を感じさせるところですが、この自由奔放なドタバタとブラックユーモアがファンを惹きつけてやまない大きな魅力です。
文章を引き立てる山藤章二さんのイラストも絶妙です!
『俗物図鑑』
『俗物図鑑』
新潮社
長編小説『俗物図鑑』。テレビに登場する評論家と、それと対立する世間一般を痛烈に皮肉る小説です。
「評論家集団vs世間」の図は、マスコミ批判であり大衆批判でもあります。
評論家たちが集まるプロダクションを「梁山泊」としたのは、『水滸伝』をパロディ化したブラックユーモア。1970年代初頭の作品でありながら、著者が突いているところは今の社会にも通じる普遍的なものです。
眉をひそめたくなる評論家たちの悪趣味さと下品さに耐えられるかどうか? ぜひ挑戦してみてくださいね。
『銀齢の果て』
『銀齢の果て』
新潮社
人口が減り、老人が増えていく現代――。
本作は、筒井さんが70歳を過ぎてから書いた、高齢者によるバトルロイヤルものです。コミカル描かれているものの、筒井流のブラックさ炸裂で、次第に殺し合いが激しさを増していきます。
作品で描かれる老人は、日本の高度成長を担いながらたくましく生きてきた世代。生きるエネルギーと底力、そして経験ゆえの生きるための知恵がぎゅっと詰まっています。
ただ醜い老人の話にはならないところに、筒井さんの想いが込められているのだと感じました。
常にファンを楽しませてくれる 筒井康隆 さん
筒井康隆さんというと『時をかける少女』に代表される、映像化されたメジャー作でその名を知る方が多いのではないでしょうか。
半世紀以上にわたって文壇に名を轟かせる大家ですので、一言では語れないさまざまな作品を世に送り出しています。
そのなかでも、『笑うな』など、1970年代の作品は著者の個性が存分に発揮されています。中学生や高校生の頃にこの時代の作品を読んでファンになったという世代には懐かしい作品です。
これからも新しい作品が出るのをずっと楽しみにしていたい作家です。
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ライター:コモグチ