2018年に小説家デビューした作家5人5作品の紹介|今後の作品に注目!
更新日:2019/3/25
本の世界にはそれぞれのジャンルに新人を対象とした文学賞があり、受賞者から毎年才能あふれる新人作家が生まれています。
受賞者がどんなバックグラウンドを持ち、どういう過程を経て受賞、作家デビューに至ったのでしょうか。
ここでは、2018年に小説家デビューをした5人の新人作家とそのデビュー作をご紹介します。
高山一実 『トラペジウム』
作家・高山一実とは
「アイドルグループ乃木坂46のメンバーが小説家デビュー」と話題を呼んだ、高山一実さん。
2018年11月に発売したそのデビュー作は、既に発行17万部を超える大ヒット。
アイドルが書いた本という枠を超え、ひとつの作品として世間から認められていることを物語っています。
雑誌「ダ・ヴィンチ」で、本にまつわる連載をもつほどの読書好きで知られる高山さん。それがこの作品の執筆につながりました。
今後の作家としての活動にも期待が寄せられる注目のアイドルであり、作家さんです。
デビュー作『トラペジウム』
『トラペジウム』
高山一実(著)、KADOKAWA
本作は、女子高生のゆうが4人の仲間を集めてアイドルを目指す10年間の物語です。
実際にアイドルとして活躍する高山さんが描くアイドルの物語は、リアリティ満載。
主人公・ゆうのアイドルへの強い思いとともに、キラキラした舞台の裏側も素直に描かれています。
作中の登場人物が乃木坂46のメンバーと重なるところは、ファンにとっては読んでみたくなる大きな魅力でしょう。
(ただし、高山さん本人はこれを否定しています)
若い感性でつづられる彼女ならではの文章はみずみずしく、躍動感あふれる展開に読み終えたあとにはスッキリとした気持ちを感じられますよ。
井上由美子 『ハラスメントゲーム』
作家・井上由美子とは
井上由美子さんは、NHK連続テレビ小説「ひまわり」や大河ドラマの「北条時宗」、民放では「白い巨塔」「14才の母」など有名人気ドラマを手がけた脚本家です。
テレビ東京の社員として働き始め、1991年に脚本家としてデビュー。担当したドラマはヒット作が目白押し。
『ハラスメントゲーム』は、2018年に同タイトルのテレビドラマの放映と同時に発売されました。
本作が、井上さんの小説家としてのデビュー作になります。
デビュー作『ハラスメントゲーム』
『ハラスメントゲーム』
井上由美子(著)、河出書房新社
脚本家として社会派ドラマを多く制作している井上さん。
初の小説作品である本作も、「ハラスメント」という社会問題がテーマです。
大手のスーパーマーケットを舞台に、コンプライアンス室長として本社に戻された秋津が、社内で起こる様々なハラスメント事案を解決していく……という筋立て。
「コンプライアンス」というひとつの基準を巧みかつ大胆に解釈し、問題解決を図る秋津の采配と、ときにコミカルに描かれるキャラクターが本作の面白いところです。
秋津を陥れ常務となったかつての部下と、対立するオーナー社長の派閥争いに巻き込まれ、サスペンス要素も加わり、ハッピーエンドで終わる爽快なエンターテイメント小説として非常に読みやすい作品です。
安壇美緒 『天龍院亜希子の日記』
作家・安壇美緒とは
たった2週間で書きあげたという、はじめての長編小説で第30回すばる新人賞を受賞。翌年2018年に小説家デビューを果たした安壇美緒さん。
新人らしからぬ“完成度を持った作品”と評価され、注目を集めている新人作家です。
函館出身 東京在住の主婦という安壇美緒さん。早稲田大学に在学中から短編小説を書き始め、卒業論文も小説だったといいます。
小説家デビューするまで書かなかった時期もありながら、「その時間も小説のことを考えていた気がする」と語る彼女は、天性の小説家なのでしょう。
デビュー作『天龍院亜希子の日記』
『天龍院亜希子の日記』
安壇美緒(著)、集英社
主人公は、人材派遣会社に勤める27歳の田町。あるとき見つけた小学校の同級生・天龍院亜希子のブログになぜか惹きつけられます。
同じ頃、かつて憧れだったプロ野球選手の薬物スキャンダルが世間を賑わせていました。
さまざまな職場での経験と主婦としての経験を、小説家の感性で花開かせた本作。日常の空気感が今の時代感覚で的確に描かれ、多くの人の共感を呼ぶ作品に仕上がっています。
普通の人にとっての、大げさではない生きる希望とはどんなものなのか?
ドラマチックな展開はありませんが、前向きな気持ちにさせてくれる純文学作品です。
日上秀之 『はんぷくするもの』
作家・日上秀之とは
日上秀之さんは岩手県宮古市出身。
3.11の被災地が舞台となる『はんぷくするもの』で、第55回文藝賞を受賞し小説家としてデビューしました。
フリーターから小説家になったという日上さん。これまで地方紙での文学賞受賞や太宰治賞の候補になるなど、実績を積み重ねてきた上でのデビューであり、今後の活躍に期待が持たれます。
デビュー作『はんぷくするもの』
『はんぷくするもの』
日上秀之(著)、河出書房新社
自身も被災者である日上さんは、小説の主人公と同じく仮設店舗で商店を営んでいます。その経験から着想を得たという本作。
メディアで取り上げられることのない被災地の現実を細やかに描くことで、生きることへの責任と、倫理観に対する問いを投げかけます。
寂れた田舎に流れる閉塞感や単調さのなかに、震災が残した社会的困難。わずか数千円の代金をめぐって繰り返される登場人物のやり取り……。
やるせない空気感のなかで、潔癖症とも言える主人公の行動はある種おどけているように映り、悲惨なだけではない不思議な感覚を醸し出す作品です。
震災文学とは一線を画し、岩手に住む日上さんだからこそ描ける地方特有の人間模様が本作に深みを与えます。
川越宗一 『天地に燦たり』
作家・川越宗一とは
第二十五回松本清張賞を受賞し小説家となった川越宗一さんは、京都に住むサラリーマン。
朝日新聞の書評欄で、同じ朝鮮出兵を描いたベテラン歴史小説家・飯島和一さんと並び評された話題の処女作『天地に燦たり』でビッグタイトルを手に入れました。
沖縄首里城の守礼門にインスパイアされて書いたという本作の1回目の応募はあえなく落選。小説について勉強し徹底的に書き直して臨んだ2回目の応募でみごと受賞を射止めました。
選評でも筆力を高く評価され、歴史小説界に燦然と登場した新人作家さんです。
デビュー作『天地に燦たり』
『天地に燦たり』
川越宗一(著)、文藝春秋
豊臣秀吉による朝鮮征伐から薩摩藩の琉球侵攻まで、戦国の混乱が続く時代。
殺戮と荒廃のなかで、人を人たらしめるものとしての礼の尊さに焦点を当てた重厚なストーリーです。
日本軍島津家の武将・大野久高、朝鮮の被差別民として儒学を学ぶ明鍾、琉球の官人で密使として朝鮮に送られた真一。3人の登場人物の視点から物語が展開されます。
この勝者と敗者という立場の異なる3人の生きざまを通して、いかに生きるべきか、いかに人と交わるべきか?
儒教の教えをよりどころに書ききった躍動感のある作品です。
新人作家5人の今後に、注目!
2018年にデビューした新人作家と、その作品をご紹介しました。
新人だからと侮るなかれ。どの作品も小説として完成されています。
ここでご紹介した作家たちが、これからどんな作品を書くのか? 注目したいですね!
今回紹介した書籍
『トラペジウム』
高山一実(著)、KADOKAWA
『ハラスメントゲーム』
井上由美子(著)、河出書房新社
『天龍院亜希子の日記』
安壇美緒(著)、集英社
『はんぷくするもの』
日上秀之(著)、河出書房新社
『天地に燦たり』
川越宗一(著)、文藝春秋
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