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小川糸のおすすめ小説・エッセイ|心がほっと温まる!


更新日:2019/8/23

小川糸のおすすめ小説・エッセイ

美しい風景、こだわり抜かれた素材で作られた美味しい食事、心優しくあたたかい人々。自然あふれるゆっくりした時間のなかで、シンプルに、自分の思いのままに、人生を生きる――。

そのような暮らしに憧れを感じる人は多いのではないでしょうか?

小川糸さんの作品は、まさしくその憧れを形にしたもの。穏やかでほっこりした作風には心癒されることでしょう。

ここでは小川さんの作品の中で、特に読んでもらいたい小説・エッセイを選んでみました。何気ない日常を変えてくれる作品が揃っていますので、ぜひ読んでみてくださいね。

 

作家・小川糸とは?

小川糸さんは、1973年山形県生まれ。小さいころから文章を書くのが好きだったそうです。

マーケティング会社や情報誌のライターなどの経歴を経て、創作活動を開始。1999年に『密葬とカレー』で小説家デビューしました。

何気ない生活の中にあるドラマを描いた作品が多く、穏やかで心温まる作風が人気の小川さん。繊細な食のシーンも魅力で、目の前でほかほかと湯気が立つのを見ているような気持ちになります。

それでは、そんな小川さんの作品に触れていきます。

 

毎日を丁寧に生きていく
『食堂かたつむり』

『食堂かたつむり』表紙

食堂かたつむり
ポプラ社

同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。巻末に番外編収録。(表紙裏)

小川さんの名を世に知らしめた代表作。

本書のテーマは「食」と「母」。

失恋をきっかけに失語症になってしまった主人公の倫子。彼女が帰った先は、忌み嫌っている母親のいる故郷でした。
故郷で食堂を開店した倫子は、毎回お客様に合わせたメニューを提供します。そのメニューが非常に珍しく、大変美味しそうな表現で描かれているんですね。

たとえば、初めて作ったメニューは「ザクロカレー」。高校生の桃ちゃんの恋愛を成就させるために作った「ジュテームスープ」。他には「ぶどうパンで作る洋ナシのフルーツサンド」など……。

生きることは、食べること。命をいただくことの有り難みに改めて気づかされる作品です。

 

依頼人の気持ちを手紙に乗せる
『ツバキ文具店』

『ツバキ文具店』表紙

ツバキ文具店
幻冬舎

2016年の本屋大賞4位。2017年のNHKドラマにて放送されていた作品です。

舞台は鎌倉。美しい文字で手紙を代筆する”代書屋”である「ツバキ文具店」の物語が静かに描かれます。
「ツバキ文具店」が普通の代書屋と異なるのは、代筆だけでなく、手紙の内容まで考えてくれる店舗であるところ。

私が本書を読んで面白いと思ったのは、ツバキ文具店の店主ポッポちゃんが書いた手紙が便箋まるごと、字体とともにそのまま載っているところ。依頼内容や依頼人の個性によって、手紙の内容、字体、使用する文具、便箋や封筒、切手などを使い分けるのです。

たとえば、この依頼人は毛筆よりも太めの万年筆が合っている、謝絶状なのでインクは漆黒、紙は「満寿屋」といった具合に。大変勉強になります。

実在するお店が載った鎌倉案内図も付いているので、私は本書片手に鎌倉散歩をしたいなと思っています。

 

『ツバキ文具店』の続編
『キラキラ共和国』

『キラキラ共和国』表紙

キラキラ共和国
幻冬舎

『ツバキ文具店』の続編。
代筆屋を営むポッポちゃんが、『ツバキ文具店』にも登場したミツローさんと結婚した後のお話です。

ミツローさんの連れ子であるQPちゃんの親になったポッポちゃんは、さまざまなことに悩みながら、一生懸命に娘と向き合おうと奮闘。代筆屋として、母として、少しずつ成長していくポッポちゃんの姿が描かれています。

前作同様読んでいて心地良く、人と人とのふれあいに心温まる作品です。
読んだらきっと、誰かに手紙を出したくなります。

 

着物店を切り盛りする女性の恋物語
『喋々喃々』

 『喋々喃々』表紙

喋々喃々
ポプラ社

ちょうちょうなんなん(喋々喃々)=男女が楽しげに小声で語り合うさま。東京・谷中でアンティークきもの店を営む栞。ある日店に父親に似た声をした男性客が訪れる―少しずつふくらむ恋心や家族との葛藤が、季節の移ろいやおいしいものの描写を交え丁寧に描かれる。(表紙裏)

舞台は東京の下町・谷中。本書の魅力はなんといっても、小川さんにしかできない美しい描写ではないでしょうか。

物語は、主人公の栞が七草粥を炊くシーンから始まります。

「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ。真っ白い粥に細かく刻んだそれらを放つと、そこだけ春になった」
この表現のように、四季折々のものを私たちに届けてくれるのがこの作品なのです。季節の風物詩がこれでもかとばかりに盛り込まれています。

なお、小川さんはかなりの着物好きだそうで、着物の描写も見事です。
「梅が焼きもちを焼くといけないので、半襟にだけさりげなく桜を取り入れてみる。きものの世界では何でも季節を先取りするから、例えば、梅の季節に梅の柄を合わせるのは無粋とされる。本物の梅の美しさには、どう背伸びしたって敵わない」。

情緒あふれる表現のしかたにはつい惚れ惚れしてしまうほど。美しいものに触れたい時に読みたい作品です。

 

ほっこり、優しい気持ちに……
『つるかめ助産院』

『つるかめ助産院』表紙

つるかめ助産院
集英社

夫が姿を消して傷心のまりあは、一人訪れた南の島で助産院長の鶴田亀子と出会い、予想外の妊娠を告げられる。家族の愛を知らずに育った彼女は新しい命を身ごもったことに戸惑うが、助産院で働くベトナム人のパクチー嬢や産婆のエミリー、旅人のサミーや妊婦の艶子さんなど、島の個性豊かな仲間と美しい海に囲まれ、少しずつ孤独だった過去と向き合うようになり―。命の誕生と再生の物語。(表紙裏)

こちらは2012年のNHKドラマにて放送されていた作品です。

失踪した夫を探しに訪れた南の島で、妊娠していると言われたまりあは、つるかめ助産院に住み始めます。助産院での暮らしと美しい情景、美味しいごはんによってまりあの傷ついた心が再生していく姿は、読んでいて心がぽかぽか温かくなります。

そうはいっても単にスローライフが描かれているだけではありません。離島には、島チャビ(離島苦)という多くの問題や困難もあるのです。まさに離島ならではのリアリティも感じられる作品でした。

また、クライマックスの出産のシーンは泣けます。「自分のおへそからしゅるしゅるとへその緒が伸びて、宇宙へとつながっていくのを感じた」。

妊娠・出産の神秘を感じることができ、読めば自分を産んでくれた母親に感謝の気持ちを言いたくなる作品です。

 

7つの「食」の物語
『あつあつを召し上がれ』

『あつあつを召し上がれ』表紙

あつあつを召し上がれ
新潮社

食べ物にまつわる7つの物語を集めた短編集がこちら。

余命わずかとなった母親が、幼い娘にみそ汁の作り方を教え込む「こーちゃんのおみそ汁」。
認知症になったおばあちゃんに、思い出のかき氷を食べさせてあげる「バーバのかき氷」。
食い道楽だった父親の遺言にしたがい、恋人を小汚い中華屋に連れて行く「親父のぶたばら飯」。

小川糸さんの作品にでてくる食べ物は、どれも本当に美味しそうなんです! 食を通して、登場人物たちの心情が細やかに描かれており、切なくなったり温かい気持ちになったりします。

子供のころの家族との食事を思い出しながら、大切な人に心を込めて料理がしたくなる作品です。

 

少年の成長物語に胸が熱くなる
『サーカスの夜に』

『サーカスの夜に』表紙

サーカスの夜に
新潮社

「不自由な環境の中で、いかに自由になれるか」がテーマの作品。

両親の離婚でひとりぼっちになった13歳の「僕」が、かつて両親と一緒に見た、憧れのサーカスに入団します。

元男性の美人綱渡り師、美味しい料理を作るコック、空中ブランコに乗るペンギン。サーカス団のメンバーはみんな個性的で、それぞれに悩みや問題を抱えています。

仲間たちに支えられながら、トイレ掃除や料理の手伝いなどをしていくなかで自分の居場所を見つけていく「僕」。
孤独な少年が努力をする姿を応援し、自分もがんばりたくなる作品です。

 

ペンギンさんとのほのぼの暮らし
『ペンギンと暮らす』

『ペンギンと暮らす』表紙

ペンギンと暮らす
幻冬舎

小川さんが、夫である水谷公生さんとの暮らしを綴ったエッセイ『ペンギンと暮らす』。
「ペンギン」とは、小川糸さんの夫である水谷公生さんのこと。2人の温かくてほのぼのとした暮らしが描かれます。

ペンギンと暮らしたいと思ったけれど、それは叶わないから、夫のことをペンギンと思うようにしたそう。これって、なんともユーモラスな発想ですよね。

大切なお客様のために八百屋を8軒はしごしたり、風邪をひいたときに友人が菜の花ごはんを作ってきてくれたり……。さまざまな人との触れあいや、美味しそうな料理がたくさんでてきます。

日常生活に追われて疲れているあなたに、ぜひ読んでほしい作品です。

 

青空に似合うたまごサンドって?
『卵を買いに』

『卵を買いに』表紙

卵を買いに
幻冬舎

小川糸さんが取材で訪れた、ラトビアでの出来事を綴ったエッセイです。ラトビアは美しいビーチや森林など豊かな自然がある、北欧の小さな国。自然に囲まれて笑顔で暮らす人々や、現地の素朴ながら洗練された食べ物たち、そして旧ソ連に隷属されたという歴史にも触れられています。

本書でも小川さんの作品らしい、美味しそうな料理がたくさん登場します。

手作りの黒パンや採れたての苺、青空に似合う卵サンド、葉桜を眺めながら食べる菜の花のおひたし。読んでいるうちに料理をしたくなってきます。

 

1人の女性の人生を描く
『ミ・ト・ン』

『ミ・ト・ン』表紙

ミ・ト・ン
白泉社

『卵を買いに』のラトビアをモデルにした架空の国ルップマイゼ共和国を舞台にした小説。イラストレーターの平澤まりこさんとコラボレーションした作品です。

昔ながらの暮らしを守るルップマイゼの女性にとって、ミトンを編むことは大切な仕事。結婚の「イエス」の返事にミトンを編み、お嫁に行くときにミトンを編み、孫の幸せを祈ってミトンを編みます。

本作は、そんなルップマイゼで生まれたマリカが愛や恋を知り、愛する夫のところへ旅立つまでを描いた物語。
一生懸命に生きるマリカの姿に胸を打たれ、ミトンのような温かさに包まれます。

 

小川糸さんの作品に癒されて

小川さんの作品は、ほっこりあたたかい気持ちになれるものばかり。ぜひ疲れた時の処方箋として読んでみてくださいね。

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