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中村文則さんの「読んでよかった」おすすめ4作品


『教団X』が大ヒットし、一躍人気作家となった中村文則さん。

中村さんの作品の特徴は、過激なテーマやタブーにメスを入れる問題作であるところ。

人間には必ず光と陰があります。中村さんが描く内容は「陰」の部分であり、作品によっては読み進めるのがつらく、恐怖を感じることも多いです。

たしかに、目を背けたくなるようなことに対峙するには勇気が要ります。ですが、中村さんの作品を読み終わると毎回思うのです。「読んでよかった」と。

 

今回のコラムでは、『教団X』を含むおすすめ4作品をご紹介します。

ぜひ、中村さんの作品を読んで、自身の価値観を拡げてはいかがでしょう?

 

何が本当の悪なのか?
『教団X』

『教団X』
集英社

突然自分の前から姿を消した女性を探し、楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。二人のカリスマの間で蠢く、悦楽と革命への誘惑。四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者の最長にして最高傑作。(表紙裏)

 

松尾という飄々とした老人を中心人物に据えた宗教サークルと、警察から『教団X』と呼ばれるカルト宗教集団にまつわる長編。

テーマはカルト宗教。『教団X』の教祖・沢渡は性の解放を掲げ、信者たちは日々セックスに溺れています。

倫理的な観点から、そのような団体は悪だと見なされるのが普通です。でも、中村さんは、それを「悪」だと咎めることはありません。

「普通」というのは読者それぞれの価値観によるものです。中村さんは読者一人一人に解釈を委ねているので、いろんな読み方ができる作品だと思います。

また、衒学趣味が強い作品であることも本書の魅力です。文庫版で約600ページ。前半部分のほとんどはうんちくで占められており、知的好奇心を満たしてくれること間違いなしです。

中村さんに「こういう小説を書くことが、ずっと目標の一つだった。これは現時点での、僕の全てです(あとがき)」とまで言わしめた作品。ぜひご覧ください。

 

生々しくも、温かい
『掏摸

『掏摸 (スリ) 』
河出書房新社

東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎―かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼に、こう囁いた。「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどういうことなのか。そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは…。大江健三郎賞を受賞し、各国で翻訳されたベストセラーが文庫化。(表紙裏)

 

大江健三郎賞受賞作。スリ師の「僕」と、闇社会の「木崎」のスリリングな関係を描いた長編。

テーマは運命。神なき日本で「他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそうやって君臨することは、神に似ていると思わんか。(中略)あらゆる快楽の中で、これが最上のものだ」と言い、誰かの人生や命を支配しようとする木崎。理不尽な運命に「僕」は抗おうとしますが……?

本書はハードボイルドなエンターテイメント小説としても素晴らしいです。緊張感漂う「スリの仕事」のシーンには思わず手に汗をかいてしまいました。

 

生と死のあり方を考えずにはいられない
『何もかも憂鬱な夜に』

『何もかも憂鬱な夜に』
集英社

施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。(表紙裏)

 

犯罪者を監視する刑務官の「僕」にフォーカスした作品。

テーマは生と死。「虐げられてるばかりじゃなく、この世界に生まれてきたのなら、元を取らなければ」と言い罪を犯した男。死刑制度の不確かさ(死刑か無期懲役の線引きは曖昧で、遺族格差も生じている事実)に憤る上司。深く考えさせられるシーンが多いです。

中村さんの作品は登場人物がぶっ飛んでいて、描かれている世界が理解の範疇を超えているということがよくあるのですが、本書は比較的理解がしやすい作品に仕上がっています。中村さんの作品を読んだことがない方であれば、本書から読むのをお勧めします。

巻末の解説では又吉直樹さんがこのように書いています。「中村文則さんの作品が読める限り生きて行こうと思う」。又吉さんは、本書によって根底から救われたのだそう。興味を持った方はぜひ手に取ってみてくださいね。

 

人を殺した人間の心理とは……
『悪意の手記』

『悪意の手記』
新潮社

至に至る病に冒されたものの、奇跡的に一命を取り留めた男。生きる意味を見出せず全ての生を憎悪し、その悪意に飲み込まれ、ついに親友を殺害してしまう。だが人殺しでありながらもそれを苦悩しない人間の屑として生きることを決意する―。人はなぜ人を殺してはいけないのか。罪を犯した人間に再生は許されるのか。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家が究極のテーマに向き合った問題作。(表紙裏)

 

テーマは「なぜ人を殺してはいけないのか」。ドストエフスキーの「罪と罰」の現代版として読むのも良いかもしれません。

15歳で難病にかかるという不条理から、世間を恨んでいた主人公。命を取り留めてからも、虚無感のなかで生きていた主人公は、ある日「理由なき殺人」を犯してしまいます。

誰よりも死を恐れていた人間が、なぜ人を殺してしまったのか? 人を殺した人間の気持ちとはどういうものなのか?緻密な心理描写は、読者をぐんぐんと惹きつけます。

個人的には「善悪は人間が成長していくにつれて既存の社会から学び取っていくもので、元々人間の中に用意されているものではない」という言葉が深く心に残りました。

 

「読むのに勇気が要る」中村さんの作品

読書の秋です。ぜひ、中村さんの作品を読んで、価値観を拡げてみてくださいね。

 


今回ご紹介した中村文則さんの書籍

教団X集英社
掏摸河出書房新社
何もかも憂鬱な夜に集英社
悪意の手記新潮社


 

 

ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。