新しい世界の扉を! 三浦しをんさんのおすすめ「お仕事小説」
人気作家の一人として知られる、三浦しをんさん。
数多くのベストセラー作品を世に出している三浦さんですが、執筆されている小説のジャンルは幅広く、どの作品から読んだらいいか分からない人もいるでしょう。
そんな方にぜひ読んで欲しいのが、今回のテーマである「三浦しをんさんのおすすめお仕事小説」。
三浦さんは、辞書の編纂という仕事をテーマにした『舟を編む』を中心に、世間ではあまり馴染みのない『お仕事』にスポットライトを当てた小説を精力的に執筆されています。
ぜひ、新しい世界の扉を開けてみてください。
◆人形浄瑠璃・文楽大夫
『仏果を得ず』
双葉社
高校の修学旅行で人形浄瑠璃・文楽を観劇した健は、義太夫を語る大夫のエネルギーに圧倒されその虜になる。以来、義太夫を極めるため、傍からはバカに見えるほどの情熱を傾ける中、ある女性に恋をする。芸か恋か。悩む健は、人を愛することで義太夫の肝をつかんでいく―。若手大夫の成長を描く青春小説の傑作。(表紙裏)
主人公の健は、人形浄瑠璃・文楽の若手大夫。三味線の実力者であり、プリンばかり食べている変人・兎一郎に導かれながら、健はぐんぐんと力をつけていきます。
兎一郎は問いかけます。「きみは、自分にどれくらい時間が残っていると思う」「たった六十年だ。それだけの時間で、義太夫の真髄にたどりつく自信があるのか」と。
私はこの言葉をそっくりそのまま自分に反芻しました。それほどに心を打たれた瞬間でした。
また、初心者向けに、人形浄瑠璃・文楽のうんちくがふんだんに書かれているのも本書の特徴です。知識がない人でも楽しめる作品に仕上がっているので、ぜひ手にとってみてくださいね。
◆文芸翻訳家
『ロマンス小説の七日間』
角川書店
あかりは海外ロマンス小説の翻訳を生業とする、二十八歳の独身女性。ボーイフレンドの神名と半同棲中だ。中世騎士と女領主の恋物語を依頼され、歯も浮きまくる翻訳に奮闘しているところへ、会社を突然辞めた神名が帰宅する。不可解な彼の言動に困惑するあかりは、思わず自分のささくれ立つ気持ちを小説の主人公たちにぶつけてしまう。原作を離れ、どんどん創作されるストーリー。現実は小説に、小説は現実に、二つの物語は互いに影響を及ぼし、やがてとんでもない展開に!注目の作家、三浦しをんが書き下ろす新感覚恋愛小説。(表紙裏)
ハーレクイン小説の翻訳家・あかりの【現実】と、【翻訳した小説】が交錯する新感覚の作品。
マイペースで自分勝手、あかりの友達に連絡を取っているボーイフレンド(リアル)と、甘いセリフを囁くロマンティックな男(フィクション)。二人のハザマで突っ込みまくるあかりの姿は、女性として共感できる部分もありつつ、とにかく笑えました。
夢みていられるのは、少女の時だけ。そんなほろ苦く切ない気持ちにもさせられました。
さて、あかりが翻訳している小説はどのような結末に終わるのでしょう?驚きの展開が待っていますよ。
◆社史の編纂
『星間商事株式会社社史編纂室』
筑摩書房
川田幸代29歳は社史編纂室勤務。姿が見えない幽霊部長、遅刻常習犯の本間課長、ダイナマイトボディの後輩みっこちゃん、「ヤリチン先輩」矢田がそのメンバー。ゆるゆるの職場でそれなりに働き、幸代は仲間と趣味(同人誌製作・販売)に没頭するはずだった。しかし、彼らは社の秘密に気づいてしまった。仕事が風雲急を告げる一方、友情も恋愛も五里霧中に。決断の時が迫る。(表紙裏)
舞台は商社の社史編纂室。
主人公・幸代が、上司との軋轢をきっかけに、いわゆる”閑職”扱いの社史編纂室に飛ばされるところから話は始まります。
ダメ社員が集まるこの部署で、ゆる~く社史を作る予定だった面々のもとに、ある日ハガキが届きます。そして、間商事の抱える秘密が明らかになっていきます……。前半は個性的なキャラクターたちのコメディタッチに笑わされ、後半は事件解決に向けたサスペンスにドキドキさせられます。
また、本書のサブテーマに、「腐女子」が掲げられています。コミックマーケットや同人誌、男性同士の恋愛を描いたBL漫画といった独特のカルチャーから、夫や子どもにそのような活動をしていることを明かすべきなのかといった当事者ならではの苦悩など、腐女子でなければ知り得ない視点からも描かれているので、二重で楽しめますよ。
◆林業
『神去なあなあ日常』
徳間書店
美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?林業っておもしれ~!高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。(表紙裏)
大学受験に失敗した主人公・勇気が、「林業従事者研修プログラム」のチラシに載っていた女の子に一目惚れをしたのをきっかけに、林業の世界へ飛び込む姿を描いた作品。
携帯もつながらない山奥で、虫に刺され、花粉症もきつく、親方の鉄拳は痛く、帰りたくとも帰れない……はじめはやる気のない勇気でしたが、周囲の人や村人との交流から、心も身体も立派な男に成長していきます。
コミカルなやり取りは見ているだけでとても楽しく、エンターテイメント小説としても秀逸な一冊です。
なお、本書は『WOOD JOB!』として映画化もされていますよ。
三浦しをんさんの「お仕事小説」は傑作揃い
改めて世の中にはいろんな仕事があるのだと感じさせられます。興味のある作品があれば手にとってみてくださいね。
今回ご紹介した三浦しをんさんの書籍
『仏果を得ず』双葉社
『ロマンス小説の七日間』角川書店
『星間商事株式会社社史編纂室』筑摩書房
『神去なあなあ日常』徳間書店
短編から長編まで、三浦しをんさんの魅力を感じてみませんか?