柚木麻子おすすめ小説|あなたの「ビタミン剤」に!
更新日:2019/10/22
過去に4度直木賞候補となった柚木麻子さん。その実力はお墨付きと言えるのではないでしょうか。
では、柚木さんの描く作品はどのようなものなのでしょう?
柚木さんの作風は、大きく2つに分かれます。
読むだけで前向きな気持ちになれる、元気になれる、いわゆる「ビタミン小説」。
一方、女性の怖い人間関係や、本音を描いた、いわゆる「ブラック小説」。
対極にある世界を見事に書き切る柚木さん。
ここでは柚木さんの作品のなかでも、特に読んでほしい小説をご紹介します。
ランチ交換で心の変化が……
『ランチのアッコちゃん』
『ランチのアッコちゃん』
双葉社
柚木さんの代表作である「アッコちゃん」シリーズの第1作。続いて『3時のアッコちゃん』と『幹事のアッコちゃん』が発売しています。
“アッコさん”こと黒川部長と、ランチを取り替えっこする羽目になった三智子。三智子の手作り弁当と交換に、黒川部長のランチコース(1週間のうち、何曜日にどの店に行くか)とお金を渡されるようになります。
人見知りの三智子はドキドキしながらランチを食べに行くのですが、そこで出会う店主やお客さんとのやり取りから、三智子の心境はどんどん変化していきます。
「食べることは、生きること」。途中に出てくるこの言葉に影響され、改めて私は食生活を見直すようになりました。これからも大切にしたい作品です。
お腹が空きそうなタイトルに惹かれる
『あまからカルテット』
『あまからカルテット』
文藝春秋
中学校からの仲良し4人組を描いた連作短編集。
まず、「恋する稲荷寿司」「はにかむ甘食」「胸さわぎのハイボール」「てんてこ舞いにラー油」「おせちでカルテット」といった食べ物のタイトルに興味を惹かれます。
30歳前後って、環境の分かれ目の年代ですよね。キャリアウーマンを選ぶ人もいれば、専業主婦になる人もいるし、人の数だけ選択肢があります。
ただ本書には、女性にまつわる小説にありがちな、悪意も嫉妬も羨望もウラオモテも一切出てきません。
描かれるのは、4人が協力しあって「日常のちょっとした事件」を解決していく姿。痛快です。笑えます。読んでいる間も、読んだ後も、爽快な気持ちが味わえます。
バブル期の女性の生き方を追体験
『その手をにぎりたい』
『その手をにぎりたい』
小学館
80年代バブル期。仕事をやめて故郷に帰ろうとしていたOLの青子が、高級寿司店「すし静」の味に衝撃を受けのめり込むように。
青子は「すし静」に通い、想いを寄せる寿司職人の手を握りたい一心で、目まぐるしく移りゆく時代を駆け抜けていきます。
お寿司を食べる描写が本当に秀逸です! 高級寿司なんてお高くて手が届かない……と分かっていても、実際に食べに行ってみたくなります。
握ったお寿司を手渡しされるときだけに触れられる……。カウンター越しの恋にも、ドキドキさせられました。
バブルの波に翻弄された1人の女性の生き様に、胸を掴まれます。
美女は性格が悪い?
『嘆きの美女』
『嘆きの美女』
朝日新聞出版
「美女は、性格がブス!」だと思い込み、美女に敵対心を抱いていた女の子が変わっていくストーリー。
自分をブスだと思い込み、引きこもっていた主人公の耶居子。複数の美女たちが「美女ならではの悩み」を綴ったホームページを攻撃することでストレスを解消していました。
ある日、耶居子はその美女たちと共同生活をすることになります。
彼女たちは、容姿も美女ながら性格も美女でした。そんな彼女たちと接しながら、耶居子は美女への偏見に反省します。
人は見た目じゃないと言いながらも、つい見た目で判断しがちだったりしますよね。個人的には、ハッとさせられた一冊でした。
さて、耶居子はいったいどう変わるのでしょうか? 結末はぜひ本書でご確認ください。読み終わった頃には、ぐんと元気になっているはずですよ。
新人作家の奇想天外な下剋上物語
『私にふさわしいホテル』
『私にふさわしいホテル』
新潮社ほか
文学新人賞を人気アイドルと同時受賞したせいで、世の注目をすべて奪われてしまった加代子。特に仕事もないのに、バイト代をはたいて、小説家御用達の「山の上ホテル」にカンヅメになりにいきます。
そんな加代子が、ホテルに宿泊していた超人気作家の東十条と出会い大奮闘。作家として大成するまでを描いた連作短篇集となっています。
柚木麻子さんのポップな作品を読みたい方には、こちらの『私にふさわしいホテル』がおすすめです。笑って泣けて、夢を追いかけることの素晴らしさを教えてくれます。
目的のためなら手段を選ばず、なりふり構わず行動する加代子。その手段というのがどれもユーモア溢れており、思わず笑ってしまいました。
勇気が湧いてくる一冊!
『ねじまき片想い』
『ねじまき片想い』
東京創元社
「想っているだけ」はもうやめた! 行動しないと何も始まらないと、背中を押してくれる小説です。
主人公の宝子は、ヒット作を生み出す敏腕プランナー。仕事もでき、仲間にも恵まれ、容姿端麗な宝子でしたが、恋愛だけは上手くいかず、5年間ずっと片思いをしていました。
差し入れをしたり頑張ってはみるものの、なかなか告白できない宝子。そこで宝子は、とんでもない行動に出てしまいます……。
恋のパワーが高まるとこうなるのか……と驚きを隠せないほど、宝子はたくましく破天荒。本当に元気をもらえます。
作中の仕掛けも面白く、いろんな観点から楽しめる作品に仕上がっています。
「友達」の定義とは――?
『ナイルパーチの女子会』
『ナイルパーチの女子会』
文藝春秋
主婦ブログ「おひょうのダメ奥さん日記」を愛読している栄利子と、そのおひょうさんこと翔子の友情が少しずつ狂っていくさまを描いた『ナイルパーチの女子会』。
「友達」「友情」について、考えさせられる作品です。
翔子のブログが数日更新されなかったことで、2人の関係に変化が。他人との距離感がうまくつかめない栄利子は、徐々にストーカーのように変貌していきます。
読み進めていくほどに、「こんな人いるよなぁ」と思いつつ、自分の中にもこんなコンプレックスや独占欲、承認欲求があるのかもしれない……と怖くなりました。
現代版『赤毛のアン』
『本屋さんのダイアナ』
『本屋さんのダイアナ』
新潮社
キャバ嬢でシングルマザーの母親に育てられた矢島ダイアナ。裕福かつ落ち着いた家庭で育った神崎彩子。なにもかもが正反対の2人が、読書をきっかけに出会います。
お互いが持つものに憧れながらも仲良しの2人が、大人になるまでを描いた作品です。
女性同士の憧れやジェラシーを描く作品はドロドロしがちですが、この作品には終始爽やかさが漂います。
誰でも一度は「あの子みたいになりたい」と、他人に対して憧れやジェラシーを抱くことがあると思います。自分と他人を比べると、どうしても自分にないものばかりを見てしまうんですよね。
でも、そんな自分にかかった「呪い」を解けるのは、やっぱり自分でしかありません。
自分と向き合えるきっかけになる一冊です。
思わず共感しちゃう!
『王妃の帰還』
『王妃の帰還』
実業之日本社
カトリック系のお嬢様学校に通う、地味グループに所属する範子、チヨジ、スーさん、リンダ。そんな彼女たちのもとに、カーストトップの地位を失った“王妃”こと滝沢が入ることに……。
範子たちは王妃を元のグループに戻そうと、「プリンセス帰還計画」を立て奮闘します。
スクールカーストやグループ意識に悩んでいる方に読んでほしい『王妃の帰還』。
女性特有の駆け引きや空気感を、細やかな心理描写でリアルに描いています。なんともヒリヒリした気分を味わえます。
私は自分の少女時代を思い出し、範子たちを応援していました。
気を遣うことなくぶつかりあえていればどんなに良かっただろう、と、思わずにはいられません。
柚木麻子さんのおすすめ「ビタミン小説」
元気をもらえる内容や、ちょっと毒のある作品も。ぜひ読んでみてくださいね。
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