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おすすめ幻想小説|現実逃避するならフィクションの世界へ


更新日:2016/8/17

「こんな現実にはうんざりだ!」

なんて誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか。そしてそう思ったとき、あなたはどうしますか?

わたしは本を読み、フィクションの世界に浸ります。もっと言うと、非日常を描いた幻想的な作品を読みます。それというのも、現実を想起させるような作品より、現実離れした話を読んだほうが現実を忘れることができるからです。

そこでここでは、現実逃避マスターであるわたしが選書した現実を忘れさせてくれるだろう幻想的な小説をご紹介していきます。

一時的に現実から目をそらしたい方、現実にうんざりしてしまった方、よろしければ参考にしてみてくださいね。

 

『夜市』

『夜市』表紙

夜市
恒川光太郎(著)、角川書店

~あらすじ・内容~

妖怪たちが不思議な品を売る市場「夜市」。ここでは望んだものが何でも手に入る。

大学生のいずみは、高校時代の同級生である祐司に連れられ「夜市」へやってきた。そこで祐司から、以前にも夜市にやってきたことがあると告白される。

そのとき祐司が夜市で買ったものは「野球の才能」。そして対価として払ったのは弟だった。
祐司が今日夜市を訪れたのは、弟を買い戻すため。はたして弟を買い戻すために使う対価は……。

 

ファンタジーホラーの傑作

本作は、日本ホラー小説大賞受賞作である「夜市」のほか、中編小説「風の古道」が収録されています。

「夜市」は、妖怪たちが店をかまえる市場での話。おどろおどろしい導入からは想像もつかない感動的で切ない結末が待っています。
「風の古道」は、小学生が異界へつながる不可思議な道に迷い込み、その道から抜け出すために冒険する話。

幻想的で美しい文体で綴られる2つの作品。どちらも映像を強く喚起するようなそんな物語ですよ。

 

『オーデュボンの祈り』

『オーデュボンの祈り』表紙

オーデュボンの祈り
伊坂幸太郎(著)、新潮社

~あらすじ・内容~

警察に追われていた伊藤は、その逃走中、地図にない島「荻島」へ連れてこられる。

「荻島」は外界と交流のない孤島。そこにはあらゆる不思議が満ちていた。
「未来予知をする喋るカカシ」「殺人を許されている男」「思ったことと反対のことしか言わない男」など、普通では考えられない物や人が当たり前のように存在しているのだ。

そんな折、未来予知するカカシが何者かに殺される。
なぜ未来予知のできるカカシは殺されてしまったのか? 伊藤がその謎を追う。

 

荻島という不可思議な島での話

新潮ミステリー倶楽部賞受賞作で、伊坂幸太郎さんのデビュー作でもある本作。
話の設定だけを見るとファンタジーですが、ミステリー作品としての側面も。「不思議な島民たちの謎」や「カカシがバラバラにされた理由」など、魅力的な謎が話を牽引していきます。

本作の魅力はそういった謎のほかに、不可思議な島が放つ独特の雰囲気にあると思います。

一般人が迷い込んだ不思議な島の物語。現実世界を忘れさせてくれますよ。

 

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』表紙

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
村上春樹(著)、新潮社

~あらすじ・内容~

並行して語られる2つ物語。
生物学者である老人から、とある依頼を受けた「私」が語る「ハードボイルド・ワンダーランド」。高い壁に囲まれた街で暮らす「僕」の物語、「世界の終り」。
2つの世界の話が交互に語られ、物語は展開していきます。

 

難解ながら、すらすらと読める作品

本作は村上春樹さんの初書き下ろし長編作品です。村上春樹作品特有の幻想的で退廃的な雰囲気は、本作にも漂っています。特に「世界の終り」はファンタジーの趣が強く、幻想的な雰囲気がより色濃くなっています。

本作は非常に難解な小説であるのが特徴で、一度読んで全てを理解することは困難です。しかし内容は難解でありながらも、文体は平易。そのため、読み進めていきやすい作品となっています。

さらにその適度な難解さ故か、一度読むと理解するためにまた読み返したくなってくるようなそんな小説となっています。

村上春樹さんが自伝的な作品と位置付けている本作。これから村上春樹作品を読もうと思っている方に強くおすすめしたい作品です。

 

『都市伝説セピア』

『都市伝説セピア』表紙

都市伝説セピア
朱川湊人(著)、文藝春秋

~あらすじ・内容~

河童と前歯のない少女と「私」の物語、「アイスマン」。残酷すぎるループを描いた「昨日公園」。
他3篇を収録した恐ろしくもどこか切ない作品集。

 

ノスタルジックな切なさと背筋が寒くなる恐ろしさ

本作は、直木賞作家の朱川湊人さんのデビュー作で、ホラーありミステリーありファンタジーありの短編集となっています。

収録された5つの作品はジャンルがそれぞれ異なりますが、癖のない端正な文体で描かれているという共通点があります。本作は朱川湊人さんの作家性が滲みでていて、著者の魅力を知ることのできる一作ですよ。

朱川湊人作品を読んだことのない方にまずお勧めしたい作品です。

 

『龍宮』

『龍宮』表紙

龍宮
川上弘美(著)、文藝春秋

~あらすじ・内容~

女好きのタコの下品で生々しい話を描いた「北斎」。モグラが人間を飼う話「鼹鼠」。霊力を持つ祖母イトについて描いた不可思議な作品「龍宮」。

他5編が収録された日常と非日常を行き来する不思議な短編集。

 

圧倒的な幻想文学

本作は、エンターテイメントと言うよりは、純文学に近い作風となっています。そのため、語られる話のどれもが静謐で、大きな起伏はありません。
ただ、芥川賞受賞作家の著者が描く文章が魅力的で、ついつい先を読みたくなる作品です。

どの話も日常と遊離した幻想的な世界を描いていて、読後に不思議な読み味を残してくれます。

 

『竜が最後に帰る場所』

『竜が最後に帰る場所』表紙

竜が最後に帰る場所
恒川光太郎(著)、講談社

~あらすじ・内容~

真夜中を旅する不思議な集団の物語「夜行の冬」。生物が別の物に化けた「擬装集合体」について描いた「鸚鵡幻想曲」。
不思議な生物の一生を描き、作品タイトル「竜が最後に帰る場所」にもつながる話「ゴロンド」。

他2篇を加えた、日常と幻想の狭間を描いた作品集。

 

幻想的な世界観

著者の恒川光太郎さんは日常と非日常の狭間を描くことを得意とする作家さんで、そこが著者の大きな魅力です。本作でも、その魅力が全面に出ています。

美しく幻想的な文章でつづられる本作はどこか浮世離れしていて、現実を忘れさせてくれるような作品ばかり。

本作の中で、わたしのイチオシは「夜行の冬」です。人々が列を作って、どこに向かうかもわからない旅をするこの話は読後に不思議な余韻を残す作品となっています。

 

『ジャイロ・スコープ』

『ジャイロ・スコープ』表紙

ジャイロスコープ
伊坂幸太郎(著)、新潮社

~あらすじ・内容~

「セミンゴ」という謎の生物が暴れる荒涼とした世界。そんな世界でバスに乗って移動する複数の老若男女を描いた「ギア」。
あの時ああしていれば……そんな後悔を解消してくれる「if」。おかしな新幹線から1人の女性の人生が見えてくる「彗星さんたち」。

全7編の短編に加え、著者伊坂幸太郎さんの特別インタビューが掲載されている珠玉の作品集。

 

新たな伊坂幸太郎

伊坂幸太郎さんといえば、伏線を巧みに操る緻密な構成を得意としたエンタメ作家です。
ただし、本作『ジャイロスコープ』は、そういった作品に加え、純文学的な色合いが強い作品もいくつか収録されています。

特に謎の生物セミンゴについて描いた『ギア』は、非常に難解な作品となっています。そういう意味で、伊坂幸太郎さんの新たな一面を見ることのできる作品であるといえます。

また本作には、不思議な読み味の作品が多いことが特徴。
ファンタジーなのかSFなのかあるいはそれらを装ったただのトリックなのか。終盤までそういった部分が曖昧なまま展開されていく物語が多く、どういった結末を迎えるのか読めない作品ばかりです。

SF、ファンタジー、ミステリーと話のバリエーションに富んでいて、この1冊でいろいろな楽しみ方のできますよ。

 

不思議な体験ができる小説を。

不思議な世界を体験できる小説をご紹介しました。現実ではできないことでも、小説であれば叶います。

ぜひ現実の世界を忘れて非日常を味わいたいときに読んでみてはいかがでしょうか。

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