日本人作家が描くおすすめファンタジー小説
更新日:2019/12/20
「ハリー・ポッターシリーズ」「ナルニア国物語」「指輪物語」などなど、ファンタジー小説と言われると、ついつい海外作品を思い浮かべてしまうのはわたしだけでしょうか?
しかしよくよく考えてみれば、日本人作家も素晴らしいファンタジー小説を描いています。
ここでは、日本人作家が描くファンタジー小説を紹介していきます。読みやすく、読んでいて楽しいエンターテインメント作品を選びました。
伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』
『夜の国のクーパー』
伊坂幸太郎(著)、東京創元社
~あらすじ~
8年にもわたる戦争が終結し、「夜の国」には、鉄国の兵士たちが多数乗り込んできた。そんな中、夜の国の国王が、国民が見守る広場で鉄国の「片目の兵長」に射殺されてしまう。
一方、夜の国に住む猫のトム。彼も思わぬところで戦争のあおりを受けることに。それというのも、国中のネズミたちから「不要なネズミ狩り」をしないでほしいと持ち掛けられたのだ。
彼らに知恵を与えたのは、鉄国からやってきた賢いネズミ。そこで夜の国に住む猫たちはやむなく、ネズミたちと休戦協定を結ぶが……。
伊坂幸太郎が描く「戦争」とは……。
本作のテーマはずばり「戦争」。
ただし、ファンタジーとユーモアをまじえて語られるため、重くなりすぎず、あくまでエンターテインメント作品として描かれています。
本作は主に3つの視点で物語が展開していきます。
仙台からこの世界へやってきた公務員の「私」、「夜の国」の出来事を「私」へ話す猫のトム、そしてクーパーという大樹の怪物と戦う兵士。彼らを描いた伝説の物語なのです。
やがて話はつながり、序盤からは想像もできない結末を迎えます。終盤にちょっとした仕掛けを用意しているところは、さすが伊坂氏といったところ。
含蓄があり、エンターテインメントとしても優れた1作です。
恒川光太郎『雷の季節の終わりに』
『雷の季節の終わりに』
恒川光太郎(著)、角川書店
~あらすじ~
『その土地の名は穏という――
穏には春夏秋冬の他にもう一つ神の季節があった。
穏に住む者たちは、冬と春の間に位置する短い季節のことを、神季、もしくは雷季と呼んで、特別に春や冬から分けていた。(p7より抜粋)』
戦争を避けるため、隠れて存在する村「穏」。地図にも載っていないその場所には春夏秋冬の他に雷の季節があった。
その季節になると人々は家にこもり、その季節が過ぎ去るのを待つ。そのとき村には鬼が闊歩し、人をさらっていくと言われているのだ。
鬼に姉をさらわれた少年・賢也。「穏」で生活をしていた彼にはとある秘密があった。やがて彼は、1つの事件に巻き込まれてしまい……。
抒情的な長編ファンタジー
本作は、「穏」という異世界を舞台にしたファンタジー小説です。現実世界と異世界が交互に語られ、賢也という少年の秘密が徐々に明らかになります。
透明感のある文体で描かれる幻想的かつ抒情的な世界は、それだけで一読の価値あり。話の内容も面白く、先が気になる構成になっています。
「穏」でのどこか懐かしさすら感じる美しい生活風景を描いた導入。そこから物語は徐々に表情を変えていきます。
そして起きる1つの事件。そこに不死身の怪物トバムネキや異界の渡り鳥などが絡んできて、物語はファンタジーからホラーやサスペンスに色を変えていきます。
本作は、ホラー・ファンタジーの傑作といえる作品でしょう。
時雨沢恵一『キノの旅 ーthe Beautiful Worldー』
『キノの旅 ーthe Beautiful Worldー』
時雨沢恵一(著)、メディアワークス
~あらすじ~
喋るモトラド(二輪車)と旅をする、キノという若者の物語。
機械しか見当たらない国の不思議な成り立ちを描いた「人の痛みが分かる国」。
人のいないゴーストタウンで見つかったのはたった1人の国民を描いた「多数決の国」など、さまざまな国でのキノの旅が描かれる。
寓話的な物語
本作は、若者に絶大な人気を誇るライトノベルシリーズ。シリーズを通して寓話的な趣があり、風刺のきいた作品となっています。
第1巻に収録をされているのは6つの物語。どの話も皮肉がきいていて、思わず考えさせられるような話です。
そういったものに加え本作は構成も見事で、特に第5話の「大人の国」で明かされる真相には「やられた!」と思う方も少なくないはず。
巧みな構成とメッセージ性を兼ねた本作はライトノベルの傑作! これからライトノベルを読もうとしている方に、「まずはこれから」と自信を持ってすすめられる作品です。
百田尚樹『カエルの楽園』
『カエルの楽園』
百田尚樹(著)、新潮社
~あらすじ~
凶悪なダルマガエルに土地を奪われた、アマガエルのソクラテスとロベルト。苦難の果てにたどり着いたのは平和で豊かな国ナパージュだった。
そんな楽園で暮らすツチガエルは、奇妙な教え「三戒」によって守られていた。しかしある日、ナパージュにウシガエルが迫ってきて――!?
デリケートな問題をファンタジーに!
本書の舞台は、平和で豊かなカエルの国ナパージュ。これはローマ字JAPANを逆さ読みしたものです。
ナパージュの人々が守っている「三戒」は、「カエルを信じろ。カエルと争うな。争うための力を持つな。」というもので、憲法9条を連想させます。
そしてナパージュで暮らすツチガエルは日本人、凶悪なウシガエルは近隣国だということが容易に推測できるはず。
この分かり易い設定の中で百田氏が強調するのは、日本人と推測されるツチガエルの平和主義の愚かさです。
つまり本作は、日本を取りまく現状がファンタジーという形で描かれ、平和ボケした日本を鋭く風刺したものということ。
そして、そのリアリティが本書の面白さで、読後は日本を取りまく現状について考えざるを得なくなってしまいます。
賛否両論あるデリケートな問題ですが、現状を把握する役目となるのは確かです。
日本人の書くファンタジー作品も読んでみて。
日本人作家が描くファンタジー小説は、読みやすい作品が多いのが特徴です。今回紹介した作品も読みやすく、老若男女におすすめできる作品となっています。
ファンタジー小説を探している方は、是非参考にしてみください。
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