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じんわりと胸に広がる! 心温まる感動小説


心温まる 感動 小説 TOP

なぜあなたは小説を読むのですか?

そう訊かれた時、「感動したいから小説を読む」と、そう答える方は多いのではないでしょうか。もちろん、何か教訓を得るためであったり、教養を高めるためであったり、読書の理由は人それぞれだとは思いますが、一番多いのはやはり「感動の獲得」なのではないかなぁというのがわたしの考えです。

そこでここでは、読後にいつまでも感動の余韻が残る“心温まる傑作小説”を3作紹介していきます。

物語に触れ、感動したい方必見です。

 

『映画篇』

小説『映画篇』表紙

映画篇
金城一紀(著)、集英社

~あらすじ~

小説家になった「僕」が思いだす、過去の友達と彼との青春。夫を亡くし、その裏にあった出来事に向きあう女性。弁護士の親から数千万円もの現金を奪おうと企む女子高生とその手伝いをする男子高校生。家族と上手くいっていない小学生の少年。そして祖母を元気づけるために奔走する孫たち。描かれるのは彼らを取り巻く5つの話。共通するキーワードは「映画」です。

不器用だったり、周囲との関係に問題を抱えていたり、過去に傷を持っていたりする人々が映画を通して、前に踏み出していきます。

友情や正義、ロマンスに復讐、そして家族愛。これら5つの話が瑞々しい筆致で語られた時、そこには大きな救いが待っています――。


テーマはばらばらでも根底に溢れるのは人間愛

本作は、五編が収録されているオムニバス小説です。5つの話はテーマがバラバラで、読み味も違いますが、どの話も根底に強い人間愛が垣間見えます。主要登場人物の誰もがそこはかとなく優しく、「誰かのため」に行動しているのが特徴です。

そして多くの登場人物を結ぶ数々の映画作品。物語に出てくる「区民館で上映されるローマの休日」は、作中で多くの人々を感動させます。

本作には作者の人間愛と映画愛がこれでもかというほど溢れています。

一編一編に心温まるエピソードが用意されていて、読んでいると心がほっこりするようなそんな小説です。読後はじんわりと広がる感動が胸にいつまでも残ります。

 

『ツナグ』

書籍『ツナグ』表紙

ツナグ
辻村深月(著)、新潮社

~あらすじ~

死者との再会を叶えてくれる「ツナグ」。老若男女様々な人が死者との再会を望みます。

突然死したアイドルに会いたいと願うOL。

母が亡くなる時、ガンだということを伝えなかった息子。

生前の親友に強い嫉妬心を抱いていた女子高生。

突然姿を消した婚約者を待ち続ける会社員。

死者に会えるのは一生に一度だけ。死者と会ったあと、彼らは一体何を思うのか。
死者と生者の一夜限りの邂逅。そこでもたらされるものは果たして――。


死者に関する5つの話

本作は累計発行部数50万部以上を記録しているベストセラー小説です。

「人の死」というのは、否が応にも「別れ」を意味するもの。それ故に創作において「人の死」はそれだけで人を感動させるポイントになります。あまり良い言い方ではありませんが「人の死」というのは創作物の中では盛り上がるポイントとなるのです。

ただこの小説は「人の死」をそういった形で安易に使うことがありません。
多くの感動小説では「人が死ぬ瞬間」というものを描写し「別れ」を描きます。

しかし、本作は人が死んだあとの話を描いているのが特徴。そして、そこがこの小説の魅力でもあります。

1話目では、死者から生きる力を貰う話。2話目は、母の死から自らを省みる話。3話目は、死者の思惑を知る苦い話で、4話目は失踪した婚約者が死んでいるか否かを探る話。本作は、このように死を「別れ」として描かず、生きている人間の人生に繋がるような描き方をしているのです。

そして5話目で明かされる「ツナグ」の事情。「ツナグ」の視点から語られることによって様々な人の感情が見えてきます。
人の弱さや、強さ、温かみを知ることのできる1作ですよ。

 

『対話篇』

書籍『対話篇』表紙

対話篇
金城一紀(著)、新潮社

~あらすじ~

人を遠ざけ、誰かを愛することを拒み続ける青年。彼はなにも人が嫌いなわけではありません。それでも彼が人を避ける理由。それは彼と親しくした人は、皆次々と死んでいってしまうから。そんな彼の愛の話を描いた「恋愛小説」。

死の間際、男としてやらなければならないことを遂行しようとする青年。ちなみに彼のやらなければならないこと、それは殺人です。すでにこの世にはいない愛する人のために立ちあがろうとする青年を描いた「永遠の円環」。

亡くなった元妻との思い出を取り戻そうとする1人の老人。その老人とともに、老人の思い出の場所を回る青年。2人の切ない冒険譚を描く「花」。

本作は、直木賞作家金城一紀が贈る3つの愛についての話を描いた中編集。3つの物語の結末に待っているものは果たして――。

『いつか、僕は大切な人に出会うだろう。そして、その人を生かし続けるために、その手を決して離しはしない。そう、たとえ、ライオンが襲いかかってきたとしても。

結局のところ、大切な人の手を探し求め、握り続けるために、僕たちはうすのろな時間をどうにか生きてる。

ねえ、そうは思わないかい?(p75)』


金城一紀が描く愛と死

本作に収録された3篇に共通しているのは「愛する人の死」です。

愛する人が亡くなった時、人は何を思い、何をするのか。そういった部分がテーマとなっているような気がします。

1話に出てくる青年の切なすぎる境遇。人を愛することができない青年の身に起こる出来事には胸を打つものがあります。

2話目には世の中へのやるせなさと「愛する人を選べない辛さ」が、そして3話目の爽快感のある結末は救いがあり、読後に温かな余韻を残してくれます。

創作物の中に「安っぽい愛」と「本物の愛」というものがあれば、本作で書かれている愛は間違いなく後者です。

 

まとめ

上述した3作品はどれも平易な文体でつづられていて、非常に読みやすいのが特徴です。ただその文章は洗練されていて、読みやすくも軽くなりすぎない絶妙な読み味を残してくれます。

人の「普遍的な感情」を描いた3作。万人に自信をもってお勧めできる作品です。

 

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