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新語は月に400語!?辞書に載せる言葉を探す「ワードハンティング」とは


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新しい言葉が生まれては消えていく昨今。流行を映し出す日本語や、若者言葉、死語など、私たちの周りにはたくさんの言葉が渦巻いています。

そのたび、国語辞典は刷新されてきました。編纂者が旧版にない新語を増補し、旧版の項目の語釈(ことばの説明)を変更していきながら。

たとえば、1960年に初版が発行された『三省堂国語辞典』。こちらは生きのいい新語を積極的に採録する編集方針が有名な辞典です。第6版・第7版の改訂時には、ともに約4,000の新語が追加されたといいます。

では、誰がどこからどのような方法で、辞書に載る新語を探しているのでしょうか?

 

その答えが書かれているのが、飯間浩明氏の著書『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?ワードハンティングの現場から』(ディスカヴァー携書)。

飯間氏は前述にあった『三省堂国語辞典』の編纂者(辞典を作る人)を務める日本語学研究者です。

では、本書を手掛かりに、4,000もの新語がどこからどのような方法で見つけ出されたのか探っていきましょう。

 

辞書に載る言葉を探す「ワードハンティング」

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冒頭部分の「はじめに」で筆者はこのように書いています。

獲物を狙うハンターのように、「まだ辞書に載っていないことばはないか」「意味が変わってきたことばはないか」と、ことばを探すこと自体を目的に、新聞を読んだり、本を読んだりします。『三省堂国語辞典』の初代主幹・見坊豪紀は、これを「ワードハンティング」と名付けました。

私の場合は、まず、新聞・雑誌・書籍などを一行一行くまなく読んでいきます。「これは」と思うことばを見つけたら、その箇所に丸を書き入れます。テレビ番組を視聴するときは、必ず録画し、注意を引くことばに出会ったら、リモコンのチャプターボタンを押して印をしておきます。こうして採集したことばは、前後の文脈や出典、日付などの情報とともに、後でまとめてパソコンに入力します。(p5-6)

これらの結果、第6版では、”SNS”、”かけ流し”、”(セリフ)をかむ”、”がらがらぽん”、”パワハラ”、 ”ピン(芸人)”、”(ギャグに)引く”などのラインナップが新規に追加されました。

筆者は、新聞・雑誌・書籍・放送・インターネットなどを通じて、なんと1ヶ月に400語前後のペースでデータを集めているのだとか。辞書の改訂作業が本格化する時期までには、10,000語以上のデータを蓄積しているとのこと!

辞書に載っていない新しい言葉をそれだけ集めるというのは、大変なことですよね。

私も本書を読んで、辞書に載っていない言葉集めに挑戦してみましたが、意外と辞書に載っている言葉が多く、10個が限界ですぐ断念してしまいました…。

 

東京の街を「ワードハンティング」

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ワードハンティングは、メディアやインターネットから探すだけでは全体を網羅したとはいえません。なぜなら、新聞や雑誌などのメディアを通じてもたらされたことばは「室内のことば」だからです。

より大きな視野でワードハンティングを行うためには、室外にも目を向ける必要があります。

室内でも室外でもことばの意味は同じなのに、なぜ室外でのワードハンティングが必要なの?と疑問に思う人もいるかもしれません。

例えば、本書で例に挙げられている『替え玉』。

新聞記事で出てくる「替え玉」というと、「替え玉受験」「替え玉投票」など、<本物に代わる偽物>の意味で使われていますよね。

ところが、街なかでの「替え玉」は、ラーメン店などで使われる<お代わりの麺>という意味を持つことが多いのです。

日本語というものは室内だけに存在するものではありません。扉を開けて外に出てみれば、街の中にもまた膨大な日本語があります。

街角に立って見渡してみると、看板、貼り紙、垂れ幕、店先の値札、路上の立て札、それに、行き交う自動車の側面にまで、さまざまな日本語が書かれています。これらは、室内の日本語とはまた違う特徴を持っています。(p7-8)

本書は、筆者が東京の街・24地域を歩きながら「ワードハンティング」する現場を、6テーマごとにまとめたものになります。路上観察の模様が細やかに綴られており、まるで、筆者と一緒に街を探索しているような気分になることでしょう。

たとえば、こんな具合です。

【 数量を強調する『メガ』 in原宿 】

アクセサリーショップものぞいてみます。
シュシュの横には、手のひらほどの大きなリボンがたくさん並べてあります。

メガりぼん/コンサートの必需品!/このリボンで目立っちゃお★/¥315(税込)

 

「メガりぼん」は、さすがに国語辞典には載せられませんが、「メガ」自体は興味深いことばです。
国語辞典で「メガ」を引くと、「100万」とか「100万倍」とかいう意味が載っています。たとえば、「メガトン」は100万トンです。一方、巨大銀行を「メガバンク」と言うように、「メガ」には「巨大」という意味もあります。後者の意味は、必ずしも辞書に載っていません。特殊な用法と考えられたのかもしれません。

ところが、2000年代後半から、「メガ◯◯」という言いかたが増えてきました。ファストフード店やコンビニでは、「メガマック」(マクドナルド)、「メガ牛丼」(すき家)などの商品が出はじめ、超大盛りのことを「メガ盛り」と称する店も多くなりました。

(p54-55)

【 あて字でイメージアップ in戸越銀座商店街 】

ヘアサロンの表の黒板には<人気NO.1メニュー!/輝男(キラメン)カット/4.410えん >とあります。
きらきら光るイケメンにしてくれるのでしょうか。それとも、店長の名前が輝男さんなのでしょうか。ともあれ、ここでは「男」の字を「メン」と読むということに注意しておきます。

 

豆腐直売所ののぼりには<豆富>と大きく書いてあります。これは、個人によるあて字ではなく、多くの店で用いられる表記です。「腐」という字を嫌って、あえて「富」という好ましい意味の字にしたのです。

発言は同じでも、あて字によってイメージをよくすることは、昔からありました。

(p84-85)

 

ワードハンティングのススメ

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分厚い辞典が作られる裏側には、このようなフィールドワークがあったのですね。辞書の編纂者目線に立つと、街のことばはこんな風に見えるんだということが分かる一冊です。

私自身、この本を読んでから、今までは目に留めることもなかった「街のなかのことば」が目に留まるようになりました。

ことばは生き物です。寿命が短いものもあれば、きわめて長いものもあります。

今は辞典に載っていないけれど、次の改訂時にはこのことばが載るのでは?などと考えつつ、ワードハンティングをしながら歩くと、街歩きがぐんと愉しくなりますよ。

■ご紹介書籍
辞書に載る言葉はどこから探してくるのか? ワードハンティングの現場から
飯間 浩明 (著)
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン

 

ライター

I.Megumi
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。