今年こそ絶対に読みたい!おすすめミステリー小説
今年こそ絶対に読みたいミステリー小説をご紹介します。
ここでは、比較的新しい作家の、2013~2018年の間に発売された作品5つを集めてみました。
作品を選ぶ時には、自分に合わないハズレを引いてしまうと損をした気分になるので、ついつい安定感のある有名作品やこれまで読んだことのある作家に目が向いてしまいがち。
なかなか手をつけられなかった作家さんやジャンルにトライして、2019年は新しい世界を見つけて下さい。
生々しい生き地獄を描く圧倒的な筆力
『愚者の毒』
『愚者の毒』
宇佐美まこと(著)、 祥伝社
生き地獄のような廃鉱集落の貧しい陰惨な生活。殺人の罪に囚われ続けながら、生きる苦しみと、その罪を犯すことしか選び得なかった悲惨な運命を描いた、2017年日本推理作家協会賞受賞作。
この深く重いドラマは、女性の一人称で淡々と静かに語られます。その情景がありありと目に浮かんでくる文章力、登場人物の心の叫びが手に取るように伝わってくる生々しい筆致が著者の魅力です。
過去と現在が巧みに組み合わされるなかに、多くの伏線がちりばめられ、要所要所で回収されながら最終章で真実が明かされるという流れ。壮絶な運命に翻弄される人間の、愚かな本性が切なく描かれた読ませる力のある作品です。
宇佐美まこと氏は、2007年のデビュー作であるホラー作品『るんびにの子供』で怪談文学賞短編部門大賞を受賞しています。続いてホラー作品『虹色の童話』、『入らずの森』、『角の生えた帽子』(短編集)が出版されており、2017年にはミステリー長編『死はすぐそこの影の中』も出版されています。
ミステリー小説界期待の新星が登場!
『ゴーストマン 時限紙幣』
『ゴーストマン 時限紙幣』
ロジャー・ホッブズ(著)、田口俊樹(訳)
文藝春秋
犯罪のプロ・ゴーストマンが、過去の強盗失敗の成り行きから、時限爆弾が仕掛けられた120万ドルを48時間以内に取り返すというクライム・サスペンス作品。
主人公ゴーストマンによって、過去に失敗したカジノ強奪事件と、現在の時限紙幣奪還、というふたつのストーリーが語られていきます。プロに徹する主人公と犯罪手口の本物らしさが、サスペンスとしての緊迫感をほどよく盛り上げています。そして、それを描く語り口、文体がカッコよくてスタイリッシュなところが、魅了される最大のポイント。
2014年、本作によりイアン・フレミング賞を受賞、ミステリー界の期待の星として華々しくデビューし、3つの作品を遺して28歳の若さで急逝した著者ロジャー・ホッブズ。
本書の他に主人公ゴーストマン誕生の背景を描いた『ジャック ゴーストマンの自叙伝』と、主人公の師匠アンジェラの救出劇『ゴーストマン 消滅遊戯』があります。あわせて読むのもおすすめです。
このミス大賞受作!医療ミステリー界の新星
『がん消滅の罠 完全寛解の謎』
『がん消滅の罠 完全寛解の謎』
岩木一麻(著)、宝島社
がんの研究に携わっていた著者の経験から書かれたという、2017年「このミス大賞」受賞作です。末期がんの患者に生命保険をかけ、余命宣告で生前給付金を受取るという保険金詐欺の謎、その後にがんが消滅するという謎を探るという医療ミステリー。
がんの医療技術からの生じる犯罪の可能性から着想を得た、という経緯がある本書。トリックのキモとなるがん治療最前線の技術がわかりやすく解説されています。
2人に1人が発症すると言われ「がんイコール死」というイメージでしたが、最近では「治る病気」に近づいてきたとも言われるがん。しかし、実際になった人でないとわからない本人や家族の苦悩があります。
がん治療の実態を啓蒙したいという著者の意図がミステリー小説という形で見事に結実した本作品は、海堂尊さんに続く医療ミステリー界の新星です。
サイコ・サスペンス界の鬼才が描くサイコ・ミステリー
『夏を殺す少女』
『夏を殺す少女』
アンドレアス・グルーバー(著)、酒寄進一(訳)
東京創元社
2010年にドイツ語圏で大ベストセラーとなったオーストリアの著者による作品です。サイコ・サスペンスの鬼才と呼ばれる著者は2005年の長編デビューからホラー作品を3作発表、その後に出された本作は組織的児童虐待を扱ったサイコミステリーです。
オーストリアの女性弁護士はウィーンで、ドイツの刑事はライプツィヒで、それぞれに少女が絡む別々の連続殺人にのめり込んでいく。事実が解明されていく過程で全く別の事件と思われていたものが、過去の陰惨な一つの事件につながり、会うべくして出会った二人が協力して真相を明らかにしていくという流れになっています。
主人公2人の、正義感にあふれ、前向きな行動力を持つキャラクター設定が絶妙で、子供の殺害という残虐な題材であるにもかかわらず、その陰鬱な雰囲気を打ち消してくれる結末に安堵を覚えます。
本作の続編『刺青の殺人者』が2017年の最新作ですが、この間に『黒のクイーン』、『月の夜は暗く』の2作品が日本で発表されています。
緻密に練られたプロットで描かれる上質ミステリー
『傷だらけのカミーユ』
『傷だらけのカミーユ』
ピエール・ルメートル(著)、橘明美(訳)
文藝春秋
日本では、カミーユ・ヴェルヴェーヴェン警部シリーズ3部作の2作目『その女アレックス』が最初に発売され、60万部を超えるヒット作となりました。1作目のデビュー作『悲しみのイレーヌ』はヨーロッパで多数の文学賞を受賞している世界的に人気の高い作品です。その3作目が、今回ご紹介する『傷だらけのカミーユ』。
主人公の新たな恋人が宝石強盗事件に巻き込まれて暴行されるところから始まり、彼女を助けるためにある男と対決する姿が描かれます。
3作品を通して、妻が殺され、一人の女性の復讐による猟奇的殺人の哀しみにひたり、新たな恋人が殺されそうになるという、まさに心が傷だらけになった主人公。その心が締め付けられるような悲哀が読者の心に沁みわたります。
計算されたプロットと次々に意表を突かれる展開の速さに、気持ちよく騙される上質なミステリー作品。2作目、3作目は前の作品の構成を踏まえた上で展開するストーリーのため、1作目から順番に読まないと前作の仕掛けが想像できてしまうので、1作目から順番に読むことをお勧めします。
新しいことの良さに気づく
今回ご紹介した5つのミステリーは、いずれもおすすめの作品ばかりです。時代を反映した題材やこれまでなかった切り口など、進化するミステリーは新しさの魅力にあふれています。追いつくのも大変ですが、今年も自分のペースで読んでいきたいと思います。
今回ご紹介したミステリー小説
『愚者の毒』
宇佐美まこと(著)、 祥伝社
『ゴーストマン 時限紙幣』
ロジャー・ホッブズ(著)、田口俊樹(訳)
文藝春秋
『がん消滅の罠 完全寛解の謎』
岩木一麻(著)、宝島社
『夏を殺す少女』
アンドレアス・グルーバー(著)、酒寄進一(訳)
東京創元社
⇒シリーズ作品はこちら
『傷だらけのカミーユ』
ピエール・ルメートル(著)、橘明美(訳)
文藝春秋
⇒シリーズ作品はこちら
筆者が2017年に出会えてよかったと思ったおすすめミステリー小説ベスト5はこちらでご紹介しています。