叙述トリックとは? 驚きの展開に度肝を抜かれるおすすめ小説
更新日:2018/6/14
ミステリー小説のなかにも、さまざまなジャンルが存在します。
本格ミステリー、暗号解読、サスペンス、警察小説など、みなさんはどんなジャンルのミステリー作品がお好きでしょうか?
ここでご紹介するのは、「叙述トリック」が使われたミステリー小説。
叙述トリック小説とは、はたしてどんなミステリー小説のことを指すのでしょうか?
あわせておすすめの小説もご紹介します。
叙述トリックとは?
叙述トリックとは、読者にあえて情報を伏せ、事実を誤認させるトリックのことを指します。
たとえばこちらの文章を読んでみてください。
にやにやと笑みを浮かべながら女風呂を覗いていた坂木は、俺の視線に気が付くと一目散に逃げていった。
この文章にある坂木を、あなたは男性と女性、どちらだと思ったでしょうか。
多くの方は坂木を「男性」だと認識すると思います。それは、多くの方の中に女性風呂を覗くのは「男性」だろうという先入観があるためです。
では物語のなかで、後にこの坂木が「女性」だと判明したらどう思うでしょうか?
今まで坂木を「男性」だと思っていた読者は、自分の認識の外から物語をひっくり返されることになります。
このように読者の先入観などを利用し、事実を誤認させるトリックを「叙述トリック」といいます。
これから叙述トリックを使ったおすすめの小説をご紹介しますが、それ自体が作品のネタバレに繋がります。
叙述トリックと知らずに読むから面白い、というこでもあります。
ですから、自分で叙述トリック作品を見つけたい方は、この記事に絶対目を通さないでください。
普段あまりミステリーを読まないからこそ知識を入れておきたい、どうしても叙述トリックの作品を知りたい方は、参考にしてみてくださいね。
傑作! 有名な叙述トリック小説
乾くるみ『イニシエーション・ラブ』
『イニシエーション・ラブ』
乾くるみ(著)、文藝春秋
映画にもなった言わずと知れた人気作。
1980年代後半バブル時代、合コンの席で出会った主人公とマユ。一見普通の恋愛小説ですが、実は――。
「最高傑作のミステリー」とも呼ばれているこの作品。最後の2行で物語の意味合いががらりと変わります。間違っても、途中で見てはいけませんよ。
歌野晶午『葉桜の季節に君を想うということ』
『葉桜の季節に君を想うということ』
歌野晶午(著)、文藝春秋
叙述トリックといえばこちら!
悪質な霊感商法の調査を依頼された、私立探偵の成瀬の物語。保険金殺人をめぐるミステリーと恋愛、2つが軸になっています。
第57回日本推理作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞など、2004年に多数のミステリーの賞を受賞した傑作です。
道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
『向日葵の咲かない夏』
道尾秀介(著)、新潮社
終業式に欠席した友達の家を訪ねたミチオ。なんとミチオは、その友達が首をつって死んでいるのを発見します。
その後、その友人の死体は姿を消してしまい――。
直木賞作家が描く叙述トリック作品。
「僕は殺された」という友人の無念の思いを背負って、ミチオが事件を追うことになります。陰惨な事件の先に待ち受ける結末は果たして?
我孫子武丸『殺戮にいたる病』
『殺戮にいたる病』
我孫子武丸(著)、講談社
東京の繁華街で猟奇的殺人を繰り広げるサイコパス蒲生稔。この男は、なぜ簡単に人を殺すようになってしまったのか……。
稔、母親の雅子、元警察の樋口の3人の視点で展開されます。
サスペンス性があり、最後まで目が離せない本作。3つの視点が重なり合い、やがて想像を絶する結末を迎えます。
綾辻行人『十角館の殺人』
『十角館の殺人』
綾辻行人(著)、講談社
謎の殺人事件がおきた孤島に建つ、不気味な十角形の館。そこで1週間過ごすことになった大学のミステリー研究会7人のメンバーたちに襲いかかる恐怖とは――?
綾辻行人さんのデビュー作で、新本格ムーブメントを起こした作品です。終盤に明かされる事実に、多くの方が唖然とすると思います。
筒井康隆『ロートレック荘殺人事件』
『ロートレック荘事件』
筒井康隆(著)、新潮社
晩夏、ロートレックの作品が飾られた郊外の洋館に集まったエグゼクティブな青年と美女たち。優雅なバカンスを共に過ごすはずだったその館で美女が次々に殺されていく。一体犯人は誰なのか――?
数々の傑作SF作品を世に送りだしてきた筒井康隆さんの叙述トリック作品です。
アガサ・クリスティ『アクロイド殺し』
『アクロイド殺し』
アガサ・クリスティ(著)、早川書房ほか
未亡人のフェラーズ夫人、その夫人と再婚が噂された富豪ロジャー・アクロイドが殺されてしまいます。
ロジャーの姪フローラが、引退した探偵 ポアロに助けを求め――。
殺人事件に居合わせた探偵ポアロが犯人を探し当てる、人気の「私立探偵ポアロシリーズ」の3作目。自分なりに誰が犯人なのか考えていたら、見事に騙されました!
殊能将之『ハサミ男』
『ハサミ男』
殊能将之(著)、講談社
女子高生連続殺害事件の犯人である通称「ハサミ男」は、自分と同じ手口を使って殺された3番目の犠牲者となる女性を発見します。一体誰が自分の真似をしているのか――?
殺人犯が、殺人犯を探す、一風変わった設定の本作。グロいシーンも多いですが、その結末には驚かされます。
伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』
『アヒルと鴨のコインロッカー』
伊坂幸太郎(著)、東京創元社
引っ越したアパートで出会った青年に、なぜか本屋襲撃の話を持ちかけられた主人公。交錯する過去と現在。やがて明らかになる真実の裏に隠されていたのは、ほろ苦い過去で――。
伊坂幸太郎さんが描く叙述トリックを使った傑作ミステリー。2007年に公開された映画版では、原作のトリックを映像上で見事に表現されていました。
東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』
『ある閉ざされた雪の山荘で』
東野圭吾(著)、講談社
ある演出家によって集められた、俳優志望の男女たち。ひどい雪のせいで孤立した山荘を舞台に起こる殺人劇とは――。
次々に劇団員たちが殺されていくのですが、これは本物の殺人なのか? それとも舞台稽古なのか? と、惹きつけられる展開に。
驚愕の結末を、見逃さないでくださいね。
知る人ぞ知る叙述トリック小説
麻耶雄崇『蛍』
『蛍』
麻耶雄崇(著)、幻冬舎
10年前に、作曲家の加賀螢司が演奏家6人を殺したファイアフライ館。オカルトスポット探険サークルのメンバーはここに肝試しにやってくるが――。
新感覚の叙述トリック作品『蛍』。クローズドサークルものの王道が好きな方はぜひ手に取っていただきたいです!
あなたはこの巧妙に仕掛けられたトリックを、すべて暴くことができるでしょうか?
乙一『GOTH』
『GOTH』
乙一(著)、角川書店
人間の持つ残酷な部分にひかれ興味を持つ若者たち“GOTH”を描いた中短編集。
全てのお話で叙述トリックが使われているわけではありませんが、傑作が非常に多いです。鳥肌が立つような描写や、乙一さんならではの耽美的な雰囲気を堪能できる一冊です。
綾辻行人『殺人鬼』
『殺人鬼』
綾辻行人(著)、新潮社
双葉山を訪れた親睦団体「TCメンバーズ」。和気あいあいとしていたはずの合宿は、殺人鬼の出現によって絶望に変わる――。
トリックの巧みさは言うまでもありません。スリリングな展開を味わえます。
ただし、スプラッタが苦手な方はご注意を。たくさんの人が血しぶきをあげて切られていくので、かなりグロテスクです。
入間人間『たったひとつの、ねがい。』
『たったひとつの、ねがい。』
入間人間(著)、メディアワークス
彼女と心を通わせ、交際を続けてきた主人公が結婚の話を持ちかけた。だが、その彼女の反応は予想もつかないものだった――。
一見すると恋愛ものかな? と思えるような表紙からは想像もつかない内容です。
予備知識なしに見ていただきたいですが、心臓の弱い方、グロテスクな描写が苦手な方はご注意ください。
乙一『暗黒童話』
『暗黒童話』
乙一(著)、集英社
事故が原因で、女子高生の「私」は記憶と一緒に左目をなくしてしまう。臓器移植で目の提供を受けて以降、「私」に再生される映像とは――。
乙一さん初の長編ホラー作品。幻想的な読み味の叙述トリックを楽しめます。「私」の身に覚えのない映像は、何を意味しているのでしょうか……。
佐藤友哉『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』
『水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪』
佐藤友哉(著)、講談社
工場で働く青年、少女を守る少年、とある屋敷での殺人事件。バラバラな3つの物語が並行して進んでいく――。
「鏡家サーガ」シリーズの3作目。語られる3つの陰惨な話が絡み合い、それが1つになる瞬間は感動しました。その後、物語は想像を絶する結末を迎えます。
伊坂幸太郎『砂漠』
『砂漠』
伊坂幸太郎(著)、新潮社
大学で出会った5人の男女の物語。ミステリー色もありながら、これぞ青春! が詰まっている作品です。
物語はもちろんのこと、登場人物たちがとても魅力的に描かれています。爽やかだけれどちょっぴり切ない、そんなお話をお求めの方はぜひ。
綾辻行人『どんどん橋、落ちた』
『どんどん橋、落ちた』
綾辻行人(著)、講談社
傑作宣言
あなたは、この謎が解けるか?(帯より)
表題の「どんどん橋、落ちた」を含む、5つの短編集。超難問“犯人当て”と銘打った作品です。
犯人を当てたかったのですが、かなりエキセントリックな内容に、しっかり騙されました……。良い意味で、脳が疲れます。
折原一『天井裏の散歩者』
『天井裏の散歩者』
折原一(著)、講談社
作家志望の若者が集う幸福荘で起こる、202号室のヒロインをめぐる事件とは――。
叙述トリックの名手、折原一さんが贈る作品。折原さんはこの作品に限らず、多数の叙述トリック作品を発表しています。まずは本作を読んで、他の作品も手に取ってみてくださいね。
北山猛邦『『アリス・ミラー城』殺人事件』
『『アリス・ミラー城』殺人事件』
北山猛邦(著)、講談社
鏡の向こうに入るとチェス盤のような空間が広がり、そこに集まる人が次々に殺されていく――。
物理トリックを得意とする北山猛邦さんが手掛ける叙述トリック作品。
<城>シリーズの3作目にあたりますが、シリーズ間の繋がりはないため、本作から手に取っても問題ありません。
叙述トリックを楽しもう!
ミステリーを読んでいると、必ず叙述トリック作品に出会うはずです。
そして、予備知識がない状態で読んだ叙述トリック作品からは、より大きな驚愕を得ることができると思います。
ですから叙述トリックの面白さを知った方は、次は、叙述トリックかどうかを気にせずミステリー作品を手に取ってみることをおすすめします。
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