歴史小説初心者でも読みやすい! 「幕末」を描くおすすめ歴史小説
幕末は、国を揺るがす激動の時代でした。
小説のテーマとして魅力のある時代であり、モデルにしたくなる魅力的な人物も多数輩出した時代で、多くの作家がこの時代を背景に小説を書いています。
幕末というと坂本龍馬や新撰組の志士たちを思い浮かべる方が多いと思いますが、時代に翻弄された女性を描いた小説にも興味深い作品があります。
今回は、そんなドラマチックな時代をテーマにした、歴史小説初心者の方にも読みやすいおすすめの作品をご紹介しましょう。
男の生き様を堪能!
『幕末遊撃隊』
『幕末遊撃隊 改訂新版』
池波正太郎(著)、 集英社
幕末から明治時代にかけて、剣一筋に生きた幕臣・伊庭八郎を主人公に描いた歴史小説です。
心形刀流・伊庭道場に後継ぎとして生まれた江戸っ子の伊庭八郎が対峙するのは官軍。
上洛する将軍とともに京へ向かった八郎は同志を募って遊撃隊を組織し、襲い来る官軍に立ち向かい、その果てに26歳の短い命を散らします。
結核に患っていることを悟った八郎が、短い命と真剣に向き合う姿が潔く、美しくさえ感じます。
池波正太郎氏の幕末を描いた作品は『人斬り半次郎』や『幕末新選組』など多数ありますが、なかでもこの作品は江戸弁語りが爽快で、清々しいほどかっこいい男の生き様が堪能できる小説です。
短編集で読みやすい
『酔って候』
『酔って候』
司馬遼太郎(著)、文藝春秋
司馬遼太郎氏の幕末を描いた作品には『燃えよ剣』や『最後の将軍』、『世に棲む日日』などがありますが、歴史小説はあまり読んだことがないという方には、短編集の『酔って候』をおすすめします。NHK大河ドラマ『翔ぶが如く』(1990年)や『花神』(1977年)の原作の一部になった作品です。
幕末期の4人の賢侯を題材にした短編集で、
・酒を好んで「狼候」と呼ばれ、佐幕と勤王との間に揺れた土佐藩主・山内容堂の「酔って候」
・薩摩藩主・島津斉彬亡き後の最高権力者であった島津久光を主人公とした「きつね馬」
・宇和島藩主・伊達宗城と、その命で国産蒸気軍艦船を建造することになった提灯張替え屋嘉蔵(前原巧山)を描いた「伊達の黒船」
・ひたすら藩政改革に邁進した佐賀藩主・鍋島閑叟を主人公とした「肥前の妖怪」
の4篇です。
混迷した幕末期にあって、才気ある彼らはどのように考え、どのように生きたか興味深い歴史小説です。
許嫁への熱く純粋な想いも見どころ
『幕末歴史小説 二十歳の炎』
『幕末歴史小説 二十歳の炎』
穂高健一(著)、 日新報道
日本の夜明けに、芸州広島藩が大きく関わっていたことを知る人はどのくらいいるでしょう。
しかも、藩の中枢を担っていたのは、若干二十歳の若者だったことを知る人はわずかだと思います。広島県生まれの穂高健一氏が、少ない資料から貴重な歴史小説を作り上げました。
薩長土肥が倒幕を果たした役割はクローズアップされますが、広島藩の果たした役割やその中枢にいた高間省三はスポットライトを浴びることはありませんでした。明治政府によって資料が封印されたことが一因となっていたのです。
高間省三を主人公に書いた当作品には、省三が広島藩のために奔走する姿や戊辰戦争で戦う姿が緊迫感をもって描かれていますが、許嫁の綾への熱く純粋な想いも綴られ心に迫るものがあります。
歴史に埋もれた英雄を丁寧に書いた幕末小説です。
“泣ける”小説としても有名
『壬生義士伝』
『壬生義士伝』
浅田次郎(著)、文藝春秋
浅田次郎氏初の時代小説。新撰組の隊士である吉村貫一郎は、足軽の家に生まれ、その貧しさから逃れるために南部藩を脱藩し新選組に入隊します。
「人斬り貫一」の異名を持ち、守銭奴と蔑まれていましたが、元新選組隊士や教え子たちから語られる彼は、異名や評判とは違った顔を持つ、ひたすら家族を愛し、武士としての義を貫いた男でした。
この作品は、2002年にテレビドラマ化され、翌2003年には映画にもなっています。また浅田次郎氏は、本作品で第13回柴田錬三郎賞を受賞しました。登場人物の話し言葉が口語体なので、とても読みやすい作品です。
坂本龍馬を愛し続けた女剣士を描く
『龍馬のもう一人の妻』
『龍馬のもう一人の妻』
阿井景子(著)、毎日新聞社
幕末の時代に翻弄された女性にスポットを当てた小説をご紹介します。
著者である阿井景子氏は、『龍馬の妻』『龍馬と八人の女性』『龍馬の姉・乙女』など坂本龍馬にまつわる女性をテーマにした時代小説を発表しています。
しかし本作品は、一時は婚約者だったが、二度と戻ることがない坂本龍馬を愛し続けた女剣士・千葉佐那を描いた小説です。
北辰一刀流の千葉家の長女として生まれた佐那は、墓石には「坂本龍馬室」と刻まれ、「わたくしは坂本龍馬の婚約者でした」と生涯言い続け、頑なに龍馬を待ち続けて一生を終えました。
女剣士でありながら、時代に翻弄され一途な想いを抱えて生きた女性の、切ない生涯を描いた一冊です。
長編でもどんどん読める『篤姫』の原作
『天璋院篤姫』
『天璋院篤姫』
宮尾登美子(著)、講談社
激動の幕末期にあって、徳川十三代将軍家定に嫁がなければならなかった篤姫を描いた歴史小説です。NHK大河ドラマ『篤姫』(2008年)の原作となりました。
18歳で島津家分家から薩摩藩主・島津斉彬の養女となった篤姫を、その才覚・器量を見込んだ斉彬は、大きな野望を秘めて将軍家定のもとに嫁がせます。
家定は病弱で後継ぎも叶わず若くして亡くなってしまいますが、その後も天璋院となり、徳川家の人間として大奥三千人を統率して生きた波乱万丈の生涯を描いた長編です。
皇妹和宮の降嫁や大政奉還など、激動の時代にも凛として気高く生き抜いた女性の生涯は、長編でもどんどんと読み進むことができるでしょう。
初めて歴史小説を読む方にも読みやすい!
多くのドラマがあった激動の時代・幕末は、小説のテーマとしても面白く読むことができます。歴史・時代小説の初心者という方は、口語体で書かれた小説や短編集から読んでいくことをおすすめします。
幕末をテーマにした小説は波乱万丈の内容が多いので、どんどん読み進めていくことができますよ。
■ご紹介した「幕末」を描く歴史小説
『幕末遊撃隊 改訂新版』池波正太郎(著)、 集英社
『酔って候』司馬遼太郎(著)、文藝春秋
『幕末歴史小説 二十歳の炎』穂高健一(著)、 日新報道
『壬生義士伝』浅田次郎(著)、文藝春秋
『龍馬のもう一人の妻』阿井景子(著)、毎日新聞社
『天璋院篤姫』宮尾登美子(著)、講談社
もっと歴史小説を探したい方に。
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