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【2017年】亡くなった歴史・時代小説の作家を偲ぶ|作家別No.1作品


2017年は、芥川龍之介氏の没後90年、時代小説の巨匠・山本周五郎氏の没後50年にあたります。また、藤沢周平氏の生誕90年であり、没後20年。
さらに、2017年3月には小松重男氏、5月には杉本苑子氏という歴史・時代小説作家の重鎮が亡くなりました。

そこで、ここでは上記5人の作者を偲び、それぞれの作家の作品から個人的No.1作品をご紹介します。

 

ユーモア満載の傑作!

「けつめど」
小松重男(著)
光文社『でんぐり侍』より

小松重男氏の「けつめど」は、公文社の『でんぐり侍』に収録されている、滑稽だけれど心あたたまる短編です。
ちなみに「けつめど」とは「肛門」のこと。

 

大飢饉に見舞われた奥州の白河から江戸に来た留吉は、飢えと渇きでドドメ色になっていました。それは、しわが寄り唇もひび割れ、その様子は「まるで痔を患った肛門のよう」と言われるほど。

そこで留吉は、肛門をまねて唇をすぼめて見世物にしたところ、「けつめどにそっくりだ!」と見物人が集まり、見物人は小銭を気前よくくれるのです。

やがて、けつめど商売が危なくなった留吉が次に始めた商売は「親孝行」。(「親孝行」とは、老いた親を背負って通行人に金銭をもらう物乞いの一種)
しかし、この物語に出てくる人々は「親孝行は老人を1日背負って喜捨を求める大変な商売だ」と、「親孝行」を物乞い扱いしていません。
さらに、親孝行をやりたい人に「親役」の老人を貸し出す商売まで登場します。

江戸時代の人々が持つ、何でも商売にしてしまう逞しさと、けつめどのようなバカバカしい見世物や、嘘の親孝行に小銭を与える懐の深さに感心しました。

 

他人の”ため”は、本当に”ため”になる?

「わたくしです物語」
山本周五郎(著)
新潮社『町奉行日記』より

「わたくしです物語」は、新潮社の『町奉行日記』などに収録されています。山本周五郎氏の作品の中では、軽妙な語り口のユーモラスな短編です。

 

この物語の面白いところは、茂平老と孝之助の会話。まるでかけあい漫才のようです。

もう一つの面白さは、気の弱い孝之助が他人の責任を負って「私がやりました」と名のって出るたびに説明される、自身の犯行動機の数々。無理矢理こじつけた犯行動機を茂平老が事情聴取し、茂平老のイライラはつのり、漫才のような会話の応酬がさらにヒートアップします。

ラストシーンでついにキレた茂平老のセリフは大笑いしちゃいますよ。

 

癖のある武士の心温まる物語

「祝い人助八」
藤沢周平(著)
新潮社『たそがれ清兵衛』より

藤沢周平氏の「祝い人(ほいと)助八」は、新潮社の『たそがれ清兵衛』に収録されている短編小説です。
「祝い人(ほいと)」とは物乞いのこと。

御蔵役の伊部助八は、身なりが汚いために「ほいと」と呼ばれています。本当は香取流の剣の達人なのですが、それを思い出す人もほとんどいません。

親友・飯沼倫之丞の妹・波津に淡い恋心を抱く助八ですが、貧乏な自分に嫁いで波津を苦労させたくないと結婚話を断ってしまいます。しかし、助八は上意討ちの討ち手に選ばれ死ぬか生きるかの殺し合いに出向くことになってしまいました。

 

映画『たそがれ清兵衛』を知っているという方も多いと思いますが、映画版のストーリーは「祝い人助八」ともう一つ、「竹光始末」がベースになっています。
「祝い人助八」を映画と原作の違いを比べながら読むと楽しいですよ。

 

治水工事を引き受けた薩摩藩の苦悩

『孤愁の岸』
杉本苑子(著)

『孤愁の岸』は、19世紀半ば、江戸時代中期に実際にあった木曽三川の治水工事(宝暦治水工事)を題材とした長編小説です。第48回直木賞を受賞しています。

 

工事の総責任者の薩摩藩家老・平田靱負(ゆきえ)を悩ませたのは、膨れ上がる工事費だけでなく、難工事による薩摩藩士たちの事故、病、自害による犠牲者の数々でした。

平田靱負の苦渋は、自然の脅威や幕府の嫌がらせという勝ち目のない戦いに挑まなければならないことです。
特に、幕府に対する抗議の自害者を、幕府をはばかり表向きは「腰の物(刀)にて怪我し相果てた」と報告せざるを得ない心情は、察するに余りあるものがあります。

現在、木曾・長良・揖斐周辺では、治水工事の犠牲になった薩摩藩士たちを「薩摩義士」と呼んでいます。薩摩義士の功績をたたえた記念碑などが建っていることを薩摩藩士たちが知ったらどう思うのでしょうか。

 

生きるために踏み出した一歩

「羅生門」
芥川龍之介(著)
新潮社『羅生門・鼻』より

「羅生門」は、芥川龍之介氏の作品の中でもよく知られている作品です。
芥川龍之介氏は、説話物語の『今昔物語』や『宇治拾遺物語』に題材とした歴史ものをよく書いており、「羅生門」も『今昔物語』をベースにしています。

 

「羅生門」は非常に短い作品で、無駄のない文章からは緊迫感が感じられます。

物語の暗いトーンを印象づけるのは、羅生門の死骸の山のなかで、「金目のものはないか、金にできるものはないか」と死骸あさりをするやせこけた老婆の姿。
老婆は力がないために生きている人間相手の盗人にはなれず、動かない死体相手に盗みを働くしかないのでしょう。

その姿を見た若者が思ったのは、生への執着だったのか、弱肉強食の世界の厳しさだったのか。若者は生きるために大きな一歩を踏み出すのです。

 

歴史・時代小説三昧に!

ここでご紹介した作品は、それも名作です。

作者の世界観・歴史観に惹かれ、同じ作者の別の作品を読みあさるのも楽しみ方の一つです。図書館や本屋に通って歴史・時代三昧の日々を送りましょう!

 


今回ご紹介した書籍

「けつめど」小松重男(著)
光文社『でんぐり侍』より

「わたくしです物語」山本周五郎(著)
新潮社『町奉行日記』より

「祝い人助八」藤沢周平(著)
新潮社『たそがれ清兵衛』より

孤愁の岸杉本苑子(著)

「羅生門」芥川龍之介(著)
新潮社『羅生門・鼻』より


 

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