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壬生義士伝に代表される浅田次郎の新選組三部作を読む


150年ほど前の幕末期に活躍した「最後の武士」と呼ばれる新選組。

最近は、ドラマ化、映画化、漫画化など、いろいろなメディアで新選組が描かれていますが、文学にもかっこよく美しい新選組はいます。

今回は、浅田次郎による究極の新選組三部作をご紹介いたします!

 

新選組とは何者?

人気といえど「幕末の英雄」と言えば、やはり勝者である薩摩・長州藩士。つまり、それに敵対していた新選組は敗者ですので、案外知らないという人も多いかもしれませんね。

そこでまずは、新選組とはいったい何者か、簡単に見ていきましょう。

 

新選組って?

江戸時代末期の動乱期、京都の治安維持のために、江戸で集められた浪士たちによって会津藩の下部組織として組織された武装集団です。

武家の次男以下だけでなく町民・農民をも含む組織であったと言われています。
厳しい新選組局中法度のもとで、内部抗争・粛清をくりかえし、仲間を喪いつつも動乱の時代を駆け抜けた最後の武士の一団といえる組織です。

 

どうしてそんなに人気なの?

新選組はどうしてそんなに人気なのか、と疑問に思う人もいるでしょう。

人気の一端を担っているのは、新選組をモチーフにした乙女ゲームや漫画と思われますが、もともと結成当時から、副長を務めた土方歳三が美形で人気があったようです。

武士を志して戦うために上京した隊士たちの中には、戦い以外の場で切腹や病で命を落としていた者もいること。
また、主要幹部の儚い最期が人々を惹きつけるのかもしれません。

 

浅田次郎「新選組三部作」

著者・浅田次郎という人

ミステリーをはじめ歴史、人情もの、コメディなど、とにかく幅の広い作品を描く作家さんです。

元陸上自衛隊隊員でもあり、91年に詐欺師の一発逆転を狙ったアウトローな物語を描いた『とられてたまるか!』で作家デビューしました。

以後、数々の作品を発表し、96年に中国清王朝末期を舞台に描いた『蒼穹の昴』で直木賞候補、翌97年発表の『鉄道員』で直木賞受賞を果たしました。

 

多くの作品が映像作品化されているので、原作小説を手に取ってみるのもいい機会かもしれませんよ!たくさんのジャンルの作品を生み出されている方なので、いろんな楽しみ方ができます。

 

 

♦第一部『壬生義士伝』

壬生義士伝表紙

壬生義士伝
文藝春秋

第一部の主人公は、知る人ぞ知る新選組隊士・吉村貫一郎。

著者である浅田次郎さんは、長女が岩手県で一人暮らしを始めることをきっかけに、現在の岩手県盛岡市に当たる南部盛岡藩の藩士を主人公とした作品を描こうとしたのが本作を生み出すきっかけになったそうです。

 

物語は、北海道出身の記者が大正4年という新たな時代で「吉村貫一郎」という人物を知るための取材をする、という形で進んでいきます。

取材を引き受けてくれた人物、あるいは当事者の語りのみで紡がれているので、まるで自分の耳で生の言葉を聞いているかのように臨場感は満載。
いろんな人の目に映った、たくさんの吉村という一人の侍の姿は十人十色。「人斬り」と恐れられたり、「守銭奴」と罵られたり、先生として尊敬されていたり……。

一人、二人と話を聞いていくと、次第に見えてくる吉村貫一郎という人の本当の姿とは?
涙なしには読めない、男・吉村貫一郎の一生の物語。ご堪能あれ。

 

♦第二部『輪違屋糸里』

輪違屋糸里表紙

輪違屋糸里
文藝春秋

第二部の物語を紡ぎますのは、新選組という狼たちの隣で生きた気高き女性たちです。

幕末の騒乱を思い浮かべたとき、真っ先に思い浮かぶのはおそらくは刀を片手に走った男たちの姿でしょう。
でも忘れてはいけません、あの動乱の時代で頑張っていたのは女性も変わりはないのです。

 

新選組の闇とも言われる、芹沢鴨暗殺事件。
芹沢暗殺までの新選組内の微妙な空気感、武士になろうとするあがきを女性という新たな視点で描きます。

芹沢と共に斬殺された愛人のお梅、平山五郎の恋人の吉栄、土方歳三を慕う糸里。
彼女たちが見つめた新選組ではない「男」の姿、生き様とは。そして、命を燃やしながら生きる男を慕った女たちの心とは……。

芹沢鴨暗殺に至るまでの緊迫した心理サスペンスを新たな視点から見つめてみるのはいかがでしょうか。

 

♦第三部『一刀斎夢録』

一刀斎夢録表紙

一刀斎夢録
文藝春秋

三部作の最終作を飾るのは、最強と謳われた新選組三番隊隊長・斎藤一。

明治生まれの陸軍中尉は、新しく迎えた「大正」という時代がうまく飲み込めず得意の剣術にもなんだか身に入らない。
そんなとき、ライバルでもあり、友人でもある警視庁の剣術助教である榊吉太郎警部の口から「ある人」の話を聞くことに。その「ある人」とは、幕末の動乱を生き抜いた新選組三番隊組長・斎藤一そのひとであった。

榊警部の話を聞き、上等の酒を手土産に、新選組の生き残り・斎藤一のもとを訪れる梶原中尉。
そこで語られる斎藤が見てきた新選組の運命、時代の変遷とはいったい…?

 

数多の命を奪い仲間の屍を超え、なおも生き続けた男は何を思い、酒に酔うのか。

永倉新八に、「無敵の剣」と言わしめた最強の剣客・斎藤一の迫真の語りで紡がれる本当の幕末、明治維新をご覧あれ。
浅田次郎の織りなす、新選組三部作がここに完結します。

 

新選組の生き様を感じてほしい!

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かわるがわる登場人物がかたる物語は、臨場感満点。文字を読んでいるというのに、まるで語り手のすぐ目の前に座って生身の声でその話を聞いているような感覚で、どんどん読み進めることができます。

どの作品から読んでも、十分に楽しめる構成となっていますが一部、二部、三部と順番に読んでいくことを強く推奨いたします。

武士を目指し、血で血を洗いながら動乱の時代を駆け抜けた彼らの青春、そして人生を、目を凝らして見つめたとき、いままで知らなかった新選組の一面が垣間見えることでしょう。

敗者の美学、という5文字の言葉では到底表すことができない彼らの生き様をぜひとも感じてみてください。

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新選組』浅田次郎(著)、文春文庫

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