文豪作品を読もう! 遠藤周作のもう一つの顔・ユーモア溢れるおもしろエッセイ
臭作のほうが周作よりずっと気が楽で、私にむいている。
自分にある固定したイメージをつくられると息苦しい感じがしてならない。私は三年に一度くらいの割合で堅くるしい小説を書くので、それが発表されたあと、読者から私が、世界、人生に悩みぬいたようなイメージを抱かれるのではないかと思うと、たまらなく嫌である。実際にそんな手紙を読者からもらうと、自分が偽善者のような気がして、精神衛生上とてもわるい。(ぐうたら人間学 狐狸庵閑話 p72)
「沈黙」「海と毒薬」など、人間の真理を突いた小説が人気を呈し、ノーベル文学賞候補にも挙がった遠藤周作。その作風から、遠藤周作に対して”お堅い”イメージを持つ人も少なくないのではないでしょうか?
遠藤周作は、上記の引用文からもわかるように、実はユニークな人でした。『狐狸庵山人』という自身になぞらえたキャラクターが登場するエッセイや、その他、数えきれないほど多くのユーモア溢れるエッセイを発表しています。
遠藤作品の「宗教・人間愛・倫理観など深く鋭いテーマを掲げた純文学」とはまた一味も二味も違った、おもしろエッセイをぜひ愉しんでください。今読んでも古さを感じさせない面白さと、脱力感がクセになりますよ。
ぐうだらでもいいじゃないか!
『ぐうたら人間学 狐狸庵閑話』
講談社
ぐうたら人生の味を開陳する狐狸庵山人の珍妙なる人間学。秀吉の夫婦喧嘩を仲裁する信長に英雄偉人の尻尾を覗き、酒癖のあれこれに人情風俗の妙を知る。権威や独善には背を向け、劣等生的人間に豊かさを見、親愛感を覚える。愛すべきはマヌケ人間、語るべきは気弱人間。人生の味をいかんなく示すエッセイ。(表紙裏)
抱腹絶倒、という言葉がぴったりのエッセイ集。過去に発売された「ぐうたら生活入門」と「狐狸庵閑話」を一冊にまとめたものになります。
はじめて作者のエッセイをよむならまずこの一冊をオススメします。間違いなく驚愕すると思いますので……そのくだらなさと下ネタ満載っぷりに。
たとえば「イザヤ・ベンダサン氏のこと」。正体不明で話題の作家、イザヤ・ベンダサン氏は、おそらく日本人だと推測している作者。その理由は「いざや、便、出さん」をもじったものだと思うから……。と、このような調子なのです。
私は初めて読んだ時、仰天しました。これまでに読んでいた遠藤作品とのギャップに……。くだらないことで笑いたいときにはこの一冊がオススメです。
いやいや、タメになります!
『周作塾 読んでもタメにならないエッセイ』
講談社
金持ちになれる、女にモテる、人生を豊かにする、ツキを呼ぶ――「読んでもタメにならない」とシャレながら、楽しい人生をおくるための機智溢れるヒントを満載して綴る長編エッセイ。諧謔とユーモアをたっぷり詰めこみ、時代の風俗、生きるとは何かについてユニークなメッセージを熱く語る。文庫オリジナル。(表紙裏)
タイトルに反して、遠藤周作の書くエッセイの中でも特にタメになる(?!)エッセイ集。自己啓発本の要素も含んでいるように思います。
くすくす笑いながらも、一理あるとつい感心してしまったのは「彼女があげまんかさげまんかを確認する方法」。作者曰く、男性の運を高める女性と結婚するには、容姿ではわからない。なので、彼女を競馬やくじなど、簡単な運を試せることをしてみよう。(少なくとも5~6回)とのこと。
いろんなものの考え方があるのだな、としみじみ感じる一冊に仕上がっていますよ。
好奇心満載! 賑やかな一冊
『ボクは好奇心のかたまり』
新潮社
いかにもの好きと言われようと、いかに冷や水とけなされようと、生れつきの好奇心のムシはおさまらない――美人女優に面談を強要する、幽霊屋敷を探険に行く、上野の乞食氏と対談する、催眠術の道場を見物に行く、舞台熱が昂じて素人劇団を結成する、無謀にも運転免許に挑戦する、etc、etc。呆れるばかりのもの好き精神を発揮して狐狸庵先生東奔西走。珍妙無類のエッセー集。(表紙裏)
遠藤周作といえば、小説家だけでなく、劇団や合唱団、囲碁集団などいろんな活動をしていたことでも知られていますが、本書はその「好奇心」にフォーカスしたエッセイ集となっています。
いろんなことに挑戦する作者ですが、私が一番共感できたのは運転免許の教習所でのエピソード「ぼくでも車が動かせた」。落とし穴と引っ掛けだけで作られた試験問題集をやっているうち、次第に性格が「疑いぶかく」なりはじめ、人のいうことも素直にきけなくなっていた作者。運転免許を取得している方なら共感できるのではないでしょうか?私自身、この作品を読んで作者に対し親近感を感じるようになりました。
いくつになっても、作者のように好奇心を持って生きていきたいものです。
ユーモアとイタズラ心があふれる
『勇気ある言葉』
集英社
溢れんばかりのユーモア、該博なる知識の所有者・狐狸庵山人が、古今東西、森羅万象の名言、格言に、自由奔放、縦横無尽、手当りしだいに挑戦。迷える心、鬱屈した精神、卑俗な心情をものの見事に解き放つ。笑いと諷刺のうちに人生の諸相を皮肉る、おかしなおかしなエッセイ集。(表紙裏)
毎日新聞の連載をまとめたエッセイ集。古今東西の名言や格言をテーマに皮肉る、少々ブラックユーモアが混じった作品です。
本書で取り上げられている名言・格言の中で、個人的に心に響いたものは「本当の大人というのは、自分のすること、なすこと、必ずしも正しくないということを身にしみて知っている存在である。そして大人でない者はその反対なのである。大人と大人でない者との違いにこれほど明瞭な定義はない」という言葉。
遠藤周作は”イタズラ好き”として知られ、著作によるとユーモアあるイタズラを度々行なっていたようですが、誰かを傷つけたり迷惑になるようなことは一切しなかったのだそう。
また新たな作者の一面を垣間見れる一冊ですよ。
遠藤周作のクセになるエッセイ
どの時代も人間が考えることは一緒なんだな……と思ってしまうほど、古さを感じさせない面白さはクセになりますよ。ぜひ純文学と読み比べてみてくださいね。
今回ご紹介した遠藤周作のエッセイ
■『ぐうたら人間学 狐狸庵閑話』講談社
■『周作塾 読んでもタメにならないエッセイ』講談社
■『ボクは好奇心のかたまり』新潮社
■『勇気ある言葉』集英社
日本が誇る文豪たちの作品。教科書で読んだことのある作品から、ちょっとマイナーなあの作品も!