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原作童話からムーミンの魅力に迫る|『たのしいムーミン一家』を紐解く


老若男女から愛されるムーミン。ここ数年においては、北欧ブームと同時にムーミンブームも到来し、ムーミングッズを持っている人を街でよく見かけるようになりました。

ムーミンは、童話とアニメ両方で愉しめますが、その”色”は大きく異なります。ほのぼのしたアニメに反して、童話は子ども向けの作品とは思えない内容です。はじめてムーミンの童話を読む人は間違いなく驚くはずです。なぜなら、可愛らしいムーミンのイメージを根底から覆す作品に仕上がっているからです。

 

では、具体的にはどのような作品なのでしょうか。文庫本『たのしいムーミン一家』を紐解きながら、ムーミンの魅力に迫りたいと思います。

 

『たのしいムーミン一家』
トーベ・ヤンソン(著)、山室静(訳)
講談社

長い冬眠から目ざめたムーミントロールと仲よしのスナフキンとスニフが、海べりの山の頂上で黒い帽子を発見。ところが、それはものの形をかえてしまう魔法のぼうしだったことから、次々にふしぎな事件がおこる。国際アンデルセン大賞受賞のヤンソンがえがく、白夜のムーミン谷のユーモアとファンタジー(表紙裏より)

 

架空の動物たちが活躍するメルヘンの世界

ムーミンの魅力を一言で言うと「日常を超えた空想の世界と、人間らしさの共存」に尽きると思います。

訳者の山室静さんは、以下のように書いています。

人生の不安や不条理ー飛行おにやモランやニョロニョロの存在などが不気味なかげを投げているのですが、全体はいかにもあたたかい目でながめられて、そういう不気味な存在をも、またトフスランとビフスランや、じゃこうねずみのような、自分かってな存在をも、愛情とユーモアでつつみこむ、人生肯定的な見方が確立している(p280)

 

ムーミンシリーズは、『童話』です。童話だからこそ、夢や空想上の物語が描かれます。現実の世界にはいない架空の動物たちが、読者をメルヘンの世界にいざなってくれます。

ムーミンシリーズは、思いがけない展開やどんでん返しが多いのですが、それはまるで思い通りにいかない人生のよう。でも、最後は必ずハッピーエンドで終わるんですね。なので、安心して読むことができます。

さまざまなキャラクターが、挿絵とともに登場するのもポイント。固定概念で凝り固まった大人読者の想像力を最大限に活性化させてくれます。つくづく、作者の想像力の豊かさには感銘を受けざるをえません。

 

「ムーミン」の人間らしいキャラクターたち

次に、人間らしさという点について触れてみましょう。

架空の動物を主人公にして、いかにもむじゃきに、楽しく、彼らの生活をえがきだしながら、それがそのまま人間の姿を、うつしだしている(解説:p281)

 

ムーミンたちはまるで人間のように生きています。ちょっとしたことで怒ったと思えば、すぐに機嫌を直したり。

本書で私が好きなエピソードのひとつに、一番の友人・スナフキンが、旅に出ることをムーミンに伝えるシーンがあります。

「春のいちばんはじめの日には、ここへかえってきて、またきみの窓の下で口ぶえをふくよ。―― 一年なんか、たちまちすぎるさ」というスナフキンの言葉に、「そうだね。じゃあ、ごきげんよう」と、ムーミンの返事はさらりとしたもの。

あっさりしているなぁと思ったのですが、それは誤解でした。ムーミンは、自分の友だちがうきうきしていることが分かっていたのです。そしてムーミンは、おうちに帰った瞬間、泣き続けます。動物では考えられないことです。

また、人間らしさと言う点では、人間の暗い面も同時に描いています。これも他の絵本や童話とは違うところではないでしょうか。

ムーミンパパは、ふつうの子どもとはすこしちがっていて、だれにも愛してもらえなかったのでした。大きくなってからも、おなじことでした。あらゆる意味で、おそろしい日々を送ってきたのです。(p180)

 

子ども向けの作品とは思えない書きぶりです。ムーミンパパに何があったかは詳しくは触れられていませんが、人間の暗い側面を書くことで、苦々しい現実をさらりと映し出しているのです。

 

不気味でチクっとした毒もあるブラックユーモアの強い作品

これらの魅力を持ったムーミンシリーズ。今回ご紹介した『たのしいムーミン一家』は特にブラックユーモアが強い作品です。時折見える不気味さと、チクっとした毒が面白いのです。

魔物のぼうしをかぶったムーミンが『とんでもない化け物』に変身するシーンがあったり。けんかをしたスニフが「ぼくは生まれてからまだ、そんなくされにしんみたいなへんなつらは、見たことがない」と喚いたり。

おちゃめで好奇心をくすぐる世界ではありますが、アニメのほのぼのとしたイメージとはまた違う面白さが広がっていますよ。

 

「ムーミン」の名言たち

ムーミンシリーズは名言が多いのも特徴です。最後に『たのしいムーミン一家』から、ユニークなフレーズをひとつ紹介したいと思います。

パンケーキとジャムをのせて食べているような人なら、そんなにこわくはありません。話しかけたってだいじょうぶでしょう。(p259)

 

この作品こそ、大人になってから読む価値がある作品だと個人的には思います。

ムーミンシリーズならではの独特の言い回しをぜひ愉しんでくださいね。

 


今回ご紹介した作品
たのしいムーミン一家
トーベ・ヤンソン(著)、山室静(訳)、講談社

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ライター

飯田 萌
フリーランスのライター。一児のママ。出産前まではリクルートで結婚情報誌を担当。現在はWeb媒体にて書籍、音楽、育児など幅広く執筆中。影響を受けた作家は白石一文。趣味はスイーツを愉しむこととドラマ鑑賞。