島本理生 おすすめ小説|美しく繊細な文章に魅了される
更新日:2019/11/18
『ファーストラヴ』が芥川賞を受賞、『ナラタージュ』『Red』が映画化。今、勢いのある作家のひとり、島本理生さん。
今回のコラムでは、島本さんのおすすめ作品を紹介します。
『ファーストラヴ』
『ファーストラヴ』
文藝春秋
第159回直木賞受賞作。
就活中の女子大生が、面接を途中辞退したあと父親の職場へ行き、父親を包丁で殺害する事件が起きます。逮捕時に彼女が発したのは「動機はそちらで見つけてください」という挑発的なセリフ。彼女はなぜ父親を殺したのか? その真相を突き止めるべく、臨床心理士と弁護士の2人が、女子大生の本心を探り続けるストーリーです。
物語は終始、臨床心理士の目線で描かれるのですが、女子大生を調べていくうちに、自身の過去と対峙せざるをえなくなります。
数々の証言で動機が明らかになっていきますが、まさかこんな結末になるとは。作品中に伏線が仕掛けられており、島本作品には珍しくミステリータッチなので、推理しながら読むのもおすすめです。
『ナラタージュ』
『ナラタージュ』
角川書店
島本さんの代表作。島本さんが20歳の時に書いた小説であり、瑞々しい感性が、読者の懐かしい記憶を呼び起こします。
いじめられていた高校時代、自分を救ってくれた“葉山先生”に恋していた泉。傷を抱えながらも、泉と接することで救われていた“葉山先生”。2人は惹かれあいますが、“葉山先生”は結婚していました…。
私が本書を初めて読んだときはまだ幼く、こんな「一生に一度の恋」をしてみたいな、と率直に思ったものでした。
でも、“葉山先生”の方が近い年齢になった今読むと、過去の恋愛を振り返り、感傷的な気持ちになります。泉のひたむきさ、まっすぐさ、切なさが、どこか懐かしく思えます。
ノスタルジーに浸りたい時に読んでみてください。
『リトル・バイ・リトル』
『リトル・バイ・リトル』
KADOKAWAほか
島本さんが高校生の頃に書き、芥川賞候補となった作品。
主人公・ふみの日常の中に、突如現れた淡い恋。少しずつ変わっていく周囲。父との思い出(エアガンで撃たれるなど、ひどい記憶)を時折思い出しますが、その記憶はすっと消えていきます。だって、恋をしているから――。そんなふみを見て、母はある決断をします……。
初期の島本作品は、フレッシュで瑞々しい作風です。飄々と流れるような文章が心地良く、ずっと読んでいたいと思わされます。
あとがきで「ささやかな日常の中に、たくさんの光を見つけ出せるような小説を、これからもずっと書いていけたら良いと思う」と島本さん本人が書いているように、読み終わった後「よし、今日も頑張ろう!」と前向きな気持ちになれる一冊です。
『Red』
『Red』
中央公論新社
島本さんが官能小説という新境地に挑んだ作品。2020年に妻夫木聡さん、夏帆さん主演での映画化が決定している作品でもあります。
本書を一言で言うならば、不倫に走る主婦の物語です。しかし、単なる恋愛小説ではなく、現代の女性が抱える不安や不満、本音が描かれていることから、普遍性のある作品に仕上がっています。
自分の話を聞かない夫、姑への違和感、誰とも理解し合えない孤独。これまでは蓋をして考えないようにしていたものが、堰を切ったように溢れだします。
いつ何時、自分も塔子のようになるか分かりません。境遇や年齢によって、感想が大きく分かれる作品だと思います。
『あられもない祈り』
『あられもない祈り』
河出書房新社
‟私‟と‟あなた“のロマンティックな恋物語。
暴力的でどうしようもない恋人と、金にだらしのない母親に振り回され、自己を否定し続ける‟私‟。誰も信じられず苦しむ主人公の前に現れたのは、婚約者がいる‟あなた‟でした。
物語は、主観的に、‟私‟の心理描写を中心に進みます。どこか地に足のついていないふわふわとした世界が、美しい言葉で飾られ、まるで夢を見ているかのような錯覚を覚えます。
しかし、甘い夢は、一瞬で覚めてしまいます。夢から覚め、現実と向き合わなくてはならなくなった時、‟私‟はどんな決断をするのか? 結末は意外なものでした。
島本さんの魅力ある作品に触れてみて
島本理生さんのおすすめ作品を紹介いたしましたが、この中に気になった作品はありましたか? 美しい小説を読みたくなった時、おすすめの作家さんですよ。
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ライター:飯田 萌