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村山由佳おすすめ小説|王道の恋愛小説から社会派小説も。


更新日:2019/8/23

恋愛小説における名手として知られる村山由佳さん。
読者のみなさまも、一度は村山さんが描くピュアで透明感のある世界に、胸をキュンと高ぶらせた経験があるのでは?

 

村山さんが、代表作『天使の卵 Angel’s Egg』で小説すばる新人賞を受賞したとき、当時の審査員たちは「これだけ凡庸さに徹することができることに感嘆した」のだそうです。

凡庸というのは、目新しくないという意味合いの批判的な言葉に聞こえがちです。でも、いつの時代でも、誰かに恋し、誰かを愛する気持ちやそのプロセスは大きく変わらないはず。
村山さんは、普遍的な「恋愛」を描いているからこそ、多くの人の心を打ち、老若男女に支持されるのです。

ここでは、村山由佳さんの著書から、読んでほしいおすすめの作品をご紹介します。

 

村山由佳さんの代表作
「天使シリーズ」

『天使の卵』表紙

天使シリーズ
集英社

19歳の僕と、27歳の春妃。なんと春妃は、僕のガールフレンドである夏姫の実姉でした……。三者三様の複雑な感情が渦巻くなか、最後に結ばれたのは……?

『天使の卵 Angel’s Egg』『天使の梯子 Angel’s Ladder』『天使の柩 Farewell,Angel』の3部作と、アナザーストーリーの『ヘヴンリー・ブルー Heavenly Blue』の計4巻から成るシリーズ。

小説すばる新人賞受賞作。売上100万冊を突破したミリオンセラー作品であり、日本を代表する恋愛小説とも言えます。

村山さんは「格調高い『文学』でなくていい。全ての人を感動させられなくてもいい。ただ、読んでくれた人のうち、ほんの数人でいいから心から共感してくれるような、無茶苦茶せつない小説をかきたい」と考え、この作品を完成させたのだとか。

この作品を読むと、せつなさに胸が張り裂けそうになります。号泣したいときにはおすすめですよ。

 

甘酸っぱい恋模様
「おいしいコーヒーのいれ方シリーズ」

『キスまでの距離』表紙

おいしいコーヒーのいれ方シリーズ
集英社

おいしいコーヒーのいれ方」10冊と、おいしいコーヒーのいれ方 Second Season」8冊から成るシリーズ。
甘いコーヒーを飲んだときのような、あたたかくほんわかした気持ちを味わいたい方にはこちらをおすすめします。

描かれているのは、高校生の勝利(かつとし)と、いとこのかれんの甘酸っぱい恋。ファースト・キスの喜び、互いへの思いやりが招く優しい嘘、遠距離恋愛、すれ違い……。

定番のシチュエーションだと言う人もいるでしょう。でも、その普遍性こそが、村山作品の読みどころ。登場人物たちの気持ちが手に取るように分かり、その共感が感動を生むのです。

なかなか進展しない2人にやきもきしながらも、どこか懐かしい気持ちになるんですね。

村山さんはあとがきで「活字を追いながら、我がことのようにドキドキして頂けたなら、それほど嬉しいことはありません。コーヒーも、小説も、同じこと。要するに、「おいしいか・おいしくないか」、それだけのことなのですから」と書いています。
ぜひ本書をおいしく味わってみてください。

 

傷を持つ人々の恋愛を描いた癒やしの物語
『青のフェルマータ』

『青のフェルマータ』表紙

青のフェルマータ
集英社

こちらはシリーズものではなく、1冊完結の長編。村山作品の「透明感」を感じたいときにはこの作品をおすすめします。

舞台はとあるイルカの研究所。心に傷を負った里緒が、周囲の人々やイルカと触れ合うことによって、元気を取り戻していく……という王道の人間ドラマ。

ストーリー展開もさることながら、この作品はなんといっても村山さんの筆力が素晴らしいです。
たとえば「わたしは水から顔をあげ、海と区別がつかないくらいに青く澄んだ空を見上げた。ぽっかりと浮かんだ真綿色の雲のおなかが、水を映して、透きとおったエメラルドグリーンに染まっている。夏の匂いがした。風からも、水からも、夏の匂いがしていた」など。

みずみずしく、美しい情景描写にぐいぐい引き込まれること間違いなしの作品ですよ。

 

ひとつの家族をめぐる物語
『星々の舟』

『星々の舟』表紙

星々の舟
文藝春秋

直木賞受賞作。受賞時「この作家がこの一作で、大きな壁を突き破ったことは、間違いないだろう」と審査員に評されたことからもわかるように、村山さんのこれまでのイメージを一新する作品となっています。

描かれているのは、不倫、兄弟間の恋愛、いじめ、虐待、従軍慰安婦といった理不尽な現実。
ですが、決して暗い小説ではなく、社会派小説の一面が垣間見られる『ビターな大人の恋愛小説』に仕上がっています。

本書のポイントは、次男、次女、長女、長男、長男の娘、父の、6人家族それぞれの視点から物語が描かれていること。
家族という共同体のなかでも、それぞれの立場によって、同じ事柄でも全然違って見えてきます。

読み終わった後は考えこんでしまうような深みのある作品ですよ。

 

読み手の心を揺さぶる究極の愛
『嘘 Love Lies』

『嘘 Love Lies』表紙

嘘 Love Lies
新潮社

中学で知り合った秀俊、美月、亮介、陽菜乃は男女4人の仲良しグループだった。ところが、恐ろしい事件をきっかけに重大な秘密を共有することになる。
性格も境遇も異なる4人が、恐怖、怒り、後悔、絶望を抱えながらそれぞれの道を歩むが――。

 

多感な中学生の頃に遭遇した事件をきっかけに、男女4人がトラウマを抱えながら人生を歩んでいく物語。バイオレンスやレガシーが重なり合ったアウトローな世界が描かれます。

恋愛小説を得意としている村山さんですが、本作はそのイメージを一変する重さがあります。大切な人を守るための「嘘」、愛の一部として描かれた「嘘」。これらも本作の魅力です。

 

社会派エンターテインメント
『風は西から』

『風は西から』表紙

風は西から
幻冬舎

食品メーカーに勤める千秋は、居酒屋チェーンで店長になった恋人の健介が自ら命を絶ったことに対し自分を責めていた。

悲しみにくれるなか、千秋は健介の自殺の原因は「労災」ではないかと疑いはじめる。そして、同じ疑いを抱いていた健介の両親とともに、真相究明に立ち上がることになるが――。

 

本書もまた、村山さんの新境地と言える作品で、ブラック企業や過労死を題材とした社会派エンターテインメント。実際の過労自死事件がモデルだそうですが、もちろん人物設定などはフィクションです。

働き方改革が叫ばれる昨今、理不尽な日本社会のあり方を考えさせられる作品と言えます。

とにかく読んでいて胸が苦しくなってきますが、恋人のために戦う千秋を応援せずにはいられません。

 

さまざまな愛の形が描かれる
『遥かなる水の音』

『遥かなる水の音』表紙

遥かなる水の音
集英社

パリに住んでいる緋沙子は、弟である周の遺言を実行するため、周の同居人だったゲイの男・周の親友だったカップルとともに、モロッコのサハラ砂漠へ行くことに。

それぞれ葛藤を抱えた4人がたどり着く旅の果てには何があるのか――?

 

サハラ砂漠へのロードノベルという情緒感がありながら、なぜが遠い異国の話とは思えない切実さが漂う作品です。
それは本作が単なるロードノベルでなく、それぞれの恋愛を描いた作品だからかもしれません。

登場人物が抱える愛はすべて異なるもので、愛にはさまざまな形があることを再確認できます。

最大の魅力は、読者が一緒に旅をしている感覚になれること。主人公たちとモロッコの旅をともにし、愛について考えてみてはいかがでしょうか。

 

アメリカが舞台の長編作品
『翼 cry for the moon』

『翼 cry for the moon』表紙

翼 cry for the moon
集英社

アメリカのボストンで育った真冬は、父の自殺、母からの虐待、学校でのいじめなどによって心に深い傷を抱えていた。

恋人ラリーとともにやっと新たな人生を歩もうとしたとき、またしても真冬に過酷な運命が襲いかかる。
ボロボロに傷ついた真冬の魂は、もう一度羽ばたくことができるのか――?

 

ケガを負って飛べなくなった鳥が、癒やされて再び羽ばたく……。そんなイメージを想像できる作品です。描かれている自然の描写が美しく、真冬の心理描写も非常に繊細に描かれています。

児童虐待や人種差別などの多様な問題が織り交ぜられた本作。考えさせられる内容も多いです。
さまざまな苦悩を乗り越え、懸命に人生を生きようとする真冬の姿に勇気をもらえます。

 

自分の恋人が、兄の恋人に……
『すべての雲は銀の… Silver Lining』

『すべての雲は銀の… Silver Lining』表紙

すべての雲は銀の… Silver Lining
講談社

恋人の由美子を奪ったのは、こともあろうに実の兄だった。

失恋した祐介は大学を休学し、逃げるように信州菅平のペンションで働くことに。
さまざまな人々との出会いや厳しい自然との対峙が、少しずつ祐介の心を変えていくが――。

 

村山さんの巧みな人物描写、心理描写が光る作品です。

派手な展開やどんでん返しなどはありません。しかし、随所に村山さんらしい「心に突き刺さる言葉」がちりばめられているのが特徴です。

傷を負った人たちとの触れあいのなかで、祐介が出した答えとは……?

 

小説の中に「色」が見える
『野生の風』

『野生の風』表紙

野生の風
集英社

ベルリンの壁崩壊の夜に出会ったカメラマンの一馬と、染織家の飛鳥。2人はアフリカのケニアで運命的に再会し、恋に落ちていく。
サバンナの大地で燃え上がった官能の炎は果たしてどうなるのか――。

 

アフリカを舞台に男女の心を奥深くまで描いた恋愛小説。「運命の出会いって本当にあるのかも」と思わせてくれる作品です。

飛鳥が染織家ということもあり、村山さん特有の心理描写だけでなく、さまざまな場面で「色」を感じられるのが特徴。
見たことのないアフリカの景色や染め物の色が見えるようで、小説なのに登場人物が生きる世界を鮮明に感じとることができます。

心揺さぶられる恋愛を堪能してくださいね。

 

透明感のある文章を愉しんで

村山さんの描く恋愛はストレートなものが多く、共感できるものがたくさんあるはず。また、恋愛小説でなくても村山さんのセンスが光ります。

ぜひ、その透明感ある文章をお愉しみください。

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