『モンタギューおじさんの怖い話』には、ただの作り話では終わらない恐怖がある。
更新日:2017/8/6
「怖い」という単語に興味はあるけれど、結局勇気のないカタクラです。
そんなわたしが、「せっかく夏なんだから、1冊くらい怖い本を読みたい!」と思い、見つけた本があります。
それが『モンタギューおじさんの怖い話』。おどろおどろしい文字と、奇妙なイラストに惹かれました。
この作品は児童書。怖いとは言っても、そこまでじゃないはず……本当に?
『モンタギューおじさんの怖い話』あらすじ
『モンタギューおじさんの怖い話』
クリス・プリーストリー(著)、理論社
『モンタギューおじさんの怖い話』は、クリス・プリーストリーの児童書「怖い話」シリーズの1作目で、短編のつまった連作集になっています。
「ききたいかね、エドガー?」
「……もちろんです」
「すこし怖いかもしれんぞ」
「……だいじょうぶです」ぼくは強がって言った。
「よかろう」モンタギューおじさんはじっと炎を見つめた。
「始めるとするか……」(本 そで より)
学校のない日には、遠い親戚であるモンタギューおじさんの屋敷に行くのが日課のエドガー。モンタギューおじさんは、屋敷の中にある「物」にまつわる、不思議で不気味な怖い話をエドガーに話します。
エドガーは、モンタギューおじさんの話に恐怖を感じながらも魅了され、「もっと」という好奇心が勝り、話を聞き続け……。
いつ来ても冬のように寒い森に、葉をつけることのない木。
電気が通っておらず外よりも寒い、暗い屋敷の中。
一度も姿を見たことのないメイド。
誰もいないはずなのに、子どもか誰かが走り回っている気配。
モンタギューおじさんの屋敷の中はもちろん、そこに辿りつくまでの森も、どこもかしこも不気味! おじさんの顔すらよくわかりません。
森を抜け、開きっぱなしにできない小さな門を抜けた瞬間、読者はエドガーとともに屋敷に閉じ込められたような感覚に陥ります。
怖い話が大好きなクリス・プリーストリー
作者のクリス・プリーストリーは、イギリスのイラストレーターであり漫画家。2000年に作家デビューしました。
プリーストリーの書くじわりじわりと迫りくる恐怖は、日本のホラーに通ずるものを感じます。
本作の訳者あとがきにこんなことが書いてありました。
作者のクリス・プリーストリー自身も、子どものころから怖い話が大好きだったそうです。モンタギュー・R・ジェイムズの幽霊話をもとにしたテレビシリーズに夢中になり、エドガー・アラン・ポーからレイ・ブラッド・ベリまで、あらゆる怖い話、奇妙な話をよみあさりました。(訳者あとがき)
モンタギュー・R・ジェイムズとは、近代イギリス怪奇小説の三巨匠とも呼ばれている作家。また、エドガー・アラン・ポーはゴシック風の恐怖小説を書いていた人物です。
プリーストリーは、そんな「彼ら」の小説を読み、そのときに感じた恐怖の経験を生かしてこの本を書いたのだとか。きっとこの2人の名前から、登場人物の名前を付けたのでしょうね。
幼い頃から怖い、奇妙な作品が横にあったプリーストリーにとって、この物語を書くことは必然だったのかもしれません。
読み進めることに不安を煽る挿絵
※イメージ画像
デイヴィッド・ロバーツの描く挿絵も、物語の恐怖を倍増させる重要な役割を果たします。
本作の挿絵を担当しているデイヴィッド・ロバーツは、ミック・ジャクソンの『10の奇妙な話』などでも挿絵を担当しているイラストレーターです。
とても繊細な白黒で描かれたイラストは、「世界一残酷な絵本作家」とも呼ばれるエドワード・ゴーリーを彷彿とさせるとの声も多くありました。
細い線が連なる、不気味で不安定なイラストは、読者に「嫌なことが起こりそう」な不安を予感させます。
子どもたちへの教訓にもなるモンタギューおじさんの怖い話
モンタギューおじさんの話には、必ず子どもが登場します。
「ノボルノ、ヤメロ」と書かれたニレの木に登ろうとする少年。母親の買ってきた額縁の中の肖像画から声がし、その肖像画の少女に自分の願いを叶えてもらおうとする少女など。
登場人物の誰もがほんの少しの不安を抱きながらも、自分の欲求には勝てず、そして最後は……。
モンタギューおじさんの話の怖いところは、聞き終わった後に「ただの作り話か」と安心させてくれないところ。
「怖い」「それ以上はダメだ」と思いながらも、先を知りたい、止めることができない感覚は、誰にでもあり得るものです。
その好奇心は、時として自分への刃となるかもしれないのに。
この作品は、子どもだけでなく、大人への教訓本にもなります。
じんわり不気味な怖い話、読んでみては?
『モンタギューおじさんの怖い話』は、身体が飛び散るなどの、いわゆるスプラッタ系の作品ではありません。
ワッと驚くような「とにかく怖い!」作品でもありません。
なので、「そういう怖さは苦手だけど、怖い本は読んでみたい!」そんなあなたにぜひ読んでほしい1冊です。
しかし、児童書だからと侮ることなかれ。じわりじわりと迫り来る恐怖に、あなたは後ろを振り向きたくなるでしょう。
不気味で、得体の知れない何かが、そこにはいるのです。
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