食欲の秋に読みたい『作家の口福』|作家たちが「食」を語り尽くす!
更新日:2016/10/31
『作家の口福 おかわり』
朝井リョウほか(著)、朝日新聞出版
夕方になって、なんとなく飲まなくてはいられなくなる人とそうでない人がいる。私はもちろん前者です。
あの時間がなくてどうやったら一日に句読点が打てるのだろうか?
なにを飲んで、なにをおつまみにするか、それを考えるだけでたいていの憂さが晴れる。なんてくだらない自分だろうと思うこともあるけれど、私なんてまあその程度の人間だ、と思えればこんなに安上がりで良いことはない。
(『作家の口福 おかわり』p277-278「吉本ばななの口福」より)
お酒が好きな方なら、きっとわかるはず。美味しいお酒とおつまみがあれば、良い気分で1日を締めくくることができますよね。
今回ご紹介する『作家の口福 おかわり』は、20人の作家たち(朝井リョウさん、沖方丁さん、桐生夏生さん、辻村深月さん、湊かなえさん、吉本ばななさんなど、豪華な面々!)が「美味」をテーマに寄稿したアンソロジーです。
一流作家たちが「食」について書いているので、飯テロな作品であるのは間違いないのですが、この作品、それだけではありません。何通りもの楽しみ方ができる本なんです!
作家同士の人間模様が垣間見れる
全くグルメではない私だが、家族と離れ東京でひとり暮らしをしているとやはり、誰かの手料理を食べたくなる。
そんなとき私は、作家仲間の柚木麻子さんと共に、同じく作家仲間である窪美澄さんの家のチャイムを鳴らす。そして、グルメなお二人が作る料理を、次の日の昼食分ぐらいまで頬張り尽くすのだ。
(p13「朝井リョウの口福」より)
モッツァレラチーズを本当にウマいと思ったのは、ローマで、塩野七生さんに連れて行っていただいたレストランで食した時で、あれを超えるものを、私は未だに食べたことがない。
(p157-158「平野啓一郎の口福」より)
「食」というのは、何を食べるか、も重要ですが、誰と食べるか、も重要ですよね。
この作品は「食」というテーマだけに、誰と食べるか、といったことも多く描かれています。
意外性のある組み合わせから、納得のいく(?)組み合わせまで、作家たちの色んな人間模様が見えて面白いですよ。
共感とニヤリ笑いのオンパレード
「スシロー」は、私にとって、自由と孤独が背中合わせであるといつも教えてくれるお店だ。
お気に入りは、アボカドのねっとり感とプリプリした海老の歯ごたえに甘めのマヨネーズが絡み合う「えびアボカド」(税別100円)とネタの下にしのばせた紫蘇が爽やかな「えんがわ」(同100円)である。
(p268〜269「柚木麻子の口福」より)
一番好きな食べ物は?と訊かれると悩んでしまいますが、好きな食べ物を三つ挙げてください、と言われれば、スムーズに出てきます。生レバー、生ウニ、カワハギの薄造り(もちろん、肝付き)、の三つなのですが、生レバーをここから外さざるを得なくなり、随分経ったような気がしています。
(p228「湊かなえの口福」より)
「食」の話題ってなんでこんなに盛り上がるんでしょうか。この作品を読み進めながら、何回「わかる!」と共感したかわかりません。あるあるネタも多く、ついニヤリと笑ってしまったり、吹き出す場面もありました。
20人の中にはエッセイ本を出していない方もいるので、貴重なプライベートを垣間見れる機会かもしれませんね。
飯テロな要素もたっぷり
それは丸くて黄金色で、いつも熱々で、囓るとカリっとして、噛むとじゅわーっとして、中身はほくほくしていた。
コロッケ―――。
(p123「中村航の口福」より)
茹でた小エビと牡蠣に、レタス、玉葱、トマト、そして辛口のソース。パンはバケットだろうか。
自家製マヨネーズとわが潜水艦ツナをたっぷり入れる。それを、よく晴れた秋の、涼気の流れる公園の木陰で、指や口にソースがつくのも厭わず、がつがつ食べるのだ。
(p206-207「堀江敏幸の口福」より)
そうそうたる面々が「食」について書いている作品ですので、言わずもがな、飯テロ要素もあります!
食への描写が事細かに描かれているので、食いしんぼうの方であれば、読んでいると本当におなかがへってきますよ(私はへりました)。
自分にとっての「美味」ってなんだろうなぁ……と、これまで食べた食事を振り返って考えてみるのも楽しいですよ。
食欲の秋に『作家の口福』を!
作家の口福はシリーズ化されており、今回ご紹介した『作家の口福 おかわり』は2作目となっています。(1作目は『作家の口福』という作品です。)
肩肘張らない軽快な掌編が揃っているので、短時間でサクッと本を読みたい時にもお薦めです。食欲の秋にぜひ読んでみてくださいね。
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