読んでおきたい!人気ミステリー作家の処女作
更新日:2019/7/17
処女作とは、作家がはじめて世に発表した作品のことです。
新人賞を受賞したデビュー作を指す場合もありますが、一般的には本として出版されたものを指します。
ここでは、ミステリー作家として活躍している人気作家10人の、最初に出版された処女作を紹介します。
東野圭吾『放課後』
『放課後』
東野圭吾(著)、講談社
数学の教師兼、アーチェリー部の顧問である前島は、誰かに生命を狙われていると感じていた。
そんなある日、同僚が密室の更衣室で毒殺される。そして、さらにもう1人……。
「もしや彼らは自分の身代わりとして殺されたのではないだろうか?」
自分が次こそ殺される番に違いないと、前島は犯人を探しだそうと決意した。
1985年に、江戸川乱歩賞を受賞した学園ミステリー『放課後』の舞台は、名門と呼ばれる私立女子校です。
密室殺人で始まるこの作品。伏線や最後に集約されていく謎解きなど、推理小説の定石を踏まえつつ、それだけでは終わらない仕掛けに醍醐味があります。
それに加えて魅力的なのが、東野さんならではの女性描写。
アーチェリー部の部員、問題児と呼ばれる女生徒、優等生、小悪魔的な同僚教師、前島の妻など、それぞれに思惑を抱える女性心理が、魅力的かつ危うげに描かれます。
特に、思春期の少女の感性こそが作品の根幹です。
事件の本質に女性心理が伺えるのは、後の名作『白夜行』などにも繋がる東野圭吾さんの原点といえるのではないでしょうか。
宮部みゆき『パーフェクト・ブルー』
『パーフェクト・ブルー』
宮部みゆき(著)、東京創元社
事件の発端は、高校野球界のスーパースター・諸岡克彦が、ガソリンを全身にかけられて焼死したことだった。
翌日には克彦の元チームメイトが遺書を残して死亡。克彦の弟・進也と、蓮見探偵事務所の調査員・加代子は、その真相究明に乗り出すが……。
元警察犬マサをストーリーテラーに、物語はテンポよく進んでいきます。
事件の背景に浮かび上がる製薬会社の存在、鍵を握ると考えられていた男の死と、混迷を深めていく事件。
それらは複雑に絡んでいますが、登場するキャラクターの親しみやすさから、本を読み慣れない人でもすぐに引き込まれてしまうでしょう。
軽妙で読みやすい文章なのに事件は陰惨で残酷、次々に生まれる死体、背景にある社会的な警鐘、予定調和で終わらない結末など、宮部みゆきさんらしさはてんこ盛りです。
登場人物は多いですが、一人ひとりに注意を向けて読んで欲しい作品です。
湊かなえ『告白』
『告白』
湊かなえ(著)、双葉社
3学期の終業式の日、教師の森口悠子は、生徒たちにこんな「告白」で始めた。
数ヶ月前に学校のプールで死んだ自分の愛娘は、事故ではなく殺害されたのだということ。
その犯人は、このクラスの生徒である少年「A」と「B」であること。
警察にそのことを言うつもりはないが、その2人に復讐をしかけていること。
そして学校を去った森口だが……。
第6回本屋大賞を受賞した『告白』。娘を失った教師が、犯人だと言われた少年「A」と「B」を追い詰めていく心理サスペンスです。
作者の湊さんはこの作品を発表して以降、「イヤミスの女王」として一躍脚光を浴びました。
「イヤミス」とは「嫌なミステリー」「後味の悪いミステリー」という意味ですが、湊さんはこの作品でミステリー界に1つのジャンルを築くことになったのです。
なぜ、こんなに読後感が悪いのに、湊かなえさんの作品に惹きつけられてしまうのか、とにかく一度読んでみることをおすすめします。
横山秀夫『陰の季節』
『陰の季節』
横山秀夫(著)、文藝春秋
D県警で人事を担当している二渡警視は、天下り先である社団法人を任期が過ぎても辞めないと言い出す尾坂部の真意を探ることに。
二渡は尾坂部が退任しない理由は、「彼のキャリアに残る未解決事件が関係しているのでは?」と考える。そしてその事件に、もうすぐ結婚式を迎える彼の娘が関係していると思い至った。
果たして、尾坂部の真意とは……?
第5回松本清張賞を受賞した『陰の季節』。表題作をはじめ、「地の声」「黒い線」「鞄」の4つの短編が収録されています。
「陰の季節」で描かれるのは刑事事件ものではなく、警察内部に起こった事件や出来事を描く独自の警察小説「D県警シリーズ」の第1弾です。
血なまぐさい殺人事件や派手なアクションはありませんが、警察の内部事情や人間性がしっかりと描かれている正統派の作品でしょう。
伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』
『オーデュボンの祈り』
伊坂幸太郎(著)、新潮社
コンビニ強盗に失敗し、警察から逃げていた伊藤が目を覚ますと、そこは見知らぬ島だった。
不可思議で不条理に満ちたこの島は、江戸時代から外部との交流を持たないという。
島には、未来が見えるらしいカカシの優午、嘘しか言わない画家、島の規律として殺人が許された男などがいる。
ところが伊藤が島に来た翌日、カカシが無残な形で殺されしまう。
果たして犯人は誰なのか? なぜ未来が見えるはずのカカシが、自分の死を予言できなかったのだろうか……?
伊坂さんの作品は、軽妙な語り口、魅力的な登場人物、多くの伏線とラストでの見事な収束などが高く評価されています。
また、伊坂さんの作品では登場人物が他の作品にも度々登場しており、作品がリンクしているのも楽しみな点です。
処女作『オーデュボンの祈り』も例外ではなく、後の作品でも再会できる登場人物がいます。
『オーデュボンの祈り』は、カカシ殺人事件の真相解明を軸に展開していきます。そして、伊藤がたどり着く真実に、読者は驚かされるのではないでしょうか。
「ミステリー」というものの解釈さえ変えてしまう、伊坂幸太郎の発想力に驚かされる処女作です。
松本清張『西郷札』
『西郷札』
松本清張(著)、新潮社
ある日、とある新聞社に展覧会の資料として「西郷札」と、その覚書が届く。そこに記されていたのは、かつて薩軍が発行した紙幣に一攫千金を夢見た樋村雄吾の物語だった。
数々のベストセラー小説を世に送り出した松本清張氏の処女作に位置づけされてる『西郷札』。第25回直木賞候補作にもなった本作は、『傑作短編集3』の中に収められています。
西南戦争の際に薩軍が発行した西郷札をもとに、樋村雄吾の破滅への道を描いた本作。
史実と想像を巧みに織り交ぜており、その構成力や描写力が読者を魅了します。処女作とは思えぬほど完成されている作品です。
一世を風靡する少し前の「松本清張の世界」にぜひ触れてみてくださいね。
池井戸潤『果つる底なき』
『果つる底なき』
池井戸潤(著)、講談社
債権回収担当の銀行員でもある坂本が、謎の言葉を残して死んだ。翌日、坂本が顧客の口座から自分の口座へ送金していたことが明るみに――。
同僚の伊木は、坂本が残した資料のなかから不審な点をみつける。ところが彼の死の真相に迫ろうとした伊木は、さまざまな事件に巻き込まれてしまう。果たして坂本の死の裏側にあるものとは……。
テレビドラマ化されて話題となった「半沢直樹シリーズ」をはじめ、「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」などの名作を生み出している池井戸潤さん。
元銀行員の経歴を生かし、金融会や経済界を舞台にした作品を書き上げています。
処女作となる本書も、銀行が舞台の作品です。池井戸さんは本作で、第44回江戸川乱歩賞を受賞しました。
読者をグイグイと物語に引き込むストーリー展開は、デビュー作にも健在! ミステリーでありながらサスペンス的要素もある池井戸ワールドを満喫してください。
有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇’88』
『月光ゲーム Yの悲劇’88』
有栖川有栖(著)、東京創元社
夏合宿のために矢吹山へやってきた英都大学の推理小説研究会のメンバー(江神・望月・織田・有栖川)は、そこで偶然一緒になった2つの大学生グループと楽しいひと時を過ごしていた。
そんな3日目の朝、山が噴火し下山ができなくなってしまう。さらに翌朝、1人の学生が刺殺体で見つかり、そこには「Y」という文字が……。
極限状態の中、2度目の噴火が彼らを襲う。さらにその晩には、もう1人の学生が刺殺体となって見つかり――。
クローズド・サークルものを定番とする「学生アリスシリーズ」の1作目。道を塞がれ外部と連絡の取れなくなったキャンプ場で殺人事件が繰り返されます。
処女作でありながらロジックが重視された完成度の高いミステリーで、本格ものとして楽しめます。
登場人物がたくさんいるので、メモしながら謎を解いていくのがおすすめです。
探偵役の江神が事件の真相を解明していく様子には、爽快感を感じられますよ。
薬丸岳『天使のナイフ』
『天使のナイフ』
薬丸岳(著)、講談社
檜山貴志の妻である祥子は、生後5ヶ月の娘を守るように殺された。
ところが、なんと犯人は13歳の少年たちだった。彼らは罪に問われることなく、殺人事件は単なる「非行」にすり替わってしまう。
4年後、娘と平穏に暮らしていた貴志のもとに警察が現れる。そして、自分が少年殺しの容疑者になっていると聞かされた貴志。殺された少年は、かつて妻を殺した少年の1人だったのだ。
「殺してやりたい」
そんな気持ちは確かにあったが、貴志は少年を殺していない。一体誰が――。
第51回江戸川乱歩賞に輝いた本書は、デリケートな少年犯罪を扱う社会派ミステリーです。
事件の被害者の立場だけでなく、加害者や周囲の人の視点からも丁寧に描かれます。重いテーマであるため考えさせられる部分が多く、少年犯罪や少年法が抱える問題を再考する機会になるかもしれません。
感情表現に優れており、構成力も処女作とは思えないレベルです。江戸川乱歩賞の受賞にも納得の傑作です。
綾辻行人『十角館の殺人』
『十角館の殺人』
綾辻行人(著)、講談社
大学の推理小説研究会の面々が訪れたのは、十角形の奇妙な館が建つ無人の孤島。彼らがこの島を訪れた理由は、半年前に起きて迷宮入りとなった凄惨な四重殺人事件だ。
事件が起きたのは「十角館」と呼ばれる建物の中で、館を建てた建築家の中村青司と青司の妻、使用人夫婦の焼死体が大量の睡眠薬とともに見つかった。
ミステリー好きの研究会のメンバー7人は、そんな島で1週間過ごすそうとしていた。ところが1人、また1人とメンバーが殺害されていき――。
「館シリーズ」の1作目となる本書は、ミステリー好きにはたまらない孤島を舞台にしたクローズド・サークルものの傑作。
新本格ミステリーブームを巻き起こしたと言われるほど、日本のミステリー界に多大な影響を及ぼしました。
物理トリックより叙述トリックが得意な綾辻さんですが、本書でも叙述トリックが用いられています。そして、数ある叙述トリックものの中でもクオリティーの高さは群を抜いています。
気に入った方は、「館シリーズ」全9作品を制覇してくださいね!
まずは処女作から読んでみては?
ベストセラー作家は、処女作の時にすでに、完成された世界を確立しているのですね。どの作品も後の作品と比べて劣ることなく、原点として読み継がれる作品です。
もし、好きな作家や読んだことのない作家がいたら、まずは処女作から読んでみませんか。
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