少し不思議な伊坂幸太郎おすすめ作品|日常の中の非日常の物語
更新日:2016/8/2
伊坂幸太郎さんは、日常の中にちょっとした不思議な要素を加えた作品を多く執筆している作家です。デビュー作の『オーデュボンの祈り』も喋るカカシがいる架空の島での物語でした。
ここでは、少し不思議な世界設定の伊坂幸太郎さんの作品を5作紹介していきます。独特で洒脱な伊坂ワールドを堪能できる作品を用意しました。
『死神の精度』
『死神の精度』
文藝春秋
~あらすじ~
人間の世界にやってきた死神の千葉は、一週間後に死ぬとされる対象を観察し、その人間の生死を決める。
千葉が「可」と判断すればその対象者は死ぬ。一方、千葉が「見送り」と判断すれば、対象者が死ぬことはない。
これは、千葉と6人の人間の話。6つの話が語られた時、話は奇妙なつながりを見せ、爽快な結末を迎える。
音楽好きな死神の話
本作は、死神というファンタジー要素を加えたミステリー作品で、6編が収録されている連作短編集となっています。各話独立した話として描かれているようで、最終的に少しの繋がりを見せるところが面白いところ。
こういった巧みな構成が魅力の1作ですが、本作は作品に漂うどこか退廃的な空気感も非常に魅力的。普段ミステリーをあまり読まない方にも是非読んでほしい作品です。
『魔王』
『魔王』
講談社
~あらすじ~
会社員の安藤は、自分が不思議な能力を持っていることに気が付く。その能力とは、相手に自分の喋らせたい言葉を喋らせる「腹話術」――。
その頃、政治家の犬養舜二が世間をにぎわせていた。歯に衣着せない物言いの犬養は、若者を中心とした国民から支持を得ているのだ。
しかし、安藤は犬養と犬養を取り巻くその環境に違和感を抱くように……。そこで安藤は、とある行動に出ることを決意する。
伊坂幸太郎が描く大衆小説
本作は、安藤という男の物語です。安藤は、常に何かを考えているような男で、周囲から「考察魔」と呼ばれているほどです。
そんな安藤は、いろいろなものに流されていく大衆に違和感や危機感を覚えます。そして、その流されていく恐怖が本作のテーマになっていると考えられます。
洒脱な会話と面白い設定を下敷きにして展開される物語は含蓄があり、考えさせられる内容となっています。
『モダンタイムス』
『モダンタイムス』
講談社
~あらすじ~
現在から50年後の物語。
会社員の渡辺拓海は、失踪した先輩の仕事を引き継ぐこととなる。その仕事とは、ある出会い系サイトの仕様変更だった。そしてその仕事を受けてから、安藤の日常が少しずつおかしくなっていく。
同僚や上司に起きる不幸。よく当たる不思議な占い。失踪した先輩の行方。これらが絡まり合っていくなかで、過去の1つの事件が浮き彫りになっていく。
『魔王』のその後の物語
本作は、「魔王」の50年後の時代を書いた作品となっています。そのため、魔王で出てきた登場人物が何人か登場します。そしてその登場人物が物語の鍵を握っています。
本作はとあるキーワードをインターネットで検索したことが原因で、命を狙われる人たちを描いた話です。そこには情報社会や管理社会に警鐘を鳴らすようなメッセージが込められています。
『終末のフール』
『終末のフール』
集英社
~あらすじ~
3年後に小惑星が衝突し、地球が滅亡するとされる世界。小惑星の衝突が発表された当時はパニックに陥っていた街も、今では小康状態を保っていた。
余命3年となった全人類は、その世界で一体何を想うのか……。
確執があった娘と再会する父。マスコミに妹を殺された兄。子供を身ごもった夫婦。余命3年の中で見つける人生の答えは果たして――。
伊坂幸太郎が描く終末世界
本作は、終末世界で生きる人々の物語となっています。
描かれるのは、終末世界で起きると考えられる略奪行為や暴力行為といったものではありません。本作で描かれるのは、どこにでもあるような些細な幸福や衝突です。
3年後に死んでしまうという設定が、それら些細な出来事を現実世界より、切実に浮かび上がらせています。
読後は、もしあと3年しか生きられなかったらどうするのかと、周囲に訊いてみたくなるような作品です。
『SOSの猿』
『SOSの猿』
中央公論新社
~あらすじ~
困っている人を見かけると放っておくことができない遠藤は、本業とは別に悪魔祓いの仕事をしていた。
そんな遠藤が、幼馴染から1つの依頼をされる。それは、引きこもりの息子をなんとかしてほしいというものだった。
一方その頃、会社員の五十嵐は、300億円の損失を出した株誤発注事件の調査を行っていた。
そんな折、五十嵐の前に「西遊記」に出てくる猿が現れて――。
虚構と現実の話
本作では、遠藤視点の「私の話」と、五十嵐視点の「猿の話」が交互に語られていきます。2つの話が少しずつ絡まり合い、やがて株の誤発注事件の真相が明らかに――。
「猿の話」では、斉天大聖を名乗る猿が五十嵐の前に現れ五十嵐を惑わせるのですが、この設定が物語の先を読みづらくしていてます。最後まで目が離せませんよ。
本作は漫画家の五十嵐大介さんが描く「SARU」という漫画とリンクしているため、この作品が気に入った方は是非そちらも手に取ることをおすすめします。
伊坂ワールドに足を踏み入れよう!
以上が少し不思議な伊坂ワールドを堪能できる5作でした。
伊坂幸太郎さんは、上述した5作以外にもファンタジーともSFともいえる不思議な作品を発表しています。紹介した中で面白いと思った作品があれば、ぜひ伊坂幸太郎さんという作家にも注目してみてください。
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